ウタVSカク&ジャブラ・前半

「ああああああああ!!」
フランキー一家とガレーラの職長達が切り開いた道を海列車「ロケットマン」が駆け抜ける。それを信じて飛び込んだルフィ達と突き落とされたフランキーをへばりつかせて。
「ぶつかるー!!」
司法の塔へ真っ直ぐに、真っ直ぐに。攫われた仲間を、ロビンを助けるために突っ込む。
『ぎゃああ〜〜〜!!』
司法の塔を突き破りその先にいた政府役人達を蹴散らし、司法の塔内部の壁に激突し停止する。それは裁判所から司法の塔への架け橋が途中で止まったことによりこちらには来れないだろうと高を括っていたCP9長官・スパンダムにとってその衝撃音は悪夢を知らせる鐘となり響いた。
「………来た。来たァアーーーーっ!!!チキショー!!来いてめェ!!」
「あっ、く…!!」
せめてこの海楼石の手錠がとければと嘆くロビンを正義の門へと連行しようとするスパンダム。その前に忘れちゃいけねェとばかりに自分の部下であるCP9らに指令を下す。
「さァお前達を解放するぞ『CP9』!!この司法の塔であいつらをギッタギタにしてしまえ!!!惨殺を許可する!!……あ」
超人集団CP9による惨殺指令を下した直後、スパンダムは5年の潜入任務より帰還したルッチ達から受けたとある報告を思い出し、改めて確認を取る。
「おいお前ら!!海賊共の中に"ウタウタの実"の能力者がいるって話は本当なんだろうな!?」
「赤と白の髪の女がそうじゃ。海列車での護送中にその能力を確認しておる」
「そうか…やつがそうか……!!よォし」
ニタリと下劣な笑みを浮かべたスパンダムはお前達に追加任務を与える!と声高に叫ぶ。
「"ウタウタの実"の能力者の女は生け捕りにしろ!!こっちにゃニコ・ロビンがいるんだ……やつを捕らえりゃ5年もかけた設計図奪取の任務の穴埋め位にはなる筈だ!!だがルッチ!!お前はおれと来い!!何をおいてもまずおれの命を守れ!!いいな!!ファンクフリード!!」
追加任務を下しゾウゾウの実を食べさせ象剣となったファンクフリードをいい子だと背中に携えたスパンダムがルッチを伴いロビンを連行し始める。
「さァ"正義の門"へ向かうぞ!!!この女を取り返せるもんなら取り返してみろ麦わらァ!!!」
ところ変わってロケットマンが突っ込んだ司法の塔内部。そこでは衝突の衝撃に倒れたか弱いお年寄りと子供と小動物が倒れていた。頼むから死ぬな!と必死に声を荒らげる鉄人・フランキー。それに対しむくっと2人と1匹が立ち上がる。
「鼻血でた!!」
「鼻血で済むのはおかしいだろうがよ!!!」
「よっっしゃー着いたーーーっ!!!」
「麦わら」
鼻血の彼女達と違いロケットマンの外部にへばりついていた事により瓦礫に埋もれていたルフィが遅れて起き上がり、ロケットマンの運転手に礼をしつつ同様の状態で司法の塔へ突っ込んでいった仲間達に声をかける。
「おいおめェら、さっさと立ち上がれ!!こんなもん平気だろうが」
『ゴ…ゴムのお前と一緒にすんじゃねェ…な……生身の人間が…ハァ…こんな突入させられて………!!無事でいられるわけ…
あるかァーっ!!!!』
「全員無事だ」
「お前らもたいがいオカしいからなっ。一応言っとくけども」
とにもかくにも全員無事で司法の塔への侵入を成功させた面々はロビン救出へ向けて動き出すが、そこへ待てと何者かに止められる。
「何だありゃ!!」
「チャパパパパ…!!侵入されてしまったーー!さっきの部屋へ行ってももうニコ・ロビンはいないぞー。ルッチが"正義の門"へ連れてったからな」
「え!?」
「あ…あと長官もな」
チャックのような口を持つCP9のフクロウから既にロビンが連行されたことを告げられる。そこへ重ねがけるようにフクロウは言葉を続ける。
「今向かってるところだが行き方も教えないし、おれ達『CP9』がそれをさせない。お前達を"1人"を除き抹殺する指令が下っている!!チャパパ。お前達はおれ達を倒さなければニコ・ロビンを解放する事はできないのだ」
次から次に言葉を続けるフクロウがこれを見ろと取り出したのは鍵であった。その鍵を見せびらかしながらフクロウは丁寧に説明を続ける。この鍵がロビンを捕らえている海楼石の手錠の鍵かもしれないこと、鍵での解錠でなければ手錠が外れないこと、司法の塔に5人いるCP9がそれぞれ1つ鍵を持ち待ち構えていること、ロビンを優先し彼らを無視すればこんな鍵海に捨てちゃうぞということ。
おれ達はチャンスをあげてるのだと言い残しその場を去るフクロウをルフィが追いかけようとするがゾロがそれを止める。
「ふんごがががが!!!放せくらァ!!!」
「止まれ!!もうちょっとだけだ!!これからの各自の動きを確認するまで待て!!!」
「"ルッチ"ってあのハト男の事?」
「ああそうだ」
「そいつとロビンちゃんが一緒にいるんだったらルフィだけでも先に行かせよう」
そして各自の動きが決定していく。とにかくルフィはルッチが連行するロビンの元へ向かわせ、残る7名で5人いるらしいCP9から手錠の鍵を5本手に入れルフィを追う。ロビンが門をくぐれば全て終わる時間との勝負。
「全員死んでも勝て!!!」
『おう!!!』
ゾロの号令を合図に駆け出す8人の侵入者達。敗ければ時間のロスとなるとなる戦いが今始まる……
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司法の塔でのCP9との戦いはいよいよ持ってその対戦カードが決まろうとしていた。が、その中に約2名対戦相手が決まらず司法の塔を駆けていた者達がいた。その内の1人であったウタは階段を駆け上がりとある部屋へと向かっていた。
「ハァ…ハァ……もう!せっかく敵の居そうな場所探し当てたのに急に目の前で階段がズレて崩れちゃうんだから!!おかげですんごい回り道しちゃった」
ソナーのような役割も果たせる自分の声を用いて敵の居場所を探し当てたウタであったが、突如として建物そのものがズレて登っていた階段が崩壊し回り道を余儀なくされていた。そしてようやくお目当ての部屋の扉の前へと辿り着き、勢いよくその扉を開ける。
「覚悟しろCP9!!ロビンを助けるためにもあんたの持ってる鍵を……あれ?」
威勢よく扉をバン!と開けたものの、そこには誰もおらず、部屋の中央に巨大な穴を残すのみであった。
「あれェ…?確かにここに誰かいた筈なのに……この穴作って下に行ったのかな?」
そうして大穴からひょっこりと顔を出し下を見下ろすと、そこは芝生や木々の自然が広がる空間であった。綺麗だなーと眺めているとそこに見慣れた人影とそうでない動物の影がそれぞれ2つ見えてくる。
「あ!!ゾロとそげキングだ!!おーい!!!」
おーいと声をかけられ上を向いた2人はその声の主がウタであることを確認するとばっ!と手を挙げる。
『あ!!ウターーー!!!』
「え、何!?すっごい楽しそう…ってなんのポーズ!!?」
「お前もかァ!!!手錠に注目しやがれ!!!」
「『2番』の手錠の鍵探してくれーーっ!!!」
「『2番』!!?どういうこと!?」
そう言い、ウタも下の麒麟と狼による狩りの獲物側へと降り立ち仲間2人にかけられた手錠へ目をやる。
「これだよこれ!!手錠と鍵にはそれぞれ対応する番号が振られてんだ!!」
「すでにチョッパー君が探しに行ってくれてる!!お前も探してきてくれ!!でなきゃおれ達このまま殺されちまう!!!」
ゾロとそげキングによる実物を交えた解説によりとりあえず状況が飲み込めたウタ。だがそんな彼ら、いや彼女を見てカクがあれは…とジャブラに話しかける。
「のうジャブラ、あの女じゃ"ウタウタの実"の能力者なんは」
「あァ見りゃ分かる。あんな髪の女は一人しかいねェ」
「なんでそうなってるかが分かんないけど…とにかく分かったわ!!私も『2番』探してくる!!!」
そんな獲物を前にした2人の捕食者をよそにウタは言われた通りに2番の鍵を探しに行こうとするが、それを許すCP9ではなかった。
「そうはいかねェだ狼牙!!"十指銃"!!!」
『おわー!!』
「キャッ!!なに!!?」
「さっきの"ゴリラ"は逃がしたが……お前は逃がさん!!"嵐脚"!!!」
「うわ!!」
麒麟の人獣型となったカクと狼の人獣型となったジャブラの両名がウタへ標的を変更したかのようにその超人的な力を奮い始める。お前達の相手はおれ達だろう!とそげキングが震えながら訴えかけるが、カクはそれはそうじゃが…と答える。
「そもそもわしらはお前達全員の抹殺指令を受けとる。"1人"を除いてな」
「フクロウのやつから下で言われただろう?そんでその"1人"こそがお前だ赤白女!!!」
赤白女と狼男に指さされたウタはまさしくびっくり仰天といった顔で返事をする。
「フランキーじゃなくて私を生け捕りに…?なんのために!?」
当然といえば当然の反応だ。確かに先ほどここへ突入した際にCP9の大男から1人を除いて抹殺指令が下っているとは言われたがその1人がまさか自分だとは思いもよらなかったのだから。元々護送されてここに来たフランキーがその1人だと思っていたのだが、これは一体どういうことなのだろうか。
「フランキーか……やつは設計図を焼きおったからのう、もう抹殺対象じゃ。じゃがお前はまた別問題。それに…お前の能力は"危険"じゃし、殺すわけにもいかんのじゃよ」
「ウタの能力が"危険"…?まァ確かにあれは強力だが……だったらなおさら生け捕りにしないで殺せばいいんじゃねェのか…?」
「そうしたくてもできない事情があるんじゃこっちにも。これから死にゆくお前達に説明する義理はないがのう」
傍から見ればちぐはぐな説明にゾロが疑問を呈するがそれをかき消すかのようにジャブラが吠える。
「しっかし仲間2人が使えない状態のときにここに来るたァ…まさに飛んで火に入る極上の獲物だなァ!!!……おいカク、一時休戦だ。まずはあの女を捕らえるのを最優先にするぞ」
「……不本意じゃが仕方あるまい。さっさと済ませるとするかのう」
先ほどまでどちらがゾロとそげキングを狩るかで早い者勝ちの競走を繰り広げていた2人が一時休戦と称し、闇の正義の執行人としての目つきでウタを見据える。
命を狙うならともかくロビン同様その身柄を狙うとなれば話は別だとゾロとそげキングの2人がウタを守るように割って入る。
「!?あいつら2人がかりでか…!!おいウタ逃げろ!!!」
「そうだ逃げろ!!!こ、ここここはおれ達が食い止めるから、君は早く『2番』の鍵を!!」
庇われる形で2人に割って入られたウタであったがちょっと待ってよ!と声を荒らげると同時に何やらイイことを思いついたかのような笑みを浮かべる。
「それじゃあ2人が殺されちゃうでしょ!!……でも"私"は殺されない……そうでしょアニマルコンビ?」
『あ?』
ゾロ達を押し退けアニマルコンビと呼んだCP9きっての戦闘力を誇る2人の前にウタが立ちはだかる。
「どうせ逃げたって追ってくるんだろうし…そもそも私達はあんた達を倒してロビンを助けるためにきたんだもの。死なないと分かれば余計逃げる意味がないんじゃない!?」
挑発的かつ打算的な目の前の捕獲対象にほォ…と見下すかのようにカクが言葉を返す。
「言ってくれるのう……じゃがわしら2人じゃ勢い余って殺してしまうかもしれんぞ?」
「そのときはそのときよ…!!それにもしそうなったときはあんた達の負け……そういう"指令"でしょ!?」
「ぎゃははは!!随分と肝が据わってやがる!!嫌いじゃねェぜお前みたいな女!!!」
そう言い、さて任務に取り掛かるかと戦闘態勢を整え出したアニマルコンビの前に1人立つウタをゾロ達が心配するも大丈夫!と振り返りながら満面の笑みを2人に返す。
「チョッパーが鍵を持ってくるまでの間だから!!でも……それまでにこいつら2人とも倒しちゃったら……ごめんね?」
そして彼女の背中に携えられていた1本の槍が取り出され、ウタの手に収まる。その槍には今までのようなただの槍にマイクスタンドとしての機能を付け加えただけのものではない、"空島"での冒険で手に入れた"貝"を名職人・ウソップが新たに組み込み完成させたウタの最新武器。その名も───
「"音響槍・完成版(マイクランス・ピリオド)"!!!
その威力…とくと味わせてあげる!!!」
新たな武器を手に、歌姫はステージへと飛び立つ。たとえ所属が違えど大切な仲間達を守り、救うために歌姫は音楽を奏でる。未来への活路を切り開くために……