【ウタ見聞色覚醒】

【ウタ見聞色覚醒】


海賊王【ゴールド・ロジャー】、彼が生まれそして死んだ街『ローグタウン』の処刑台にて一人の海賊の命が絶たれようとしていた。


 (止めて!お願い!!)


ゾロにしがみつきながら人形ウタは必死で祈る事しか出来なかった。

見上げれば囚われの身となって自由を奪われた大切な船長の姿がそこにあった。

 

「ぎゃははははははは!!そこでじっくり見物してやがれっ!!てめぇらの船長はコレで終了だァ!!!」

 

振り上げた凶刃がルフィの首に迫っていく。

その瞬間、ウタの耳に強い感情が込められた《声》が聞こえて来る。

 

「クソ野郎!!勝負しろォ!!!」(あの死刑台さえ蹴り倒せば……っ!!)

 

「……………!!!」(あの死刑台さえ斬り倒せば……っ!!)

 

襲い掛かる海賊達を倒していきながら、ルフィを助けたい意志と、それが不可能な状況にあることによる焦りが伝わって来る。

次いで聞こえて来たのはこの場に居ない船員の《声》だ。

 

「急げ!!」(早く戻って来いよみんな!!)

 

「重いのよ!!」(早く出航しなきゃ嵐に呑まれる……っ、そんな事させるもんですか!!)

 

船に向かって走りながらルフィ達の帰りを信じているウソップとナミの《声》がウタの耳に届く。

同時にウタの心に絶望が覆う、本来ならウタにはこの状況をどうにかする方法が、目の前で処刑されようとしている大事な人を救う術を持っている筈だった。

しかし、それは十年以上前に奪われて、今のウタにはそれを行使する事が不可能だった。

 

(どうして……っ!今、歌えないの!?)

 

『ウタウタの実』、ウタが食べた悪魔の実でその能力は歌を聞いた者を眠らせ、ウタワールドに誘うというモノであった。

声が出る状況ならば、歌を歌う事さえ出来ればバギーの意識を奪い、更にルフィを開放する事だって可能だった筈なのだ。

しかし、人形となり、声さえ奪われたウタにはその能力を使う事ができない、何故ならば『ウタウタの実』は歌うことでしか真価を発揮できない力なのだから。

 

「ギィ!ギィイイ!!」

 

それでも、どうにか歌を奏でようと壊れたオルゴールの様な音を繰り返し鳴らすが、それは歌になる事なく、ただの調子はずれの音にしかならなかった。

絶望に蝕まれながらも必死でそれに抗おうとするウタの耳に不意に《声》が聞こえて来た。

 

(此処までか……)

 

それはどこまでも静かで、凪いだ海の様な《声》、その《声》が聞こえた場所にウタは視線を向け、息を呑む。

 

(ルフィ……?)

 

《声》が聞こえた場所はルフィからだった。

まるで自分の死を此処で悟ったかのような、自分の終わりを受け入れたかのような凪いだ《声》に、ウタは信じられない気持ちでルフィを見つめる。

 

「ゾロ!!ウタ!!サンジ!!」

 

ルフィは叫ぶ、この場に居る仲間の名前とーーー

 

「ウソップ!!ナミ!!」

 

この場に居ない仲間の名をーーーー

 

「わりぃ、おれ死んだ」

 

首を斬られる刹那、ルフィは笑った。

その笑顔には死への恐怖は微塵もなく、何時も通りの変わらぬルフィの笑顔がそこにあった。

 

「バ……っ」

 

「バカなこと言うんじゃねぇ!!」

 

ルフィの言葉にゾロが目を見開き、サンジが慟哭する。

二人から聞こえる怒りと、間に合わなかった自分に対する失望とそれでも目の前の光景を信じたくないというグチャグチャな想いが《声》となって聞こえて来る。

そして、それはウタ自身の絶望と重なる。

 

「ギィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!」

 

ウタの壊れたオルゴールの音が悲鳴の様な音をたてる。

彼女の目の前で彼女の一番大切な光が奪われようとしている、それを無力にも眺める事しか出来ない深い深い暗闇がウタの心を覆った瞬間――――天から雷鳴が轟いた。

 

天から降り注いだ雷は処刑台に直撃し、ルフィを縛っていた戒めを処刑台ごと根こそぎ破壊した。

信じられない、奇跡の様な光景にその場に居るモノが絶句して立ち尽くす名から、ヒラリと地面に落ちた麦わら帽子を拾い上げ、あの状況から生還した男は軽快な笑い声を上げた。

 

「なははは!!やっぱ、生きてた!もうけっ!」

 

=あとがき=

ルフィの処刑がトリガーとなって見聞色の覇気に目覚めたウタちゃん。

心の声がハッキリ聞こえたのはこの時だけで、この後は何となく人の気配を《音》として捉える事が出来て、段々と精度を上げていくと私が美味しいです。

 

それはそうと無事に生還を果たしたルフィの無事を喜ぶと同時にバカバカと言わんばかりにポカポカとルフィを殴るウタちゃんは絶対に可愛いと思います。

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