エチチしないと出れない部屋

エチチしないと出れない部屋


――キットさんは、鉄獣戦線のメカニックとエチチしないと出れない部屋職人の二足わらじを履いていると評判ですね。なぜその二つをするようになったか教えてくれませんか?

 取材班の不躾な質問にキットさんは笑顔で答えてくれた。

「あー、あたしの中でその二つはそんなに離れたものではないんですにゃ。どちらの技術にも互換性があるから、趣味と実益の両立というやつですにゃ」

――えっ、この二つの技術が互換性があると?

「最初のエチチ部屋の壁は対城兵器の威力を測定するためのものだったんですにゃ。その壁使ってシュライグとリズ姉を閉じ込めましたにゃ。オートロックを付けただけの部屋で現行バージョンの自動的に扉がが開くギミックはなかったにゃ」

――して、その結果は?

「惨敗です。シュライグがピッキングして部屋を出ましたにゃ。それからというもの開発に開発を重ねて中で起こったことを感知して自動的に開く部屋を作りましたにゃ。エチチ部屋を作るために開発した技術が鉄獣戦線のみんなの武器を強化することに繋がりますにゃ。すごくやりがいのある仕事です」

――ついに絶対出られない部屋を開発できたとのことですが、意気込みはどうでしょうか?

「今日こそリズ姉はエチチすると思っていますにゃ。シュライグも責任を取る覚悟を用意をしておくにゃ」


 シュライグが目を覚ますと、そこは白い部屋であった。ベッドが一つ置かれておりその上でフェリジットが横になっている。そしてその横には一人暮らし向けの小さな冷蔵庫が置かれていた。

「キットか」

シュライグはぽつりと呟いた。この声も聞いているはずがない。四つ前の部屋からモニターやキットが直接何かをする仕掛けはなくなった。

「出る手段を考えなければな……」

 エチチしないと出れない部屋、と書かれたプレートを見る。そしてシュライグは考え始めた。

 キットの考えることはよくわかる。鉄獣の将として力だけでなく機転も必要だということだ。キットやフェリジットは俺を信頼してくれているのだろう。フェリジットを抱くことで開くギミックとは、俺が彼女を傷つけるということになる。それは鉄獣の将失格ということだ。

「まずは壁を調べる」

 シュライグは定石を選んだ。空洞があれば、そこを壊し足がかりとする。


「シュライグ、どうしたの?」

ベッドに座り項垂れる彼は普段よりも小さく見えた。

「フェリジット、俺は鉄獣の将失格かもしれない」

「そんなことないわよ。どうして?」

「キットの作ったエチチ部屋から出る手かがりすら掴めない」

フェリジットは黙った。シュライグの言葉を聞いていく。

「壁も床も天井も冷蔵庫の中もすべて調べた。この部屋の弱点はない。どうやって作ったのかも分からない」

俺の負けだ、シュライグはそう呟いた。

「じゃあ、シュライグ。私とエッチするの?」

 フェリジットはそわそわとシュライグに尋ねた。このクソボケがついに腹をくくったのかと思った。

「抱きたくない」

「えっ……」

 強めの否定にフェリジットは少し傷つきそうになった。彼女はシュライグが女として自分を見てくれないのかと思った。

「これは俺に課された試練だ。俺は大切な仲間を守れないと認めたようなものだ」

「シュライグ、そういう意図はないと思うわ」

 フェリジットは彼の手を握った。シュライグが仲間を大切に思う気持ちは充分に理解できる。けれど今回の話は少し違う。

「キットはシュライグと私がくっついたらいいなーなんて思ってるの。キットなりに恋の応援しているんだわ」

「フェリジットはどうなんだ?」

「逆に聞くけど、私じゃいや?」

少し悪戯っぽくフェリジットは言った。

「そうか」

 シュライグはフェリジットの手を握り返した。

「視点を変えればよかったんだな」

 シュライグはそこで息を呑んだ。この部屋に対する疑問が一つずつ解消されていく。どうやって建てたか分からない謎の白い部屋。材質も弱点も調べたかわからない。

「まさか、この部屋の仕掛けはそういうことなのか?」

「どういうこと?」

 フェリジットの目が泳いだ。キットはあらかじめ部屋の情報を姉に伝えてある。答え合わせにはそれで十分であった。

「フェリジットにはこの白い部屋が見えているのか?」

「いいえ」

 フェリジットは観念したかのように投げやりに答える。こうしてエチチしないと出れない部屋は開かれる。シュライグの暗示はここで解けた。白い壁や天井は消滅し、そこはアジトの一室、フェリジットの部屋であった。

「すごい技術だ」

 幻覚や後催眠の類いだとシュライグは考える。そしてキットの今まで作った部屋が物理的なものであったという自分の先入観に騙されていたのだ。

「えっと、脱出おめでとう?」

 フェリジットは名残惜しそうに言った。シュライグの行動は予想がつく。キットの元に行ってこの技術を戦いに転用しようとするのだろう。しかしシュライグはフェリジットを見つめた。

「続ける。いいか?」

 シュライグはフェリジットの手を強く握る。フェリジットの答えは……


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