ウタVSカク&ジャブラ・後半

ウタVSカク&ジャブラ・後半



歌姫の啖呵により始まった彼女と2匹の猛獣達の戦い。人獣型の姿のままのカクがふーむと唸る。


「やはり背中に持っていたのは槍じゃったか。さて…それでわしらにどこまで抗えるか」

「見物だなァ!!ぎゃははは!!!」


槍を構え迎え撃たんとする獲物をギロリと見据え、そして迫る。


『"剃"』

「来る!」

『"指銃"』

「うわっ!!」


麒麟と狼が同時に放った指銃をすんでのところで後ろへと下がり回避したウタは攻撃を外し隙のできた2人へ向けて槍を振るう。


「"繰り返す協奏曲(ダカーポ・コンチェルト)"!!!」

『"鉄塊"』


4重、6重に放たれる切り払いを鉄塊により受け止め続けるカクとジャブラ。何度も攻撃を当てているにも関わらず全くダメージの通る気配のない2人にギリッとウタは歯の奥を噛み締める。


「これが"鉄塊"…!!本当に鉄みたいな硬さ!!」

「ぎゃははは!!お前みたいな小娘の細腕じゃあおれ達を細切れになんか出来ねェ…よ!!!」

「うっ!!槍が……!!」


必死に攻撃を加え続けるウタを嘲るかのようにその槍をわずか片手で抑え込んだジャブラ。このまま死なねェ程度に切り裂いてやろうかともう片方の手の爪をギラリと見せびらかすがウタは余裕の表情であった。


「随分と余裕そうだけど……私知ってるよ!!狼の肉ってね……焼くと結構美味しいんだよ!!!"インレイ・フレイム"!!!

「ん!!?熱ちゃァアア!!!ほ、炎がァ!!?」

「ジャブラ!?うおっ危なっ!!」


狼に続いて麒麟も焼こうと槍の穂先から放出される炎をカクへと向けるウタであったがすぐに後ろへと後退され躱されてしまう。熱ちち!熱ちち!!とのたうち回って消火したジャブラがキッ!とウタを睨みつける。


「こんの…女ァ!!!てめェ何しやがったァ!!?あちち!!」

「その槍の先から炎を噴出したように見えたが……恐らく本物!!一体どんな原理じゃ……」

「知りたい?でも教えてあげないよ!!だってあんた達に説明する義理はないもんね!!」

「……ハハ!!確かに……その理屈には同意せざるを得ないのう!!」

「うむ!!その武器を作った私の親友ウソップ君も、その辺りの情報の外部への持ち出しは厳禁だと言っていたからな!!その調子で頑張りたまえウタ君!!!」

「なに傍観に徹しようとしてんだそげキング!!おれ達も加勢すんぞ!!」


たとえお互い片手が繋がった同士とはいえ目の前で仲間が2対1の劣勢で戦うのをただ眺めるわけにはいかないとゾロがそげキングを連れ加勢しようとするがウタがそれを止める。


「待って2人とも!!よくよく考えてみたんだけどさ……わざわざ正面きって戦わなくてもいいんじゃないかな?」

「何だ急に怖気ついたってのか!?このおれの右手と胸を焼いておいて逃げられるとでも!!?」

「逃げはしないってば……ただこっちに来てもらうよ!!」


そう言い槍を地面へ突き刺し、穂先の反対側である石突の部分へ懐から取り出したマイクを取り付ける。その様子を見て何をするのか察したゾロとそげキングはバッ!と耳に手を当て音を遮る。だがそれを察したのは彼らだけではなかった。


「ぎゃははは!!バカめ!!てめェの能力は把握してる!!歌声さえ聞かなきゃ意味はねェ!!!」

「人獣型じゃあ手が届かんのう……一度戻るか」


元の姿に戻って耳を塞いだカクと狼の姿のまま耳を塞いだジャブラ。この場にもはやウタの歌を聞く者はいない。ウタの作戦は失敗に終わったかと思われたその時、ウタは不敵な笑みを浮かべる。


「やっぱり私の能力は把握済み……だと思った!!でも、これは把握してた!?」


スゥ〜ッと自慢の肺活量で空気を吸い上げるウタ。何をするつもりかと固唾を飲んで見守る4人に歌姫の声が、否、音波が響き渡る。


「音波!!!"破壊の編曲(ハボック・アレンジ)"!!!」


ウタが放ったそれはかつて空島への渡航を手助けしてくれた海底探索王ショウジョウの技。音波を発生させ周囲の大地や空気を震わせる技。だがその威力とスピードはショウジョウのものとは桁違いであった。ウソップがウタの為にと特注したマイクとその性能を完璧に引き出すウタの声量と肺活量によりとてつもない速さでカクとジャブラの体を震わせ、彼らに膝をつかせる。


「ぬおっ!?」

「なんじゃこれは…!!」

「"快速な詠唱曲(アレグロ・アリア)"!!!」


音波を発し終えたウタは敵の見せた隙を見逃さない。すぐに突き刺した槍を抜き、膝をつく2人の元へ駆け出す。その速さの前に2人の超人は為す術なく受けるしかなかった。


「"急速な追奏曲(プレスト・カノン)"!!!」

『グァァアアアア!!!』


自分自身にウタワールドからの力を擬似的に引き出し、スピードを高めた一撃をカクとジャブラにお見舞いする。そしてくるりと振り向き穂先をウゥッと呻く2人に向け声高に宣言する。


「女1人相手だからって舐めてかかると痛い目見るわよ!!!」

「ありゃあ猿山連合軍のやつの技……!!すげェなあいつ!!」

「へへ…技を盗むとはやるじゃねェか」


ゾロとそげキングが感嘆の声を上げる中、むくりと2人のCP9が起き上がる。その目には一切の余裕はなく、目の前の標的を強敵と認めどう倒そうかと思案している顔つきだ。


「"剃"!!」

「う!!刀!?」

「あァ…わしゃあCP9随一の剣術を誇る剣士でもあるんじゃ。だが当然斬れるのはこの刀だけではないぞ!!」


そう言いウタに防がれた刀を持つ手を支えに上空へ飛び上がるとその勢いのまま足を振り抜きウタへ斬撃を飛ばす。


「"嵐脚・白雷"!!!」

「うわっ!!なるほど四刀流ってわけ……!!」


先ほどまで自分が立っていた足場を細切れにする威力の斬撃を無事に躱したウタであったが、その先に腕をクロスさせ手の甲をウタへ向けたジャブラが待ち構える。


「フン!お前なんぞ爪弾きにして終わりだ!!"鉄塊拳法"

「だから簡単にやられると思わないでって!!」


攻撃を相殺させようとウタは振り向きざまに槍の穂先をジャブラへ突き出し、狙い通り狼男の攻撃と穂先がぶつかり合う。


"狼弾"!!!………ん!?」

「フフ……もらい!!」


大抵のものは吹き飛ばす一撃を呆気なく防がれ呆然とするジャブラ。そこへ何をしておる!と刀を構えたカクが迫る。


「てめェ……今度は何しやがった!?」

「さァ…でもいいの?いつまでもくっ付いてたらまた燃やされちゃうけど」

「おわァァアア!!?バカやめろ!!もう炎は勘弁してくれ!!」


ズザザザザ!と後退したジャブラを見て、また何をしておるのか…と呆れるカク。だがその呆れも程々にウタ目がけて刀を振るう。ガキィン!!と2本の刀を防がれた後、すぐにその右足を振り抜き追撃を入れる。


「"嵐脚・線"!!」

「わっ!!もうっ!ほんっと危ないねあんた達!!"急速な練習曲(プレスト・エチュード)"!!!

「それが六式使いというものじゃ。"鉄塊"!!


苦し紛れの突進攻撃を繰り出すが鉄の硬度を得たカクにはまるで効いていない。両手で槍をカクの胴体へ押し付けるがそれでもダメ。まさしく鉄の塊の如くカクがその場を動くことはなかった。


「ハハ…!!力押しでどうこうなるものではないぞ?じゃがまた炎でも吹かれたら厄介じゃ。わしの四刀で斬ってそれで終いじゃ!!」

「炎…?今度出てくるものはそんな生易しいものじゃないよ!!"インレイ"……

インパクト"!!!」

「!!!」


ドォン!!!と激しい衝撃音と共にガフッ!と血を吐き吹き飛ばされるカクと腕を押さえながら尻もちをつくウタ。その光景にジャブラだけでなくゾロ達も唖然としていた。


「カク!!!」

「うおっ!!ありゃあ"衝撃貝"か!?おいそげキング!!なんでウタの槍にあんな危ねェもん仕込んでんだ!!!」

「い、いやあれはウタがどうしても欲しいって言って聞かなかったから取り付けただけだ!!!………と、ウソップ君は言っていたぞ!!」

「いっったたた!!!こんなに痛いんだ"衝撃貝"の反動って…!!」


痛たたと腕を庇うように立つウタへジャブラが"剃"で急速に近づき攻撃を加え始める。


「"十指銃"!!!」

「痛っ!!まだ反動の余韻が……」

「炎といいさっきのといい……その武器を作ったやつは随分と腕利きな武器職人なんだろうなァ!!全く小賢しい真似を!!!」

「いやァ〜それほどでもォ〜〜〜」

『照れとる場合か!!!』


自分の作った武器を褒められたウソッ……友人の作った武器を褒められ上機嫌になったそげキングにゾロとウタがツッコむ中、再び人獣型となったカクが起き上がる。


「うーむ……衝撃波か。あんな芸当まで出来るとは油断も隙もあったもんじゃないのう。極力穂先には触れんようにしよう」


カクが加わったことで腕の痛みも相まって一気に劣勢に立たされるウタ。一瞬の隙をつきジャブラへ炎を吹き出しながら槍を振るうが"月歩"により難なく躱されてしまう。


「ハァ……ハァ……」

「フン!もう息切れか!!終わりだ!"月光十指銃"!!!

「うっ!!」

「ギリギリで躱したか…!!だが次はないぞ!!」


再び十指銃の構えでウタへと迫るジャブラ。その瞬間、ウタは手元で音響槍の金具を回し次の攻撃に備える。グワッと近づいてきたジャブラの目の先へ槍を向ける。


「……ッこれなら!!"インレイ・フラッシュ"!!!

「おわ〜!!目!!目がァ!!!」


穂先から放たれた強烈な光により視界を奪われジャブラは身動きが取れなくなるが、まだまだ脅威は尽きない。今度はわしの番じゃと言わんばかりにカクが首をしならせながらウタに襲いかかる。


「狼にはちと眩しすぎるようじゃのうその光は……"鼻銃"!!!

「"低音域の遁走曲(フラット・フーガ)"!!!」


カクの真四角な鼻の突き出し攻撃を後方へ飛びながら相殺させ、距離を取るウタ。そして距離を取ったその先でグッと踏み込みを入れ前方へ飛び上がり、斬りかかる。


「これで!!"重々しい受難曲(グラーヴェ・パッション)"!!!

"鉄塊"!!むう!!中々効く…!!」

「ぐっ!!硬い…!!!」


だがその渾身の一撃も鉄塊の前には功を奏さず、ただ防がれるのみであった。そこへようやく視界が晴れてきたジャブラがウタを見据える。


「あァちくしょうやっと覚めてきやがった………コノヤロウ!!あんな光当ててきやがって!!狼は夜行性なんだぞ!!"嵐脚・孤狼"!!!

「うあ!!」


ガガガガ!と地面を這う斬撃を当てられたウタを見てそげキングがヤバイヤバイと焦りだす。


「うわあああヤベェ!!ウタがやられちまう!!!」

「……ジャンケンするぞそげキング。この手錠をはずす方法があるっ!!」


このピンチを打開しようとゾロがそげキングに1つ提案をする。え!?と聞き返したそげキングにゾロは淡々と答える


「どっちか一人の手首を切り落とす」


あまりにも雑な解決方法にそげキングは怒る。


「何真顔でコエー事言ってんだよーーっ!!!」

「まだ話の先を聞け…そうやって手錠を抜け出た方は落ちた手首を持って急いでチョッパーの所へ行き、手を元通り縫い繋いで貰う」

「ぬいぐるみかっ!!!アホ言ってんじゃねェよ!!!」

「じゃあどうする!?このままあいつがやられるのを見てんのか!!?」

「そ、それは…!!しかし手首を切り落とすのは…」


やはり雑すぎるその作戦にそげキングからのツッコミが止まないが、このまま指を加えて見ていればウタが傷つき倒され、また仲間を1人連れていかれてしまうのは明白だった。そこでゾロがさらなるアイディアを振り絞る。


「……よし、もう一つアイデアがある」


そんな手錠で繋がってしまったバカ2人をよそにウタは必死に抗い続けるが、敗色は濃厚であった。


「うう…まだ……まだァ…!!」

「よう頑張るのう…わしら2人を相手に大したもんじゃ」

「まったくだ。さっさと海楼石の手錠でもかけちまいてェが………ん?」


予想以上の粘りを見せるウタを褒めつつも、どう処理しようかと思案する2人の猛獣とウタの視界の端に妙なものが写り込む。3人揃ってそちらの方へ目をやるとその正体が分かった。


「あれは…」

「ゾロ……ウソップ………」

「いいかそげキング姿勢を崩すな!!お前は…"刀"だ!!!」

「弁護士を呼んでくれ!私はいつか必ず君を訴えてやる!!!チョッパー急いでくれェ〜〜っ!!!」


背筋をシャキーンと伸ばしたそげキングがゾロの刀を持ち、そのそげキングを持ち抱える。一見ふざけてるようにしか見えない光景ではあったが、ウタへ加勢するにはこの方法しかない。覚悟を決めた?そげキングとゾロが加勢し2対2でカクとジャブラに挑む。すぐにチョッパーが2番の鍵を持ってきてくれると信じて​…



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各所で続く海賊達とCP9を含むエニエスロビー全戦力の戦いの最中、とてつもない凶報が鳴り響く。スパンダムが大将"青キジ"より与えられたゴールデン電伝虫を誤って押してしまい、エニエスロビーへ向けてバスターコールが発令されてしまったのだ。当然その報せはエニエスロビー全域にいる海兵や役人、侵入してきた海賊達やそれと戦うCP9の耳にも届いていた。

バスターコールが発令されたとなれば時間をかけてはいられないとジャブラが呟く。


「おれ達もグズグズしちゃおられんぞ」

「さっさと片づけて正義の門へ急がにゃあな」


そんな中、ゾロの中にとある天啓が下る。


「ひらめいた……!!お前の名前は…名刀…"鼻嵐"

「わ、いい名前!」

「いい名前つけとる場合かー!!!」


バスターコールがかかりもうじき軍艦による殲滅作戦が開始されるであろうという状況下にも関わらず、ふざけ倒す海賊共を見てカクは呆れ混じりに声を荒らげる。


「何を遊んでおる!!」

「『バスターコール』がかかった以上もうお前らと遊んでる時間はねェ!!その鼻と剣士は殺して赤白女は貰ってくぞォ!!!」


カクがゾロとそげキングを、ジャブラがウタを相手取り戦闘が再開される。ゾロ達はここまでただ逃げるかほぼ観戦しているかで体力が余っていたからか、慣れない名刀"鼻嵐"での三刀流ながらも何とか戦えていたが、ここまでの2対1による不利な状況下での戦いが続いていたことでウタの体力はもう残り少なく、ダメージの蓄積量も生半可なものではなかった。

そんな余裕のない捕獲対象へ狼の爪による指銃や嵐脚を浴びせまくるジャブラはぎゃははは!!とまるで狩りを楽しんでいるかのようであった。


「さすがにもう限界だ狼牙!!おとなしく捕まっとけ!!!」

「ハァ……ハァ……誰が!!あんたみたいな狼野郎に捕まるもんか!!!」

「オーオーまだナマイキな口を聞けるだけの余裕はあったか」


口ではまだ負けてはいなかったウタであったが現実は非情であった。止まぬ指銃を何とかいなすが続けてやってくる嵐脚による斬撃は躱しきることが出来ず、その体に次々と切傷を増やしていく。

ゾロが何とか加勢に向かおうと動き出そうとすればカクがそれを許さない。こうしてウタが倒れるのは時間の問題となった今、ジャブラは目の前でなおも踏ん張る歌姫を憐れむように語りかける。


「しっかしお前も不憫なやつだぜ……数ある能力の中でもそんな能力を手にしちまうんだからなァ………いつ食った?それ」

「ハァ……いきなりなに……!?知らないよそんなの!!気付いた時にはもうこうだったもん!!」

「………ってことは物心つく前に口にしたかあるいは……ぎゃははは!!!そりゃあとんだ災難だったなァ!!よほどその"悪魔"に好かれちまったみてェだ!!!いや……その能力の場合"悪魔"というよりかはむしろ………」


勿体ぶるかのように話すジャブラであったが、その続きが彼の口から発せられることはなかった。ブオォオオ!!!というけたたましい咆哮と共に塔の壁が打ち砕かれながら怪物が乱入してきたのだ。


「うわあああ今度はなんだァ!?ってあれ!?チョッパーか!!?」

「おい!!アレが本当にチョッパーか!?何でおれ達が分からねェ!!!」

「知らねェがチョッパーだろ!!あの帽子と角で他に誰がいるってんだよっ!!」

「……じゃあおれ達の"希望"は!?2番の鍵は!?」

「知らんもうダメだ、おれ達は死ぬんだ​──」

「チョッパー……!?なんであんな姿に」


帽子や角などの特徴から乱入してきた怪物が恐らくチョッパーであることを見抜いたゾロ達であったが、どうやらその様子におかしいことにも気が付く。怪物のような姿でいるからか、生命力がみるみる薄れ息も絶え絶えで、今にも死にそうになっているのだ。

だがそれに気を取られたことでゾロはカクへの対処が不十分となり、ウタも敵の攻撃を防ぐ体勢が不十分となってしまった。

それを見逃さなったカクは直ちにゾロとの戦闘から離れ、ウタ目がけてその四角い鼻を伸ばす。


「"鼻銃"!!!」

「キャアアア!!!」


その鋭い一撃がウタを捉え、貫く。直撃すれば胴体をも貫きかねない一撃ではあったが、捕獲対象であるウタを死なせるわけにはいかなかったカクはその威力を抑え、多少吹き飛ばす程度に留めていた。だがそれでも既にボロボロの彼女を戦闘不能に追い込むには十分であった。


「なっ…!!てめェコラ!!あいつはおれの獲物だったろ!!!」

「どっちでもええじゃろ!!それにわしらにはもうそんな余裕はないじゃろうが!!」

「ウタ!!クソ、あの野郎…!!」


一瞬の不覚で敵を自由にし仲間がやられたことにより苦虫を噛み潰したような表情を見せるゾロであったが、それよりもと乱入してきた怪物に2人の猛獣は視線を向ける。


「しかし何じゃあの怪物は。邪魔でしょうがないわい」

「邪魔で当然、海賊の1人の様だぜ」

「『バスターコール』も迫っておるというのに……邪魔なモノは消すに限る…!!!」


こんなデカブツさっさと仕留めて終いにしようと猛獣達が動き出す。だが、そうはさせるかとゾロが鼻嵐を振りかぶる。


「チキショーあいつらチョッパーに!!」

「背スジをのばせ!!名刀"鼻嵐"!!!"三十六煩悩砲"っ!!!

「ぬ!!!おのれ…」


鼻嵐から放たれた斬撃により何とかチョッパーへの攻撃を食い止めるが、肝心のチョッパーは意識なく暴走したままだ。このままではまずいとまだ意識を保たせていたウタが段々と弱っていく怪物へ何とかして歌声を届けようとする、が。


「ブオォオォオオ!!!」

「チョッパー………落ち着いて………ウッ!!!」


歌うことはおろかまともに能力を使うこともできない程にウタは弱っていた。それでもなお無理をしてでも歌おうとする彼女の頭に突如激痛が走る。


「ウゥッ!!なに……これ……!!?アアァァァ!!!」

(​─────!!​──────!!!)


激痛と共に頭の中で何かも分からない正体不明の音が、いや声が響く。ウゥッ!と頭を抑える彼女の姿を見たゾロ達は大丈夫か!?と声をかけるが、その痛みと声が治まる気配はなかった。だがその時、狼の間にイカしたリーゼントヘアーの男がやってきた。フランキーだ。


「どいてろおめェらァ!!!」

「フランキー!!てめェ何する気だ、こいつァおれ達の」

「わかってら黙ってろ!!!対処法が他に見つからねェんだ…"能力者"の弱点は一つ、海へ突き落とす!!!加減するんで勘弁しろよ!!!"風来(クード)…"

"砲"(ヴァン)!!!」


ブオォオオ!!!と叫びながら壁を突き破り怪物が海へと落下する。それに続いてフランキーも海に飛び込みチョッパーを救出する。かなり無茶のある救出劇にそげキングは何を無茶な…と愚痴るがその後ろから心配いらないと声をかけられる。振り向いた先にいたのは…


「身内同士でバタバタと…何をやっとるのか………ん?」

「フフ…ようやく釈放か?」


怪物が海へと落とされた際に開かれた大穴から下を覗き見ていたカクとジャブラはその背後で何かが行われたことを感じ振り向くと、すぐに何が起きたを察する。


「笑ってねェで後悔しろよ………もう二度と来ねェぞ。今みてェなおれを討ち取る好機はよ…

『世界政府』!!!


ずいぶんとムダな時間を過ごした」


フランキーと事前に打ち合わせたナミが手に入れた2番の鍵を使い、ゾロとそげキングを海楼石の手錠から解放したのだ。

荒々しい手段とはいえ今にも命を落としそうであったチョッパーは救われ、多少歪ながらもゾロとそげキングが手錠から解放されるまで2人を守るという当初の目的が果たされた事を見届けたウタはその意識を手放そうとしていた。

張り詰めていた緊張から解き放たれたからか、頭に響いていた痛みと声は既に無くなっていた。


「……よかった………これで…私の任務は完了……かな」

「ウタ!!大丈夫!!?………まったくもう!!こんな大変な時にバカやってウタに負担かけて!!!何してんのよあんた達!!!」

『そりゃコイツが間抜けな事しやがるから』

「どっちも大間抜けよ!!!さっさと鍵奪いなさい!!!」


気を失い倒れ込んできたウタを支え大馬鹿者共を叱り飛ばし、言い訳しようとする間抜け共にさっさと鍵を奪えと命令を下すナミ。そんな彼らの元へカクの嵐脚が迫る。それは狼の間での戦いが第2ラウンドへ突入したことを如実に示していた。

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