ウィッチクラフト・テンプテーション(前)

ウィッチクラフト・テンプテーション(前)


「なあ、やっぱ無駄だって……さっさと続けようぜ……?」


「いや! まだもうちょっと……もしかしたら柔らかいとこがあるかもしれないだろ!?」


そう言って、自分で召喚したアトラの蟲惑魔の体にべたべたと触れる友人の姿を、俺はフィールド越しに――ウィッチクラフト・ハイネの肩越しに眺めていた。


質量を持つ立体映像――リアルソリッドビジョンが実用化に至ったのは、ずいぶん前のことになる。

今や誰のデュエルディスクにもリアルソリッドビジョンの投影システムが搭載されており、デュエルを始めればどんなモンスターもカードから実体を伴って現れてくれるが……一部のデュエリストは、共通した小さな不満を抱いていた。


まず、デュエル中でないと呼べないというのがひとつ。

それからもうひとつが、今の友人の姿にある。


「畜生……!! 目の前にかわいい女の子モンスターがいるっていうのに……!!!」


主人に体をべたべたと触られ、あからさまに不機嫌な様子を示し始めるアトラの蟲惑魔。

カード一枚一枚に簡素なAIが仕込まれているため、接触に対して反応を返すことはある。それが不躾というか不敬というか、とにかく一般的に失礼なことに値すれば機嫌も悪くなる。

しかめ面でこちらのハイネを見つめるアトラを見ながら、俺も彼を真似てハイネの手に触れてみた。


「………………硬いんだよな」


その手は、さながら服屋のマネキンのように硬かった。


これが、その一部のデュエリストが抱いている不満の理由。

リアルソリッドビジョンはモンスターに実体を与えるが、その感触はどれも同じで、ほのかに暖かくはあるが等身大のフィギュアのように硬いのだった。

ブルーアイズホワイトドラゴンの鱗と、アトラの蟲惑魔の肌の感触にまるで違いがないのだ。


蜘蛛の方のアトラの蟲惑魔に頭をかじられながらうなだれる友人の姿を見つつ、ちらとこちらに振り返るハイネと目を合わせる。


まるでそこにいるかのように微笑みを返す、ウィッチクラフト・ハイネ。触れた手には触れ返し、小さく握ってもくれる。

けれどもその手の感触はとても硬く、ヒトのそれとは程遠い。彼女はそも、そこにあるがそこにいない、立体映像に過ぎないのだ。


――俺の友人のように、初恋をモンスターカードに捧げたデュエリストにとって。

この、「そこに居るし触れるのに、触っても物足りないし出すのも手間」という実態は、なかなかに酷なものらしかった。





結局あの後出したヴェールの効果で攻撃力8400になったハイネの一撃でデュエルは終わり、現地で友人と別れた俺は帰路についていた。

祝日の夕方ともなれば、通りを行く人の流れもまばらになっている。帰ったら何を食おうかと考えていると、道路脇から投影されるビジョンモニターの映像がふと目に入った。

――デュエルモンスターズの新弾パックのコマーシャルだ。巨大な城の玉座に女王と思わしき女性が鎮座している。

脇や肩が露出していて、あと胸もデカい。新弾パックの目玉は、どうやら彼女らしい。


(増えたなー、かわいい女の子モンスター)


前々からそういった方向性のモンスターは結構いたのだが、最近はデッキパワーも相まってかなり前面に出てくるようになった印象だ。

イラストにも気合が入っていて、実際召喚してみるとあまりに綺麗でびっくりするほどだが、デュエルはデュエル、繰り広げられるのはドラゴンとかゴーレムとか機械とのブン殴り合いである。

今日の俺と友人のように可愛らしい女の子モンスター同士のデュエルもあるにはあるが、それもそれで本気のぶつかり合いに違いはないので、デュエル中に彼女たちを少女として観る余裕などないというのが実状であり、大半のデュエリストが同じことを思っている。

その中で、尚もモンスターを女の子として好くやつがいることも事実だが……こうしてドヤ顔を見せる胸の大きな女王の姿を見ていても、(確か罠カード主体のデッキだったよなあ)とか、(あいつのデッキとシナジーがあったりすんのかなあ)とか、そういうことばかり考える自分がいて、ある意味では俺よりもあいつの方がデュエルを楽しんでそうな気さえしてきてしまっていた。


そもそもデュエルが出来なきゃ市民権すら得られない街の住民なのだから、思考としてはその方が正しいはずだが。

ふと足を止めてデュエルディスクからデッキを外し、六十枚のカードの束をじっと見つめてみる。


裏返したカードの表面、デッキのいちばん下にあったのは、先のデュエルでも活躍してくれたウィッチクラフト・ハイネだった。


彼女の硬い手を握ってみたことを思い出す。手を伸ばすとそれに応えてくれて、ぎゅっと握り返してくれた彼女の姿。

基本、デュエルは高速だ。手持無沙汰になってリアルソリッドビジョンに手を伸ばす機会などそうない。

しかし実際に触れてみると、いくら硬く無機質でも、そこに妙な心の揺らぎを覚えてしまうものだった。


「………………かわいいんだよな、ハイネ…………」


普段のデュエル一辺倒の思考をいったん隅に置いといて、改めて彼女のイラストを見てみると、あいつの気持ちもわからなくもなかった。

……というかそもそも、俺がこのデッキを握ったのも、パックを剥いて手に入ったカードが『可愛くて強そう』だったからな気もする。

その考えがデュエル一色に染まってしまったのはいつからだったか。バカみたいに強い環境デッキを差し置いて、それでも彼女たちと一緒に戦うのは、俺自身の愛着以外にも理由があるのかもしれない。


そんな物思いにふけっていると、道路から警告音が鳴り始め、アナウンスが響いた。


『当レーンは、ライディングデュエルが開始されます。一般車両は退避して下さい』


「うおっと、危ねえ危ねえ」


歩道を歩いていた他の人たちもぱたぱたと走り、道路から離れていく。

よりにもよってこの道で、しかもこんな時間にとは、えらいはりきりボーイが居たものである。俺も走り、近くにあったカードショップのあたりまで退避した。


「このあたりまで来れば、まあ大丈夫だろ……たぶん」


距離があっても吹っ飛んだDホイールが飛んできたりすることがあるので、一概に安全とは言い難いが。

手に持ちっぱなしだったデッキを装填し直して、道路を避けて家に帰るにはどうしたらいいかなと考える。暫くしてから、キン、ヒィン――と風を切るような音が聞こえてきて、変形した道路の上をDホイールが突っ走ってくのが見えた。


「さてさて、どっちが勝つのやら」


なんとなしに、電光の輝きをぼうっと見つめていたところ。


「おーい、おにーさん」


不意に誰かに呼ばれ、ふっと後ろを振り向いた。

誰もいない。カードショップの中でくたびれた爺さん店員が頬杖をついているのが見えたが、声色からして彼ではない。


「こっちこっち、こっちだって」


声のする方を確かめながら足を運んでみると、カードショップの脇、別の店との間にある路地裏から声は聞こえていた。

体格と不釣り合いな大きさの、ぶかぶかなフードを被った女の子がそこに居た。


「……え、っと? 君が呼んだの?」


「そうそう。ちょっとお願いがあってね……」


「用?」


何者とも知れぬ人間だが、こんな感じでデュエルを申し込まれることも初めてではない。

ほとんど反射的にデュエルディスクを構えながら歩き寄る俺を、女の子は、ああ待って待ってと静止した。


「お願いってのはそっちじゃないよ。……間違いじゃないけど」


「……? デュエルじゃないなら、何だよ」


女の子はぱたたとこっちに近寄ってきて、俺のデュエルディスクをまじまじと見つめた。

それから、うん、やっぱり――と一言。


「おにーさん…………かわいい女の子のデッキを使っているね……?」


にんまりと探りを入れるように笑いながら、一言。


「………………そうだが?」


環境でもないかわいいだけのデッキというのは、わりかし小ばかにされがちである。

なぜ彼女にデッキの内容が知れたのかは定かではないが、ここで退いてはならない。今時ウィッチクラフトなぞと笑ってきた相手を、俺は例外なくワンターンでねじ伏せてきたのだから。

主にウィッチクラフトゴーレム・アクセスコードトーカーで。


すっとデュエルディスクを構え直し、思わず敵意を含んだ眼差しを向けてしまった俺に、女の子はぱたぱたと両手を振る。


「ああいやいやいや! 下に見るような意図はないんだよ、けっして! むしろそういうデッキの方が助かるっていうか――」


だからそれを下げて欲しい、と焦りながら示す彼女を見る。どうやら本当にそういった意図ではないらしい。

何なのかと問う前に、女の子は咳ばらいをひとつしてから。


「……詳細は明かせないけど、ただいま新型デュエルディスクのテストに協力してくれる人を探しててね」


そう言って、小型の白いデュエルディスクをコートの内側から取り出した。

見慣れない形をしたそれに、かしんとデッキを嵌め込むと、ディスクを手に持ったまま片手でカードをドロー。


「とはいっても、これにデュエルの機能は搭載されてないの、まだね。……じゃあ、何の機能のテストかっていうと」


そのまま、ドローしたカードをフィールドに置く。

――瞬間、ふわりと淡い光が放たれて。光が粒子となって散っていくと、召喚されたモンスターがそこにいた。

女の子と俺の足元。丸っこくて小さな、白い毛皮の……これは……えっと。


「…………バニーラ??」


「そ。要するに次世代型リアルソリッドビジョンのベータ版を搭載してるの」


十数年ぶりに見たわ、バニーラ。

バニーラはぴょんと跳ねて女の子の肩、頭に飛び乗ってから、俺の胸へ向けて飛び込んできた。


「わ、っと……!?」


もふっ、と守備力二千五十のバニラモンスターのダイレクトアタックを受ける。

思わず両腕で抱きかかえる形になって受け止めたが、存外に重たかった。

ずっしりとしていて、それでいて毛皮はもふもふ、撫で心地のいい暖かい体をしている。


…………。

ん……? もふもふ……??


「え……あれ、お嬢さん、このバニーラは」


「言ったでしょ、次世代型のリアルソリッドビジョンって」


もぞもぞと俺の胸の中で丸まるバニーラを撫でる。毛皮は柔らかく、内側にある骨格の硬さ、それから呼吸して上下する体の動きまでも手から伝わってくる。

……これが…………ソリッドビジョン、なのか……?


「す……ごいな、これ」


「でしょ? これはテスト機だから投影システムしか搭載してないし、デュエル中に限らずいつでも、高レベルのモンスターだってリリースの必要もなく出せるの。おにーさんには、そのテストを手伝ってもらいたくて」


女の子がディスクからカードを取ると、バニーラは再び光の粒子に包まれ、今度はふわりと消えていった。

……胸にバニーラを抱えていた感触が、まだ少し残っている。あのもふもふとした感触と、呼吸で上下する体と、何よりもほのかな体温。あれが、この新型デュエルディスクが作り出すリアルソリッドビジョンの感触なのか……?


「っ、いや、けど……こんな性能のデュエルディスクのテストを、俺がしていいものなの……?」


俺は無名のデュエリストである。ベータテストとはいえ、こんな道端でこんな代物をぱっと寄越されていい人間ではないだろう。

そう思ったのだが、女の子にとってはそうではないらしく、いいからいいからとぐいぐいディスクを押し付けられ、ほとんど強制的にそれを受け取ってしまう。


「考えてもみてよ。これがサイバー流デッキとか時械神デッキとか、ヌメロンデッキだったらどうなると思う?」


「え? いや、それは…………」


俺はそこで、彼女が俺にこれを押し付けた理由にようやく勘づいた。

この精度のソリッドビジョンで、サイバーエンドドラゴンやミチオンやシニューニャが呼ばれたら、確かに天変地異もいいとこだ。

俺のウィッチクラフトなら、呼ばれるのはせいぜいピットレやポトリーにシュミッタ、ジェニーといった女の子たちで…………。


「…………ちょっ、と待て。それは」


それは……それで……問題、じゃないか?

だって、いくらソリッドビジョンとはいえ、これだけ高い精度で女の子が投影されてしまったら。

それは…………もはや。


うろたえる俺の心の内を見透かしたように、女の子はにっこりと微笑んで顔を近づけて。



「だいじょーぶ。だって、ただのソリッドビジョンだよ?」



その微笑みが、やけに蠱惑的で。

 

「ただの……ソリッドビジョン」


「そう。デュエル中に限らず……ていうか、デュエル機能すら搭載してないから、ほんとに、好きなモンスターを、好きな時に呼び出すためだけの……アイテム。ね?」


そんな……都合のいい道具が。

都合よく、俺のもとに来ていいもの、なのか?


「というわけで――試遊のご協力、お願いね?」


俺が困惑している隙に彼女は、そう言いながら……俺が持ったままのデュエルディスクのモンスターゾーンから、一枚のカードを取り外した。


「ぃ、いや、まだやると決めたわけじゃ――」


そのカードの裏面を向けたまま、女の子の体が光の粒子に包まれる。


「……はい!?」


「じゃ、よろしくおねがい。ああ、レポートとかは必要ないから……ホントに、好きに遊んでね?」


「いや、いやいやいや!? え…………っ」


伸ばした手が虚空に触れて、目の前から女の子の姿は消え失せていた。

女の子がディスクにセットしていたデッキと、彼女が取り外したカードと一緒に。


その場に残されたのは、俺と……俺の手にある、カラになった白いデュエルディスクのみ。


「…………え……ええ……?」


俺は、未だに目の前で何が起きていたのかを理解できないまま。

バニーラを抱きしめていたときのことを反芻しながら。

自分のデュエルディスクに収まっているデッキの――カードたちの姿を思い浮かべて。


「…………」


……興味。

そう、興味だ。愛用しているカードたちが、より高い精度で現れてくれることに対する期待と、興味だ。そう誰にでもなく心の内で言い聞かせながら。

ほんのわずかに、心の底に根付いた欲求の形を実感していた。





今まで、一度たりとも彼女たちでそういった妄想をしなかったかと問われれば。

答えは、否である。

召喚された彼女たち――彼女と、そういった行いをする妄想をしなかったかと、問われれば。

やっぱり、答えは否なのだ。


「…………」


あの後、周囲を走り回ってみたが、この白いデュエルディスクをくれた彼女はどこにもいなかった。

自宅であるワンルームマンションに帰るころには、外はすっかり暗くなっていて、結局俺は飯も食わずに小一時間このデュエルディスクと睨み合っていたのだった。


「……いや……でもな……うん……でもなあ…………」


結局彼女が何者であって、俺に何をさせたいのかとか、これは本当に安全なのかとか、解決しない疑問は多々あるが。

この、限りなくリアルで精巧なリアルソリッドビジョンを投影できる道具で、好きに遊んで、と言われてしまえば。

ひとり暮らしの男がすることなど、殆ど決まっているようなもので。

そもそもこのワンルームの中、フローリングに敷かれたふっかふかの布団の上に呼べるモンスターなど、それこそ限られている。


「本当に出るのかどうかも……なあ……」


もしかしたらあの子が持ってたカードが特別で、俺は騙されてオモチャを掴まされただけかもしれない。

彼女がこれを寄越してきたのは、今こうして俺がネットだとかでさんざ見れるシチュエーションを妄想するだけして、騙されて転げる姿を見て笑うためなのかもしれない。

自分の意思を押し隠すように、そんな建前をいくつも並べれば並べるほど、反比例して胸の奥底の欲望が大きく膨らんで顔を覗かせてくるような気がした。


――会いたい。


会ってみたい。


あの時抱きしめたバニーラのように、人のそれと遜色ない質感と体温を持った彼女に、会いたい。

その彼女を目の前にした自分が、いったい彼女に何をするのかと、糾弾するような自分がいて。

それこそをしたいのだと、バクンバクンと高鳴る心臓がそう叫んでいるような気がした。


頭の隅にかすかによぎる、蟲惑魔使いの友人の顔を思い出しつつ。

これがネタなら笑ってくれ、ガチだったらごめん――と、心の内に謝りながら。


「…………ウィッチクラフト・クリエイションを……発動……」


デッキを広げ、その中にある彼女を手札に加え。

泣き虫のくせに凛々しい表情を見せる彼女を、ディスクにセットする。



「ウィッチクラフト・ハイネを…………手札から……召喚……ッ!」



コウン、と。ディスクが起動した音がしてから、ぎゅっと閉じていた瞼の向こうから、まばゆい光が差し込んでくる。

しばらくして、光が止んで。部屋を照らす電光の明かりだけが残ったと、そう感じてから目を開けたとき。


「………………?」


「くぅ……くぅ…………」


俺の目の前には。

ぺたんと膝を畳んだ、女の子座りのまま、寝息を立てているハイネがいた。





いくつものベルトでフロントを閉じた黒い衣服が、胸元だけは押さえきれずに開いており、真っ白い胸の谷間が覗いている。

上半分は露出し、下半分はインナーと思わしき布で包まれているが、実際にそれを目の前にして、改めて圧倒された。


「……で…………っか……」


いや、ハイネのおっぱいでっか。彼女より大きい女の子モンスターは確かにいるが、今の俺の目には彼女のそれしか入ってこない。

寝息を立ててわずかに胸が上下するたび、ほんのわずかに揺れている。片目を隠す前髪も、ゆらり、ゆらりと体に合わせて振れる。

しかし、なんでそもそも寝ているんだろう。それも座ったまま。理由はわからないが、とにかく召喚したからには彼女に触れてみないことには始まらない。


たった今投影された、新次元のリアルソリッドビジョンである彼女。

そう、彼女はソリッドビジョンだ。投影された場所だって、俺の部屋だ。

だから、本来はマネキンのように固いそこに触れたところで、誰に咎められるわけでもない。


意を決して、手のひらでそれを包んだ、瞬間。


「はっっ…………??」



"む、んにゅぅ…………うっ……♥"



手のひらに、服の生地のすべすべした感触と、体温と、その奥の柔らかさがいっぺんに伝わってきて。

ハイネのおっぱいをわし掴んだ自分の手を見つめながら、俺は、情けなく放心していた。


「……ん…………」


ハイネはまだ眠っている。わずかに手のひらを動かせば、手全体に胸の感触が伝わってくる。

あの時触れた手のひらとまるで違う――ここまで大きいものを揉んだ経験はないが――生の人間のそれと遜色ない、暖かみと柔らかさ。

我慢できずにもう片方の手でもその胸に触れてしまう。こんなことをしていいわけがないと、ずっと圧し留めてきた欲求の箍が簡単に壊れて、彼女の体を夢中になって手のひらで貪ってしまう。


"むにゅぅぅう……っ♥ むに、むにっ……ぎゅっ、むぅ……♥"


「ん……ぅ、…………ん……ぇ……?」


まずい。これは、まずい。止めようがない。

手のひらへの感触だけでもとっくに理性を壊されているというのに、無意識に体を近づけると、香りまでもが鼻腔から浸食してきて、脳を蕩かしていく。

女の子の香り、としか言いようのない匂い。それに加え、近づけば近づくほど、当然ながら彼女の顔が近くなり。唾液でてらりと光る柔らかそうな唇だとか、わずかに開いた瞼だとか、視界が、とにかく彼女の顔に埋め尽くされていく。

ハイネの顔はこんなに可愛らしいものだったのか。かわいい。とにかく、顔がいい。

うたた寝をする少女のおっぱいを両手で鷲掴みにしながら、息を荒くして彼女の唇を見つめる俺の姿は、変態としか言いようがないだろうが。


「え、っと……あれ……? 私……いつの間に寝て――」


彼女は俺が召喚した、俺のモンスターだ。

だから、何の問題もない。



『だいじょーぶ。だって、ただのソリッドビジョンだよ?』



「……へ? え、っ、ゃ…………!?」


何をしようと問題はない。

だって彼女は……俺のものじゃないか。



目を開き、一瞬驚愕したような表情を見せた彼女を、俺は。

布団の上へ、うつ伏せになるように押し倒した。





「きゃぅ…………っ!!?」


小さな悲鳴をあげて、少女にしては大きめのハイネの体が倒れ伏せる。

普段俺が使っている布団の上に、ハイネが寝転がっている。膝をつき、持ち上がった大きなお尻を俺に向けて。

黄色と金色の中間の色をしたタイツで包まれたそこを撫でれば、タイツの触感と内側の柔らかな尻肉の感触が伝わってきて、自然と息が荒くなってくる。


「んぃっ!!? ちょ、ちょっと、どこを触ってっっ……!? ぃ、いえそれよりもっ、誰なんですか貴方、なんで私、こんなとこにっ…………!?」


胸はもちろん大好きだが、タイツ越しに撫でるお尻もなかなかどうして、心地いいものだ。

次世代のリアルソリッドビジョンを堪能しつつ、ふとハイネが困惑していることにようやく気付く。


「ふーーっ……ふーーっ…………!」


怯え切った表情で、涙を浮かべながらこちらを睨んでいる。

デュエル中であれば絶対に見ることのない、自身の相棒の姿と表情。

ずきりと罪悪感が心に傷をつけるが、それ以上の背徳感で体が動く。


――少し冷静になって考える。これが本当のハイネだったら、まずこちらに反撃を試みるだろう。

彼女の攻撃力はレッドアイズと同等であり、ぶん殴られれば俺はまず生きてはいまい。

つまり、この状況を覆すことは、彼女にとって容易なはずだ。それでもなお、こちらにお尻を向けたまま、睨む以外のことをしてこない、ということは。


「ひ……っ!? や、止めてっ、止めてくださいっ……!!?」


彼女のタイツを引き延ばし、ぐっと力任せに左右に広げ、びりびりと破く。

内側にある黒い下着と、真っ白な地肌が露わになり、尚もぶるぶると震える以外のことをしてこないハイネを見て確信する。

ああ、やっぱり彼女はソリッドビジョンだ。この反応も、拒みはせど明確に危害を加えようとしないことから、AIによる自動的な対応なのだろう。

友人の頭を甘噛みしていたアトラの蟲惑魔とさして変わらない、ということだ。


しかし、相手がAIならば、こういったマイナスに転じる行動ばかりしてもいられない。

俺はハイネの背中に覆いかぶさって、彼女の頭の横に肩肘をつき、その手で彼女の頭を軽く抱き寄せて。


「な……何なんですか、貴方っ、さっきから……! やだ、いや……!!」


「いつもありがとう、ハイネ」


「………………はい……?」


カードにはさほど複雑なAIは仕込まれていない。

デュエル中に感謝の言葉や好意を伝えれば、転じて機嫌をよくしてくれるし、喜んでもくれる。


モンスターを撃破して得意げに振り向く、あの笑顔にいつもかけていた言葉。

それとは別の、もっと踏み込んだような言葉すら、俺は不思議と口にしてしまっていた。


「好きだ」


「…………~~~~っ!??!?」


「ハイネは可愛い。すごく可愛い。それと強いから、俺はハイネが大好きだ」


「はい……はいっ…………!!??」


我ながら歯の浮くような言葉だが、実際のところ本心だった。

テーマで言えば彼女たちよりも強いデッキは大量にある。お世辞にも、彼女たちは物凄く強いとは言い難いが。

構築とプレイング次第ではどんな相手にも噛みつき、紙一重で喉笛を食いちぎれるポテンシャルを秘めた彼女たちが、彼女が、俺は好きなのだ。


汚く濁った欲望に身を任せて、さらけ出して、ようやく悟った簡単な理由。


そりゃあ。

好きな子相手にこんなことをすれば、罪悪感だって背徳感だって、すさまじいものだろう。


「……そ……んな、こと……ぃ、言われ……ましてもっ」


俺の枕を涙でぐしょぐしょにしながら、ハイネがもぞもぞと俺から目線を外す。

感触もさることながら、動きひとつとってもリアルなものだった。

これがソリッドビジョンでなく、本当の彼女であったらよかったのに。


「わ、たし……困りますし……そのっ……」


しかし、これはこれで、困惑する彼女の態度に少し煩わしさを覚えた。

そりゃあそんな反応もなるだろうが、せっかくソリッドビジョンなんだ。もう少し都合のいい反応でも良かったじゃないか――などと思いつつ、空いている手を彼女の背中の上で滑らせて、黒い下着の下に忍ばせた。


「ひっ……!!? …………ぁ」


――にぢゅ、り。

と。

感じたこともない熱さと、ぬるりとした柔らかい感触があった。


「…………」


よくよく見てみれば、ハイネは泣きじゃくりながらも頬から耳までを真っ赤に染めている。


「……ちが、これは……違っっ」


「ハイネ」


もう一度、顔を彼女の耳元に近づけて。

それと同時に、あまりにもリアルで心地いい感触の、ぐちょぐちょに濡れそぼった膣内ににゅるりと指を侵入させた。



「好きだ」



「~~~~~~~っっっ!!!♥♥」


口にした瞬間に、膣内がぎゅうと締まって中指を締め付けた。

すぼめた口に思い切りしゃぶりつかれて包まれるような、熱さと柔らかさに満ちた感触が襲ってくる。


ああ、そうか、なるほど。

下の口では――とかいう、その。


ありのままの好意を伝えれば、簡単に股間を濡らしてくれる。

――『遊ぶ』にあたり、これほど都合のいいこともあるまい。


「……ゃ……やだっ……言わないで、言わないでっっ…………」


大した経験もないが、ぐぢゅぐぢゅと膣内で指を動かしてみる。

愛撫というより、弄ぶ。ぎゅっと締まる膣内の脈動と膣肉の感触があまりに心地よくて、もっと感じていたくなる。


「私、私っ、ぜったいにヘンでっ……! ぁ、あなたのことっ、何にも知らない、はず――なのに……っっ」


「ハイネ」


「ぁ――――っっ♥♥」


名前を呼ぶだけですら、彼女の膣内はぎゅうと反応した。


「……本当に可愛いな、お前……」


「~~っ……♥ やだ、やめて、言わないでっっ……♥♥ ぉ、お願いします、から……っっ」


止めてと言われ、俺は体を起こし、ぬるりと彼女の膣から指を引き抜いた。

その手で自分の股間を取り出せば、何をされても射精しそうなほど、先走りでドロドロになった自分の竿がぶるんと現れる。

それを、彼女の股間に押し当てて。


"ぐぢゅ…………っ"


「ひ――――っっ!!?」


恐怖に満ちた、けれどどこか嬌声のようでもある小さな悲鳴をハイネがあげる。

ぐ、っと下着を引き延ばし。その奥にある秘裂を、じっくりと観賞したい気持ちを押し殺し。


もはや声すら上げず、真っ赤に染まった顔のまま、涙を浮かべてこちらを見つめ。

ふるふると黙って首を横に振るハイネと、目を合わせる。


思いとは裏腹にひどく反応を示す自分の体と、俺に恐怖しているのだろうか。

泣き虫の彼女は本当によく涙を流すし、その泣き顔があまりにも可愛らしくて。


――ソリッドビジョン相手じゃなけりゃ、童貞卒業なんだけどな。


そんなことを考えながら。


「…………ぁ」


親指で押し広げた、だくだくと透明な汁を流す膣穴に先端を押し当てて。

そのまま、ぐっと強く押し付けた。


「ぉ゛っっ――」


"にゅ、ぐっっ……つ、ぷっっ…………♥♥"


粘液と粘液がぶつかり合って、はじけて。

肉と肉が絡み合って、溶け合うような快楽。


"ばぢゅんっっ!!!♥♥"


「あ゛――…………ッッ♥♥」


がくがくと、びくびくと痙攣する彼女の腰を、両手で鷲掴みにして。

俺は俺の相棒を、エースを、大好きな女の子を。


ウィッチクラフト・ハイネを、犯した。



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