*イノヨロイ

*イノヨロイ


 かつて、何かを護り通した者が居た。国か、町か、家族か、友人か。或いはその全て。

 終わりまで何もかもを得たまま。その身に纏う鎧は、イワイノヨロイとして、一体のカルボウの元へ渡る。

 然れども。そのグレンアルマは、終ぞ躯の前で己を嘆く。

 全てが失われゆく。掻き消される声。

 受け入れられない。この身の明日は何の為に。



 一体のソウブレイズは花園に佇んでいた。散らした花弁が風に舞う。いつか見た祝福の風景。

 同じ声が幾重に響く。無数にこの心を突き動かす。

 生きて生きて生きて、尚生き続けよ。

 それであるなら、この身は明日を生きねばならない。

「死にたくない」

いつかの人から聞こえた言葉を思う。それは根源的で、宇宙的な、重力を奪われたように浮遊しゆく恐怖であると。この呪いを宿し、あらゆる死を見てから知った。

 黒紫の剣に反射した、白い炎を見る。

 違う。

 その恐怖とは違う。

 この鎧を纏ってから。ただ生きよと命じられる。"死にたくない"から生きているのではない。生きる為に生きている。

 ただ、ただ、生きる為に生き続ける。そのような生き方こそ。祝福されたものの、それではないのか?

 この声の主は既に"死んで"いるからか。

 それ故に、生きることのみを望むのか。

 無窮の欲。それは、満たされなかったが故に。そしてこの声の強さは。奪われたのだ。何も得られず、何も守れず、持たざる者。

 選ばれなかった者。

 明日を呪いながら、生きることを望む矛盾。そうして、誰のものでもない明日を奪い取る。

 生き続けることを叫ぶ。この声を、捨てたとして、だとしたら。

 私は一体何者なんだ。



 ソウブレイズには時折、違う声が聞こえていた。それは、いくつもの怨嗟とは異なる高潔な言葉。遠く遠く、高くにある志し。

 その声が掛かれば、ふと己の隣りにある者達を思う。そうしたなら決まって、同族に似た鳴き声の、嗚咽を聞く。



 終ぞ、そのソウブレイズは。仲間達と共に添い遂げたという。斯くして鎧の**は**へと。

 その明日は誰の為。


 祝の声は「どうかお前も」と。

 呪の声は「どうかお前が」と。

 続くことを願う。ただ明日を望む。

 はじまりが祝福であれ、呪いであれ。その終わりは知れぬままに。

 呪は叫ぶ「お前を認めない」。

 満たされることなく、求め続ける。己自身はもう救われない。

 祝は叫ぶ「お前を認めよう」。

 満たされ続けるままに、求め続ける。救いは全てに。

 選ばれた者は、選ばれざる者を知らない。同時に選ばれなかったものは、選ばれたものが背負わされたものを知らない。

 両者、明日を望めども、その根源は交わる事はない。


 ヨロイに**の声が重なり続ける。


 カルボウはヨロイに問う。

 「己は何であるのか」と。

 

 もうその明日は受け入れられ******

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