ウィスキーピークにて 4

 ウィスキーピークにて 4


 その言葉を聞いて黙っていられないのはさっきまでビビと話していた一味の航海士ナミである。

 そもそもゾロがビビを庇って戦ったのはナミがアラバスタ護衛隊長イガラムの依頼を請け負ったからだ。

 護衛の恩賞10億、それが無理でもこの場で守った分の見返りは貰えなければ働き損である。


 「ちょっとあなた、私たちが先に依頼されたのに割り込みする気?

 マナーがなってないんじゃないの?」

 「はァ? 10億なんて額で本当に受ける気だったんですか?

 てっきり断ってもらう為に吹っ掛けてるのかと思いましたよ。

 相場を知らないなら教えてあげましょうか?」


 睨み合うアドとナミ。

 ゾロは興味なさげに腕を組み、ウタはルフィの頭の上でギィギィと鳴きながらパタパタと腕を振っていた。

 そしてルフィは内心ハラハラしながら二人を見ていた。

 本人に自覚はないがアドはかなり血の気が多い。

 フーシャ村にいた時、反抗心からつい彼女の歌を下手だと言ってしまったルフィの胸倉に掴みかかったこともある。

 当時はそのまま咳き込んで倒れてしまう有様だったが、今のアドなら投げ飛ばすだけでは済まないのは確実だ。


 「あの、助けてくれたことにはお礼を言うわ、ありがとう。

 でもそれは無理」

 「え?」

 「なんで? 王女なんでしょ?!」


 火花を散らす二人を遮ったのは渦中のビビ本人である。

 

 「……アラバスタという国を?」

 「ううん、聞いたことない」

 「仕事で立ち寄ったことが。もう数年前ですけど。

 でもあの国は……あー、そういう事かクソ海賊め……!」


 苛立って吐き捨てるアド。

 ビビは事情がさっぱり分かっていないナミたちに説明を続けた。

 平和だったアラバスタに数年前から各地で反乱を目的とした暴動が起きていること。

 それが何者かに扇動されたものであり、関わっているのが”バロックワークス”という組織だという事。

 そして理想国家建国を謳うBWのボスの真の目的がアラバスタの乗っ取りである事。

 どれだけ大国であっても、内乱続きでは金もなくなる。

 ナミはため息とともに納得した。

 そこに今まで黙っていたルフィがそういえば、といった風に切り出した。


 「おい、黒幕って誰なんだ?」

 「それだけは言えないわ!! 聞かないで!! あなた達も命を狙われることになる!!」

 「はははっそれはごめんだわ。国を乗っ取ろうなんてやつだもん、きっととんでもなくヤバイやつに違いないわ」

 「ええそうよ! あなた達がいくら強くても王下七武海の”クロコダイル”には決して敵わない!」


 沈黙が広がった。

 言ってんじゃねぇか、とゾロが呆れて呟くのとほぼ同時にアドが懐から引き抜いた拳銃を撃ち放った。

 ガキンッ、と硬質な音が響く。

 銃口の先、屋根の上に立っていたのはゴーグルを着けたハゲタカと服を着たラッコである。

 ラッコの手には分厚い二枚貝が握られていた。

 恐らく武器であろうそれによって、狙いが雑だったのと合わせて見事に逸らしたようだ。

 舌打ちするアド。

 ラッコはひらりとハゲタカの背に跨ると優雅に飛び去って行った。


 「ちょっと何なの今の鳥とラッコは!? あんたが私たちに喋った事報告に行ったんじゃないの!!! どうなの!!!!」

 「ごめんなさいごめんなさいほんっとにごめんなさい!! つい口が滑っちゃって――」

 「”つい”で済む問題か!! なんでその一言で私たちまで巻き込まれないといけないのよ!!」


 ナミに胸倉を掴まれながら謝罪するビビ。

 鬼気迫る雰囲気の二人を横目にルフィとゾロは呑気に話していた。


 「七ブカイだってよおい!」

 「悪くねェな。早速会えるとは運が良いぜ」

 「どんな奴なんだろうなー」

 「黙れそこ!!」


 バカ二人にツッコむと、ナミは肩を怒らせて船の方へ歩いていく。


 「短い間ですけどお世話になりました」

 「おいどこ行くんだナミ」

 「まだ顔はバレてないもん! 逃げる!」

 「無駄だと思いますけど……」


 ナミの背を見ながら呟くアド。

 その言葉は的中し、ナミの考えをあざ笑うように舞い戻ったラッコたちは見事な似顔絵を態々披露し再び飛び去って行った。

 これでこの場にいる五人は七武海に命を狙われる事になった。

 命の危機だというのにルフィとゾロは楽し気に話し、ウタもキィキィと鳴きながら気合を入れている。

 逃げ場がなくなり落ち込んだナミを、ビビが自分の貯金なら払えるから、と励まそうとする。

 それらを眺めながら、アドはどうやって島を出るかを考えていた。

 ルフィの仲間であるし、一生宅連の追われる身となったのだから同行を断られる心配はない。

 しかし確実にやってくるであろう刺客を掻い潜ってどうやってアラバスタまで進むのか。

 グダグダと纏まらない5人の元に声が響いた。


 「ご安心なされいっ!! 私に策があります!」


  皆が振り向いたそこにはビビと同じ格好をしたイガラムが立っていた。

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