ウタハの後輩と泡沫のユメ
あの子が居なくなったのは誰かのせいじゃない。あの日は厄日だった。
ミレニアムは防災分野でも常に最新の知見と技術で都市や製品を更新し続けているのは知っているだろう?それでも、セキュリティと同じでどこかに穴があるものさ。
その穴に落ちてしまったのが、たまたまあの子だった。そしてその穴からあの子を助けられなかったのが私たちだった。
あの日のことを多く語るつもりはない。記録だけなら山ほどあるからね。でもあの子を通じて見てしまったんだ。キヴォトスではほとんど見る機会がない""をね。それは砕けて散って、そして消えた。後戻りできない散光だった。
それから私はおかしくなった。自覚はあるよ。何をしたってあの子が戻ってくるはずがない。でも私の意思と気持ちと行動は整合性を失って、結果出てきたのがこの子だった。あの子であってほしかったこの子だ。
私の中のあの子はもう私自身が信じられなかったから、あの子の記録をありとあらゆる手段で集めた。客観的に正確なあの子が必要だった。監視カメラも録音も生体情報も揃えて、声も顔も表情も、あの子が持っているものをデータから正確に物質化した。銃の整備を請け負いエンジニア部として振る舞い、マイスターのフリをし続けながら、この子に資本を投じ続けた。
神秘を機械が持つのかはわからない。でもそうであってほしいと祈り、そうならないでほしいと願った。
そしてついに出来てしまった。いや完成させてしまった。人の形を真似て人のように生きる、この子が出来た。本当はあの日の穴をちゃんと塞いて次のあの子を生まないために使うべき努力と時間を個人的な狂気のために無駄にした、その成果だ。
空っぽの人の形をしているだけの獣に落ちた私が、空っぽの人形を先生に見せびらかして、何がしたいのか。わからないしわかる予定も、今はない。
"ウタハ……それは機械だ、君の後輩じゃない"
"君の後輩の形をした機械に過ぎないんだよ"
それでも戻れない。戻れないから言うよ。何度も夢の中で否定されたあの子を貴方(せんせい)に見せるよ。もう限界が近い。夢で見たように、今すぐにでも、先生(ホント)が私(ウソ)を否定してほしい。それだけだった。
「出来たよ...先生。あの子が...。いやうちの子がね。」
"ウタハ..."
「さあ起きて、愛しい子よ。」
覚醒する。浮かび上がる。空っぽの人形が、空想と現実の境界が、ヘイローが。
統合テストもせずに、すべての部品が仕様通りに動くことだけが保証された、継ぎ接ぎだらけの私の悪夢(ユメ)に火を入れた。
入れた直後、急速にぼやけた視界はきっちり暗転して、どこか騒がしさを感じながら意識を手放した。すべてが夢の中であったら、よかったのに。