エイパムのイタズラ
「まいったなぁ」
「まいったのです」
そう悲嘆するラベンとテルの姿は全裸であった。
『純白の凍土』の奥深くにあるというその秘湯は使った者の疲れを一瞬に癒やすとシンジュ団の間でまことしやかに語られている。
ポケモン図鑑の精査のために様々な分野にも手を伸ばしているラベンは、シンジュ団て独自に伝わる文化の調査のため、そして日頃の疲れを癒やしたいというひとつまみの不純を携え、助手であるテルを伴いながら秘湯に来たのである。
結果から言うと秘湯はただの文字通りの秘湯であり、一瞬で今までの疲れを癒やすには至らなかったが、雪降る空に浮かぶ月を眺めながら湯に浸かるのは、なかなか乙なものであった。
ラベンとテルは日頃からのお互いの働きに感謝し称えながら、湯に浸かっていた。
しかし、その時!
イタズラ好きのエイパムが2人の衣類を一切合切持ち出してしまったのである!
気がついた時は後の祭り、エイパムを追いかけようとするも凍土と言う環境が2人の足を止める。
そう、現在2人は全裸なのである。
テルの肉体は同世代より少し筋肉質で身体が引き締まっているが、それがかえって大人より華奢な印象を受けることになる。
まだ本格的な二次性徴が来てないからか、身体に成人の証も生えておらず、寒さで縮んでしまっているのか、その象徴はテルのまだ小さな手で収まってしまうほどであった。
対してラベンは異国の人だけあって、その身体は太く大柄であった。
普段の紳士な振る舞いで気が付かなかったが彼もなかなかの恵体である。
まだ、少年のテルとは違い体中には男性ホルモンによって成人の証である黒くしっかりした体毛が生えており、胸には立派なギャランドゥをたたえている。
肝心の象徴はラベン自身の手には収まらず、エイパムのお情けで難を逃れた、あのポンポンがついた帽子の中に収められている。
しかし、テルとは決定的に違うのは体中に張り巡らせる傷の数であろう。
褐色の肌でも、はっきりわかるほど化膿した傷口や、かつて追ったであろう引っ掻き傷の跡が見える。
もちろんテルも調査隊として危険な場所やポケモンに立ちはだかることもある。今だって手の甲にはピカチュウに引っ掻かれた傷もある。
だが、ラベンの傷はその数の比ではない。なぜならばラベンはポケモンの生態をより客観的に再現性のあるデータとして膨大な数の検証をこなさなければならず、あえて危険な状況を再現し、自身の身体で体験して図鑑にしたためているからである
そのため現場でポケモンを捕獲するテルやショウ以上に危険に身をやつさなければならない。
全てはより正確な情報を全ての人に共有するために。
そのような執念にも似た情熱を秘めるラベンの冷静な頭脳が叩き出した提案は実に合理的かつシンプルであった。
「この様な姿で、凍土を渡るのは自殺行為なのです。ここは大人しく湯に浸かってギンガ団の救助を待っていましょう!」
様々な知識を総合し、自分達の置かれた状況を分析した結果である。
ポケモンのように牙も爪も翼もない自分達がこの広大なヒスイの地に挑もうなどそれは傲慢なのだ。
「えー!もうラベン博士はのんきなんだからぁ!」
血気盛んなテルの不満をよそにラベンはいそいそと湯に再び潜ったのであった。
頼りないとそしられてもラベンはおのが道を信じるだけ、それこそが自身の夢のへ至る道だとラベンは知っているのである。