『エピソードオブRED EPILOGUE』

『エピソードオブRED EPILOGUE』



『二重奏』


ワノ国近海に浮かぶレッドホース号。

只今この船では、赤髪海賊団が激しい口論を繰り広げていた。

その内容とは…


「お頭!!ルフィに会いに行こう!!」

「あいつはもう立派な海賊だ!!」

「待て、おれはまだウソップのやつに…」

「キッドのガキもまだ…」

そう、ルフィに会うか否かである。


エレジアでのライブ事件からしばらく経ち、世界がそれどころではなくなり始めた頃、

新たなニュースが世界を轟かせていた。

「鎖国国家ワノ国にて、カイドウとビッグマムが陥落」

「新四皇に千両道化と麦わら」

混乱する世界に、また一つ新たな節目が打たれていた。


そんな中、かつて世界を賑わせた歌姫『ウタ』もまた、

新聞を片手にその船で口論を見守っていた。

「なあウタ、お前だってルフィに会いたいよな!!」

「え、私!?」

唐突に話を振られたウタが慌てふためくのを、新聞をおろした船長が止める。

「やめろお前ら……まだルフィに会うつもりはない」

船長の非情な宣言に船員達がざわめく中、ウタはどこか安心していた。


あれから、再びライブ電伝虫を利用して始めた配信は、当然のごとく難航した。

あれだけの事件を引き起こしたウタに対し、世間の反応は勿論冷たいものが多かった。

運がいいといえば、ウタの能力の関係上多くの人が恐れで配信を切ることが多く、配信での暴言が少なかったことくらいだろう。

それでもまったくないわけじゃない…激怒や失望の声も多く聞いた。

それでも、ウタは配信を続けた。

きっと自分の歌で助けられる人がいると信じた。

その結果、少しずつまた歌を聞いてくれる人は増え始めてくれていた。


だが、未だ答えは見えない。

自分の新時代に迷う間に、ルフィは先に進んでいる。

新聞に映る様変わりしたその姿を見てよけいにそれを感じていた。


「…あまり残念でもなさそうだなウタ」

シャンクスがウタの隣に立つ。

「…今会っても、私の約束は守れそうにないから」

すっかり、シャンクスにはまた本音を許せる関係に戻っていた。

この船に再び乗ってから、ウタも何度も何度も精神的に支えられている。

「…そろそろ配信の時間だったか?」

「あ、そっか…それじゃ、行ってくるね」

今日はまた配信の日だった。

いつも配信している自室に向かう。


扉を閉じる直前、シャンクスとベックマンの会話が耳に入った。


「なァベック…そろそろ奪ろうか」


「<ひと繋ぎの大秘宝>」


扉の奥で、ウタは固まった。

いよいよシャンクスがワンピースを狙う。

それはつまり、海賊王を目指すルフィとぶつかるということだ。

…再会が嫌でも迫るのを感じながら、配信の準備を進める。


「…みんな、元気!?ウタだよ!!」

ライブ電伝虫に話しかければ、反応は様々だ。

すぐに切るもの、軽蔑した目のもの…こちらを待ってくれているもの。

せめて見てくれている人には、少しでも幸福を感じてほしい。

「今日も来てくれてありがとう…それじゃまず…あれ?」

その時、いつもと違う様子のものが映っていることに気づいた。

『おい見ろ、なんか映ったぞ?』

『ほんとや、なんだろねこれ?』

観たことのない格好の人達が、一つの画面に集まっている。

よく見ると背景が賑やかだ。何かの催しだろうか?


「えっと、初めての人達かな?今日は来てくれてありがとう!!みんなはどこの人達?」

『うん?ここはワノ国じゃが…それよりこれは……おい、姫さん?』


ワノ国

ルフィ達の暴れたという目の前の国。

その単語も驚愕だったが、それよりもウタの目に止まったのは背景だった。

人々の後ろで一瞬見えた、手を長く伸ばして飛んでいく人影。

…間違いなく、ルフィだった。

『今日は新しい将軍様の祝いでね!!ワノ国は平和になったよ!!』

『これからは腹いっぱい食えるんだってさ!!』

『これもジョイボーイって人のおかげなんだとよ!!』

そう笑顔で話す人たち。

もしかしたらルフィのことは、彼らは伏せられてるのかもしれない。

それもルフィらしかった。


「そっか……それじゃ、私の歌でもっと楽しくなろう!!」

その言葉とともにマイクを準備する。

このまま負けているわけにはいかない。

いつかの夢は、今も心臓のように鼓動を続けている。

映像の向こうのルフィに、そしてあちらの『自分達』に負けっぱなしのつもりなど、ウタには一切なかった。

「私はウタ!!歌で新時代を作る女!!よろしく!!」

その言葉とともに、一曲目を歌い始めた。

〜〜


サニー号、専用の防音室で、ウタはそれを眺めていた。

これを見ていると、あの騒ぎの前のあの日を思い出す。

あの日の新聞で、サボやビビのことを知り…そして、ルフィの「夢の果て」が一味全員に共有された。

かつて誓った「新時代」に向けて、着々と進み続けているのを実感する。


先日の事件を思い出す。

今でも別世界など夢のようだった。

…異なる自分の夢が少し歪だったのは今でも複雑だったが、あまり責める気にもなれなかった。

結局どれも自分の人生…つまりは本当にめぐり合わせみたいなものなのだろう。

あの自分も、そして…


「ウター、メシだぞー?」

突如扉からルフィの首が現れる。わざわざ呼びに来てくれたらしい。

「ほんと?分かった、すぐ行くね!!」

「おう!!」

返事とともにルフィの首が消えていく。どうやら首だけ伸ばしていたらしい。

「…私も頑張るから…頑張れよ、私」

その言葉とともに持っていたそれを机において部屋を飛び出す。

机の上には、新時代のシンボルの描かれた缶バッジが輝いていた。


fin











『独奏』

少しずつ、世界が淡く消えるのが分かる。

最後に残った力の名残りも、いよいよ終わるときが来たようだ。


瞼の裏に見えるのは、幸せそうな彼ら彼女ら。

ぶつかり、和解し、そして再び各々の夢に向かい続けるいのち。

その憧憬を思い浮かべながら、消えゆく世界に身を任せようとする。


その時、あの闇が再び目の前に漂う。

どうやらまだ消えることを認めたくないらしい。


「…あんたももう終わりだよ…ゆっくり休みな」

そう伝えても、拒否するかのように闇が揺れる。


「…ほら、手繋いで…私も一緒だから、寂しくないよ」

そう手を差し伸べれば、ゆっくりと闇から伸びる手がそれを取る。

これでいい。これでやっとすべてが終わる。

自分の家族や友だけでなく、別の世界すら巻き込んだ騒動が終わりを告げる。

その安堵と共に瞳を閉じた。


暗闇に浮かぶ。

もし手が繋がれていなかったら、隣の存在を認識できなかっただろう。

そんなとき、不意に温かみを感じた。

そちらを見れば、闇に場違いな炎がいつの間にか伸びていている。

その先に見える光は、きっと自分達の行くべきところなのだろう。

もしかしたら、人の良い誰かがわざわざ道標を作ってくれたのかもしれない。

「…行こっか」

その言葉とともに、その炎の道を歩み始めた。


fin

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