ウタin海列車
「メリーを見捨てるならそのボロ人形も捨てやがれ!」
一味を出て行ったウソップの言葉が頭から離れない。
一味で1番役に立ってない私はこれ以上迷惑かけたくなくて黙ってこっそりと宿を離れた。
ルフィは海賊王になる男だ。そんなルフィの足を私はこれ以上引っ張りたくない。アラバスタにせよ、空島にせよ、青雉の件にせよ私は何もしてやれなかった。
これからどうしよう。トボトボと賑やかな通りの中を歩きながら思う。
少なくともこの島からは離れたいとは思う。この島にいたらきっとルフィなら見つけてくれるという確信があるからだ。
その時思い出した。この島には海列車というものが運行しているのだと。確か三つの島と繋がっていると聞いた。どうせならそのどちらかに移り住むのもいいのかもしれない。その後の事はさっぱりだがとにかくこの島から離れなくては。
お昼少し前の便に乗ろうと人混みにまぎれて行こうとしたが乗客のペットの犬に吠えられ追いかけ回された。危うく食べられるところだったけれど何とか逃げおおせた。
だけどあれ以来大勢の乗客を見るたびに乗るのが躊躇われた。
こうなったら最終の便に乗ろう。夜遅くだから人気も昼間よりかは少ないだろうし人に極力見られないだろう。
ずっと駅内にいるのも何なので駅周辺を散策する事にした。やがて薄暗くなるに連れて空模様もそれに合わせて悪くなって来た。そういえば駅の人達がなんだか高波がどうとか避難がどうとか言っていたのを思い出す。そうこうしているうちに雨が降りそうだったので急いで駅の中へ戻った。この綿と布で出来た体では水を吸ってしまいその度に動きにくくなるからだ。つくづくこの体が恨めしく思う。
人に見られない様ベンチの足に隠れる様に待ってるとやがて別の島から海列車が戻って来た。
しかし何か変だ。中からは政府の役人と思われしスーツの人ばかり出てくるではないか。少々不審に思ったけどこれが最終の便だ。ぐずぐずしてられない。物資を運ぶ荷車が私が隠れているベンチの側まで通って来たところで隙を見て荷車に飛び乗った。
列車には乗れたが貨物室だ。本当はふかふかの椅子とかがある客室に乗りたかったがまあいいだろう。贅沢は言えない。それに貨物室なら隠れやすいし何より人もあまり来ないだろう。そう思っていると不意にしがみ付いていた荷物が放り出され役人の前へ私の姿があらわとなった。思わず私はピタッと固まって動かないふりをする。
「おっなんだこの人形なんでこんな奴が荷物に入ってんだ?」
「そうか分かった!こりゃカリファさんの私物だ。あの人ああ見えてこんな可愛い趣味持ってんだな」
……どうやらなんとか事なきを得た様だ。しかし話を聞く限りどうやら政府の所有する司法の島へと向かう便に乗ってしまった様だ。これは乗る便を間違えてしまったのかもしれない。それにしても確かカリファさんってあの市長さんの秘書さんだよね。彼女も乗るんだろうか、この政府の役人達だらけの電車に。何処かおかしい…そうおもいふけっていると私を掴んでいる役人が私を木箱の中に押し込めてしまった。
いつ出発するのだろうか。あれから荷物の中に押し込められた私はなんとか脱出しドアを開けようとしたが外から鍵を閉められてしまいならば窓と思ったがはめ込み式でにっちもさっちもいかなかった。仕方がないので木箱の上で丸くなる様に体育座りしていると何やら聞き覚えのある声が近づいて来た。
「チキショー!!放せっつってんだろー!!」
間違いない。ウソップだ。どうしてこんな所に?メリーはどうしたんだろうか?そして何よりどうして捕まっているんだろう。気が気でならずこっそりと窓のヘリから飛び降り荷物の中に隠れる。
やがてウソップと青い髪のチンピラが担ぎ込まれ私のいる貨物車に放り出された。
「痛で!!」
「痛でーーー!!」
役人達が一旦全員ではからっているのを見、チャンスとばかりにウソップの前へピョンと飛び降りた
「ウタ!お前どうして………」
キィ!!
返事の代わりに背中のオルゴールが鳴る。
幸い袋を縛ってる縄の結び目自体は簡単なもので人形の体でも何とか解くことが出来た。しかしウソップを縛ってる縄はとても固くにっちもさっちも上手くいかなかった。果物ナイフ等切れるものはないだろうか。キョロキョロと車内を散策するとまた貨物車のドアが開き先程の役人たちがさっきより大勢引き連れて戻って来た。
「何だこの人形!?動いたぞ!」
「あっ!海賊の拘束を解こうとしてたな。お前この海賊の仲間か!」
バレた!ウソップの拘束も解けきってないしチンピラも縛られたままだ。ここで戦えるのは私だけだ。私はピョンとウソップの頭から降りるとグッと両腕をあげファイティングポーズをとる。
「こんなボロ人形なんか仲間じゃねぇ!誰がそんな小せえ弱い奴--」
後ろでウソップが叫んでいた。そうだよね、ウソップはもう……でもだからと言ってここで見捨てるのは海賊が廃るというものだ。それにようやく分かったよ。ウソップの気持ちが。やっぱりウソップは強いんだね。そうこうしているうちに役人の一人が私を捕まえようとしているのか片手を突き出して掴もうとしていた。その動きから完全に私の事を舐めていると判断し、即座に床を思いきり蹴って役人の顔に頭突きを喰らわす。もちろんふわふわの綿が詰まってる頭ではあまり効果が見込めない事はわかってるのですぐにボテボテの腕を思いきり振り回す。余りの突然の事にその役人は腰を抜かし悶絶する。
「こいつ!」
だけどそれで他の役人達の警戒心は高まったのか全員私に銃をガチャと向けた。あーこれは逃げられないなぁ。そう思ってた矢先にまた貨物車のドアが開いた。
「おいテメェら、その娘をどうする気だ?」
そう言ってうちの船のコックさんは咥えたタバコに灯りをつけた。
「オロすぞ」
それからサンジは瞬く間に政府の役人達を蹴り飛ばしていった。その華麗さにボテボテの腕で拍手するとサンジは急に私に近づいて膝をついた。
「ウタちゃん、勝手にいなくならないでくれ。俺たちはずっと心配してたんだ。ナミさんもマリモもチョッパーも」
あぁ、やっぱりそうだよね。優しいみんなの事だきっと私の事も必死になって探したに違いない。
「……それから、ルフィも。あいつはろくに食事も取らずに必死になってロビンちゃんやウタちゃんを探してたんだ」
えっ……ルフィあまりご飯食べてないの?そんなのダメだよ!小さい頃からチキンレース出来る程の大食漢のルフィが食べないなんて。私のせいだ。私が勝手な事をしたから……
私がシュンと髪を仔犬の耳の様に垂れてしまったのを見たからかサンジは私を持ち上げ肩に乗っけてくれた。
「だからもう黙って出て行こうとするなよ。分かったかい?」
そう言ってポンポンと優しく頭を撫でてくれるサンジに私はキィ!とオルゴールの音を出して頷いた。
うん、そうだよね。人形の体でも私はルフィのお姉さんみたいなものだ。うじうじとめげてはいられないね!
「お、おいサンジ!お前も何で海列車にいるんだ!!?」
あっ、それわたしも気になった。どうしてサンジ君この海列車に乗っているんだろう?サンジとウソップが軽い口喧嘩してる中フムフムとボテボテの腕を縫い目で出来た口元に当て考え込んだ
「お前ら…つまり海賊仲間か……」
「「元な」」
「誰だてめェは」
サンジがそう言ってようやくチンピラ男もいる事に再認識した。誰だろうこの人
「おれァウォーターセブンの裏の顔!!解体屋のフランキーだ」
!!!フランキーってウソップを虐めて大事な2億ベリー盗んだ奴だ……こいつのせいで……メリーは……ウソップは………
たとえお金が揃っていてもメリー号は直せないのは分かっていても私は居てもたってもいられずフランキーに飛び乗りベチベチと叩きまくった。
キィ!キィ!キィィ!コノヤロッ!コノヤロッ!コノヤローッ!
「テメェがフランキーか!よくもうちの長っ鼻を!ウタちゃん、君はもういい後は俺がやる!」
そう言ってサンジは私を持ち上げるとゲシゲシとフランキーを蹴り飛ばした。
「テンメェー!その人形もだがこの縄解けたら憶えてろォ!!?」
それからウソップが止めに入るまでフランキーとサンジくんは互いに火花を散らして声を荒げていた。ようやく落ち着いたのか。サンジ君はウソップとフランキーの縄を解いた。
「しかし動く人形かぁ。長い事色んなものを見てはきたがコイツぁ初めてだ」
人差し指と親指で顎をつまむかの様な仕草をとって自由になったフランキーはマジマジと私を見ていたけど、馴れ合う気がない私はフィッとそっぽを向くことにした。
とにかく貨物車内は危ないと判断した私たちは車両の上へと移動する事にした。外はまだまだ土砂降りだったのでサンジの服の中に入る事にした。
サンジは腰を落ち着かせると貨物車から失敬した電伝虫で何処かに電話をかけていた。数回プルプルなると「もしもし!?」とナミが出てきてくれた
「ナミさんナミさん聞こえるか!?」
キィ!キィ! ナミ!ナミ!私もいるよ!
「サンジくんね!?それとその声、ウタもちゃんといるのね!ちょうどよかった、二人とも聞いて!ロビンの事で大切な話があるの!」
それからナミは話してくれた。ロビンはバスターコールと呼ばれる政府の軍事力が私達麦わらの一味に向けられた事。それから私達を守るために自ら身を捨てて私達の命を守っていた事。
ロビンもこの海列車に乗っていた事にも驚いたが私達の命を守った事の方がより衝撃は強かった。ダメだよ。ロビンの命も大事だよ!もう決めた。絶対ロビンを助けるんだ!
それにしてもナミの方では何が起こってるんだろう?ルフィとゾロの声で三百煩悩攻城砲!!って聞こえてるけど何かと戦っているのかな?
しばらくしてルフィに電話が変わった。
「おうルフィか!ちょっと待ってろウタに変わる」
サンジがそう言ってマイクを私の口元に近づけるなり私はルフィに声をかけた
キィ!キィ! ルフィ!ルフィ!
「おー!ウタ!良かった、お前もそっちいて」
大丈夫だよルフィ!
「失礼ウタちゃん。そろそろルフィに代わってくれ」
本当はもっと言いたい事があったけど今は一刻を争う事態だ。キィ!とオルゴールの音で返事する。
「ウタちゃんとは途中で合流した。それから…」
あえて危うく役人達に撃たれそうになった事は言わない。サンジ君は本当に優しい人だなぁ。ゾロ君と話した後電伝虫をグシャッと潰していたけど
それからサンジはウソップにもロビンのお話をした。ウソップも強い衝撃を受けたみたいだ。そうだよね。ロビンが守りたい仲間の中にウソップもいたんだ。気持ちは分かるよ。ロビンはちゃんと人形の私の事も仲間だと思っていたんだ。嬉しくて嬉しくて本当の体だったらボロボロと涙が出る所だ。
「ロビンにゃ悪ィが……おれにはもう助けに行く義理もねぇ!!!」
だけどウソップは参加出来なかった。私は追いかけようとしたがサンジに服の中へと引き留められた。
「追いかけるな。行くぞ」
その時だった。窓から乗り上げた一人の海兵が私達を見つけてしまった。大変だと思った矢先に
「メタリックスターー!」
ん?誰??思わず声のした方へと向く。
「話は全て彼から聞いたよ。お嬢さんを一人助けたいそうだね」
嵐の中たなびく赤いマント、そして仮面。
「そんな君達に手を貸すのに理由はいらない。私も共に戦おう!」
嵐の中悠然と立つその姿は正しくヒーローという表現にふさわしかった
「わたしの名はそげキング!!」
この気配……ウソップに似ている……この人はもしかして…… ウソップのお兄さん!!?
驚く間もなくその仮面の戦士はこの嵐の中風の音に負けないくらい歌い始めた
そげきーの島でー生まれたおーれーは100ぱーつ100ちゅールルララルー♪
気がつくとわたしはいつの間にかパチパチと拍手していた。感激した。ヒーローソングもまた乙なものだ。口が聞けたならきっと……
行ける……
この仮面の戦士とサンジ君と……さっきからやたらと工具を持ってマジマジと私を観察しながら改造だとなんだとブツブツと呟いているフランキー……
私達がいればきっとロビンを助けられる!待っててねロビン!今助けるから!