ウォーターセブンでの一幕
「…よし。これがパターン26だな」
昼下がりの海岸で、ウソップは一人メモを確認する
一味に復帰するには船長であるルフィの心を掴む必要がある
もちろん、ほかのメンバーもだ
そのためには緻密なリハーサルが必要不可欠であった
「よし、次のパターンh「あら、ウソップくんじゃない!」
「うわあああああっ!!」
背後からかけられた声におもわずのけぞると、そこには妙齢と言っても過言ではない顔立ちの女性が立っていた
それはもはや行く先々で遭遇している人物で、ウソップも知らない顔ではなかった
「な、なんだぁ…チハヤのおばちゃんかよ。ビックリさせないでくれよー」
「フフッ、ごめんなさい」
声の主が知り合いで安心したウソップに、女性-ロロノア・チハヤ-は小さく笑った
「ゾロには会ってきたのか?」
「ええ。あの子、刀が一本折れちゃって。大事にしてたからかなりショックだったみたい。それにしてもルフィくんってスゴイのね。お祖父様が海軍の英雄でお父様が革命家だなんて」
「な、なんだそりゃ!?海兵と革命家と海賊って、どんな家系だよ!」
隠れて聞いていたことがバレないようウソップは話を合わせる
対してチハヤは変わらず穏やかに笑っている
我が子が海賊になっていることに全く動じず、夫と揃って「あなたが自分の信念にまっすぐ生きているなら、それでいい」と言うような人物だ
きっと息子の友達と認識しているルフィの血筋に関しても、その姿勢は変わらないのだろう
「ところで、ウソップくんはここで何をしていたの?」
こちらに話を振られ、ウソップの肩がビクリと跳ねる
「えっ!?おれは、その…」
ワタワタと手を動かしながらあれこれ誤魔化そうとしたが、やがて観念したのかため息をついてこれまでの経緯を説明した
「そう、ルフィくんと…」
「ああ。でもおれ、エニエス・ロビーから戻ってきてもう一度アイツらと旅してェって考えるようになったんだ。だから、こうしてみんなのとこに戻るための練習してたんだ!あ、これルフィ達にはナイショな!」
そう言って手を合わせるウソップ
するとチハヤは、
「構わないけれど、あの子はそう簡単に許さないと思うわよ?」
と返した
その言葉にウソップの表情が一瞬硬くなる
「たしかに、ゾロはちょーっと厳しすぎるとこがあるから、そこが厄介なんだよなー。でもまァ、なんとかなるだろ!」
そう言って笑うウソップを見つめるチハヤの目は、どこか不安げであった
だいぶ陽が傾いてきた頃、
「おーい!」
「チハヤー」
どこからか二つの声が海岸に向かっているのが聞こえてきた
「あ、ゾロ達だ!そんじゃ、さっきのは絶対ナイショだからな!」
そう言っていそいそとどこかへ向かうウソップに「ウソップくん」と声がかかる
「お節介かもしれないけれど、練習したの全部ナシにしたらいいんじゃないかしら」
「え、でも…」
「泣いてもいいから、みっともなくてもいいから、一度全部かなぐり捨ててみたらいいと、おばちゃんは思うな。これもひとつの“スナッチ”ね」
「すな…なんだ?まっ、とにかく頼むよ!」
首を捻りながらも走り去っていくウソップの背中に、チハヤは「いつかわかるわ」と穏やかに微笑んだ