『ウタカタララバイ』

『ウタカタララバイ』


『アーロンパークにて勃発した無名の海賊団、麦わらの一味と偉大なる航路からの侵略者、アーロン一味の激闘。アーロンの支配から解放された島の人々は、島をあげた宴会を幾夜も楽しんでいた…』


〜ココヤシ村〜


『キャプテンウソップ、歌います!』

「いいぞいいぞ〜アハハ!」

激闘から無事回復し、みんな村の人と宴を楽しんでいる。

そんな中、今回はナミの傍にて戦いを見守っていた私は…完全に酔いが回ってた。

「お嬢ちゃん行けるじゃねぇか!もっと飲め飲め!」

「ちょっと、まだ若いのにあんまり飲ませちゃ…」

「ん〜?らいじょーぶらいじょーぶ…」

心配の声も上がる中、全く気にせず飲み続けている。

が、最早呂律も回せてなかった。

「ほらもう…あんた休んだほうが」

「ルフィ〜チキンレース…あれ?ルヒィ?」

せっかく気分がいい中幼なじみの名を呼ぶが、先程まで肉を頬張っていた彼はそばにいない。

「ルフィなら生ハムメロン探しに行っちまったぜ?」

「え〜?しょうがないなァ…そうだ、私歌います!」

酔いと幼なじみのいない寂しさを紛らわせるよう、高らかに宣言を掲げる。

「お、あんたも歌うのか?」

「えへへ〜私一応音楽家だしィ…ちょっと待ってね…誰かペンと紙貸して!」

「ん?おお、ほれ。」

「えーと……」

ペンをもらい、頭の中にあるメロディーを綴っていく。

中々我ながらいい曲が浮かんでくれた。

「すげぇ!滅茶苦茶スラスラ書いてるぞ!」

「おお!……おォ?」

サンジが後ろで奇妙な声を上げた気もするが、お構いなくウソップのいたステージに飛び乗る。

「よォしれきた!それじゃあうたいまーす!」

「お?歌姫が歌うぞお前らー!」

「赤髪海賊団音楽家のウタだよー!よろしくー!みんなで歌ってもりあがろー!」

『おお!』

大勢の前で盛り上がってきた。

久々の興奮の中、できたての曲を披露する。

「すう………」



『直に脳を揺らすベース!鼓膜ぶち破るドラム!

心の臓撫でるブラス!ピアノ!マカフェリ!!

五月雨な譜割りでShout out! Doo wop wop waaah!』



『いや無理!!』

「あちゃー…」

その夜、村全体からの激しいツッコミと、コックのため息が重なった。



〜翌日〜


「私こんなの書いちゃってたんだ…」

メリー号の上で、良いが目覚めた中で改めて見返す。

なんて曲だ。完全に癖の強いラップだ。

こんなのみんなで歌って盛り上がる代物じゃない。

「すげェ怖かったぞこの歌歌ってたときのお前」

ウソップも完全にドン引きしている。

「うーん、宴には向かなそうだけど…どうしよう」

流石にこれはどうするべきだろう。没にするのが正解か。

「えー俺聞きそびれた!あとでもっかい歌ってくれよー!」

あの場にいなかったルフィの抗議が入る。

せっかくなら一度くらい披露してもいいだろうか。

「そう?それならまァ…あとで清書するかァ」

ひとまず楽譜をしまい、未だに来ない航海士を待った。



〜スカイピア 神の島〜


ひとりぼっちには飽き飽きなの繋がっていたいの

純真無垢な想いのまま Loud out


「………ハァ…」

一人口ずさむ曲の誕生秘話を思い出しながら、思わずため息をついてしまう。

少し前までなら合いの手をくれる人達もいただろうに、先程の大蛇の騒ぎで見事にはぐれてしまった。

果たしてみんな無事…かどうかはあまり心配していないが、

ちゃんと南にある右目とやらで合流できるのだろうか。

特に方向音痴のゾロなど今頃反対方向にいってるのではないか?

そもそも自分はちゃんといけてるのか?

色々不安要素が頭をよぎる。

「……ま、なんとでもなるか。」

今まで実際なんとかなってるのだ。今更心配することもないだろう。

それよりお腹が減った。

そろそろお弁当を開けようか。

それともこのあたりにある木の実でも探してみようかと思い辺りを見る。

「あ、ワライダケ。」

昔ルフィに教えてもらったことがある。これがあるとどんなに辛くても笑えるらしい。

一人だしせっかくなら…。

「…いや、ないない。」

思い直して手に取ったそれを放り投げる。

他にないだろうか。少し周りを見て。

「あ、かわいい。」

確かこれはネズキノコだったか。昔シャンクスの船で本で見たことがある。

可愛い見た目に反して一度食えば眠れなくなる上感情のコントロールも効かず最期は死に至るという…

「…いや凶悪すぎでしょ。」

こんなのどう活かせというのか。

敵に食わせるというのも悪質すぎる。

(…そういえばウタワールドを開いた状態で食べるとどうなるんだろう。)

眠らずに死ぬのだからやっぱりウタワールドが永遠になるのだろうか。

道連れに敵を閉じ込めるなら一種の戦法になり得たりも…。

「…やっぱナシだね。」

体が死んでも心は生き続けられるというのは確かに少し魅力的だが、そんな簡単に死んでやるつもりもない。

わたしには夢があるのだ。それを叶えるまで死んでやるつもりはない。

ましてやこんな茸に命を渡すつもりもない。

ネズキノコをこれまた放り捨てる。

流石のサンジもこれは許してくれるだろう。

「…やっぱりお弁当食べよ。」

近くの大きな根に腰を下ろす。

蓋をを開ければ、美味しそうに彩られた食事が並んでいる。

「わァ…!いただきまー…」



「メ〜!!」

「シャンドラの灯をともせ!」

「………。」

なんだか後ろが騒がしい。

ヤギでもいるのか?そう思って振り向けば…。

「メ!?誰だ貴様!」

「お前、ワイパーの言っていた青海人だな!」

…お取り込み中の集団のようだ。

ヤギみたいのが3人。ここに来たとき襲ってきたのと似たやつらが4人。

どうやら敵対しあってるし、こちらとも仲良くする気もないらしい。

「私今からご飯だからさ。少し離れてやってくれない?」

そろそろお腹が減ってイライラしてきた。

はっきり言って今すぐにでも食べたい。

「生意気な青海人め!この"斬撃貝"の餌食にしてくれる!」

「まずは貴様だ!排除するのみ!」

「あの…ほんとにさ、少し仲良く静かに…。」


問答無用!』


頭の中で何かがブチッと音を立てて、切れた。


「あっそう…じゃあいいよ、歌にしてあげる。」

ドクターストップも今はどこ吹く風。

荷物からマイクを持ち、声を響かせる準備を整えた。


迷わないで手招くメロディーとビートに身を任せて

全てが新しいこのステージ上一緒に踊ろうよ


声を響かせ、周りの景色が一変する。

一面を覆う緑は一瞬にして歪み、怪しく光る。

どうやら全員しっかりと「コチラ」に来たようだ。

ならばあとは簡単。

全員仲良く歌にしてあげるのみ。


I wanna make your day, Do my thing堂々と

ねえ教えて何がいけないの?

この場はユートピアだって望み通りでしょ?

突発的な泡沫なんて言わせない

慈悲深いがゆえ灼たかもう止まれない

ないものねだりじゃないこの願い


踊り、歌を奏でる。

誰かとともに歌うことを考えてないメロディーを表すかのように、荒ぶる五線譜が客人たちを出迎える。

逃げようとしても逃げられない世界の中で、一人、また一人と五線譜に綴られる音符と化していった。

「メ、メ〜…」

「くそ…放せ!おい!」

「悪いけど、しばらく静かにしててもらうよ。」

そう言って指を振る。

そうすれば、ここに来てから見ることの少なかった水が怪しく輝きながら水位を増して上がってくる。

「メ…!」

「な…!」

一人、また一人と、水に浸かったものが食べ物や楽器、貝に变化していき…私以外誰もいなくなった。



「ふぅ…ご馳走さま。」

食べ終わった弁当箱をしまう。

相変わらずサンジの作るご飯は最高だ。

まさかこんな早くに空島の食材をモノにしてみせるとは。

もしかしてルゥより美味しいんじゃないか?

そんなことを思いながら、つい張り切って食べてしまった。

「さてと…ふあ…」

そろそろ眠くなってきたなと思いながら、そこらに倒れている人達を見る。

ウタワールドで今頃変わった体で頑張って足掻こうとしてるのだろう。

「…このままじゃまた暴れるよね…。とりあえず武器捨ててくれる?」

そういえば、全員目を閉じたまま立ち上がる。

持っていた槍や火器、果てには見たことのない貝も放り投げられていく。

「なんだろこれ…ウソップに見せたら喜ぶかな。」

そう言って貝をいくつか拾ったあと、バッグから縄を取り出す。

「大人しく纏まっててねー。」

言いながら、寝てる全員木にぐるぐる巻で縛り付ける。

しかし改めて見ても空島の民が背中につけてる羽はおしゃれだ。

いつかライブの衣装にもこれをつけてみたい。

「よし、完了っと!」

これで起きたあともしばらく動けないだろう。

「じゃ、私行くから。起きるまで待っててねー。」

そう行って、眠り続ける彼らを背にまた歩み始めた。


しばらく歩き続ける。今の私はだいぶご機嫌だ。

「…ふふん、中々いい感じだったんじゃない今の?」

我ながら中々いい能力の使い方だったのではないか。

見事相手を一切手傷なく無力化できたのだ。

だいぶ能力にも慣れてきたし、旅の中で体力も上がったようだ。

「…少しやりすぎたかもしれないけど…まいっか!」

ストレスのままにやってしまってたかもしれないが、元はと言えばお腹が減ってたときに喧嘩を売ってきたあちらが悪いのだ。

食べ物の恨みは恐ろしい。そう言い聞かせる。

「…でも喉痛い…。」

流石にまだアラバスタでの無理が祟る中のこれは無茶だったか。

怒るチョッパーが目に浮かんできてしまう。

「しかし、みんなどこにいるのかな…」

ロビンは真面目だからちゃんと進めていそうだ。

ルフィはなんだかんだ最後にはつけるだろう。

チョッパーは今頃右往左往してるだろうか。

ゾロは…奇跡を信じることにする。

「それにしても、まさかこんな旅になるなんてね〜…」

空島なんて本当にあるとは思わなかった。

もしかしたらシャンクス達だってここまでは来れなかったかもしれない。

いつか赤髪海賊団に戻ったら自慢してやろう。きっと驚くはずだ。

「……戻る、か…。」

ふと、その言葉が引っかかった。


自分はいつかはこの一味を去る。

赤髪海賊団音楽家として、いつかはルフィ達と別れることになる。

そのことに疑問を抱いたことなどなかった。

そのはずだ。

「………。」

…では、この胸の痛みはなんなのだろう。


それを深く考える暇はなかった。

「えっ、ちょ、あ!」

いつの間にか変なところまで来ていた。

完全に不注意だった。

足場の遺跡が崩れ、下に真っ逆さまになった。



「いてて…どこここ。」

目が覚めると、辺り一面石だった。

…違う。よく見るとこれは建物だ。

しかも比較的綺麗に残っている。

「…もしかして…着いたのかな。」

まさかの私が一番乗りのようだ。

こんな奇跡があるだろうか。

こうなったら一番最初に隅まで見て黄金をルフィに自慢してやろう。

そう思ったが…流石に無理そうだ。

「駄目…少し寝てから…少しだけ…。」

流石に能力の限界のようだ。

少しくらい寝ても追いつかれはしまい。

そう思いながら、一旦意識を現実から手放した。




「……まさか、先に来ている青海人がいるとはな。」


「まァ問題はあるまい。今更ここに来ても、この神の計画の妨げにもなるまい。…ヤハハハハ…。」

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