ウタとチョッパーのサンタ大作戦

ウタとチョッパーのサンタ大作戦

10スレ目87

 夜、静まり返ったサニー号の甲板に二つの人影があった。

「いい?チョッパー。静かにね!」

「おう!」

 影の内一つは、サンタの格好をしたウタ。そしてもう一つは同じくサンタの格好をした人獣型のチョッパーである。チョッパーの後ろにはプレゼントの箱を積んだソリが置いてある。

 なぜ二人がこんな夜更けにこそこそ小声で会話しているかというと。

「あたしたちは今サンタさんなんだから、みんなを起こさずにプレゼントを置く……!これがミッションだよ」

「任せとけ!何でか知らないけど今日はみんな早寝だったからな!今頃ぐっすりで起きないハズだ!!」

 二人はサンタクロースとして仲間たちにプレゼントを配る計画を立てていた。ちなみに立案者はウタで、なぜチョッパーを協力者に選んだかというとトナカイだから。船長であるウタがサンタとして仲間たちに夢を配るのが当然で、サンタといえばトナカイ!というのがウタの中の常識だった。……なぜトナカイであるチョッパーまでサンタの服装なのかというと、ウタが自身のサンタ衣装を作ったときに布が余ったから、である。かわいくできたので自画自賛している。

 いつもは遅寝のゾロやジンベエなんかも、“なぜか”今日は日付が変わる前には就寝していた。きっと今夜のチョッパーのバースデー&クリスマスパーティーで大盛り上がりして疲れたのだろう。正直ウタもチョッパーも眠気をこらえているが、今起きているのはこの二人だけ、というわけだ。

「よし!じゃあまずは女部屋から!行くよ、チョッパー!!」

「おう!」

 二人はそーっとなるべく静かに二階への階段を上る。ソリが階段にぶつかって物音を立てないように気を遣いながら持ち上げて運んだ。ソリは置いてプレゼントだけ持っていけばいいのでは?というツッコミは野暮だ。サンタといえばトナカイとソリ。ソリがなければ成り立たないのだから。

 まず向かうのはナミとロビンが眠る女部屋。一応ウタもここで寝ている。船長室が自室として用意されているのだが、一人だと寂しいので女部屋で寝ることが多い。

 部屋の前にたどり着き、二人は顔を見合わせて頷いた。

「おじゃましま~す……」

 意を決してウタが小声で言いながら扉を開ける。照明は当然ながら落ちていて、ベッド脇のスタンドランプのぼんやりした明かりしかない。ソリをぶつけないように気を付けつつ部屋へ静かに入る。ベッドの近くまで歩み寄り覗き込むと、ナミもロビンもぐっすり眠っているようだった。

「「………」」

 チョッパーと顔を見合わせて頷き合い、ソリからナミ用とロビン用のプレゼントを手にとる。

「「メリークリスマース……」」

 小声で言いながら、ベッドのヘッドボードへプレゼント箱をそっと置いた。ナミもロビンも起きた様子はない。

 女部屋でのミッションコンプリート!

 二人は音が鳴らないように静かにハイタッチした。

 

 無事甲板へ戻ってきた二人は、安堵の息を吐いた。

 しかし次なる、というかもう最後だが、最大の難関は男部屋である。

「男部屋はさっきより何倍も難しいよ。なんせルフィ、ウソップ、ゾロ、サンジ、ジンベエ……見聞色の覇気使いがこんなにいるんだからね。そうでなくてもあとブルックとフランキーもいるし」

「ひえ……大丈夫かな、おれたち。ミッションコンプリートできるかな……」

「大丈夫だって、たぶん!みんな今日はけっこうお酒飲んでたし!!」

 何の根拠もない自信だったが、チョッパーは胸を張るウタの様子に自信を取り戻したようだった。

「行くよ、チョッパー!」

「よし、行こう!」

 サンタ二人はいざ決戦とばかりの気合で男部屋へ足を踏み入れた。

 

 男部屋では様々なハーモニーが奏でられていた。……ハーモニーといえば聞こえはいいが、要はいびきである。ウタのぴょんと立っていた髪がふにゃっと垂れ下がった。いけない、テンションが下がってしまった。頭をぶるぶると振って気合を入れなおし、二段ボンクの傍へ歩み寄る。見上げて気づいたが、上段へは梯子を上らないとプレゼントを置けない。緊張してきた。

 とりあえず一段目からプレゼントを配ることにした。寝ているのが誰かを確認しつつ、プレゼントを枕元に置いて行く。途中、チョッパーがプレゼントを置いた途端ウソップが「うーん」と寝返りを打ったので無駄に心臓が跳ねてしまったり、ルフィの寝顔に魔が差しそうになるウタをチョッパーが慌てて止めたりとハプニングはあったものの、どうにか上段含め全員へプレゼントを配り終え、二人はやりきった思いで再度静かにハイタッチした。

 

 無事ミッションを終えた二人はソリを片付け、アクアリウムバーで乾杯していた。といっても飲んでいるのはホットミルクである。

 パーティーで大騒ぎし、先ほどのプレゼント配りで気力を使い果たした二人は眠気が最高潮だった。特に、パーティーの主役でテンションが上がって楽しんでいたチョッパーはもうすでに夢の中である。ウタもパーティーで歌って踊って騒いだので、もう部屋へ戻る気力もない。すやすや眠るチョッパーのそばに最後に隠していたプレゼントを置いて、ウタもとうとうカウンターへ突っ伏した。

 

 

 

 ———静まり返ったアクアリウムバーに入ってくる人影があった。それも複数。

 カウンターに突っ伏しているウタとチョッパーへ近づき、眠っているのを確認して笑うのは、眠っていたはずの仲間たちだった。

「よく寝てるわね」

「ウタもチョッパーもパーティー中テンション高かったからね」

 小声でささやき合って笑うのはロビンとナミ。

「それにしても、ウソップお前あれわざとか?チョッパーが来たときに寝返り打ったの」

「あ!?……ああ!!もちろん!!ちょっと驚かそうと思ってな!?」

「マジで寝てたなコイツ……」

「しーっ!ウソップさん、お静かに!お二人が起きちゃいますよ!」

 サンジに小突かれて慌てるウソップに、ぼそっと呟くのがゾロ、ウソップをたしなめるのがブルック。

「ずいぶん前から用意していたようじゃからのう、気疲れしたんじゃろう」

「明日になって二人が驚くのが目に浮かぶぜ」

 顔をほころばせているのがジンベエとフランキー。

「ありがとな、二人とも」

 ウタとチョッパーに毛布をかけてやり、そばにプレゼントを置くのがルフィだ。

 ———全員、実は起きていた。ウタとチョッパーが四苦八苦しながらプレゼントを配りに来てくれたので寝たふりをしていたのだ。全員が“なぜか”早寝したと二人は思っていたが、わざとだったのだ。

 もっと言うと、この計画は以前からバレていた。二人とも隠し事ができる性格ではなかったので普段からウキウキソワソワして何か企んでいるのがバレバレで、ロビンの偵察により計画は白日の下に晒されていた。船長と船医の微笑ましい計画に、船員たちはお返しを用意していたというわけだ。

『メリークリスマス、ウタ、チョッパー』

 仲間たちに囲まれて、ウタとチョッパーはむにゃむにゃと幸せそうな笑みを浮かべるのだった。

 



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