*イノヨロイ
かつて、何かを護り通した者が居た。国か、町か、家族か、友人か。或いはその全て。
終わりまで何もかもを得たまま。その身に纏う鎧は、イワイノヨロイとして、一体のカルボウの元へ渡る。
然れども。そのグレンアルマは、終ぞ躯の前で己を嘆く。
全てが失われゆく。掻き消される声。
受け入れられない。この身の明日は何の為に。
*
一体のソウブレイズは花園に佇んでいた。散らした花弁が風に舞う。いつか見た祝福の風景。
同じ声が幾重に響く。無数にこの心を突き動かす。
生きて生きて生きて、尚生き続けよ。
それであるなら、この身は明日を生きねばならない。
「死にたくない」
いつかの人から聞こえた言葉を思う。それは根源的で、宇宙的な、重力を奪われたように浮遊しゆく恐怖であると。この呪いを宿し、あらゆる死を見てから知った。
黒紫の剣に反射した、白い炎を見る。
違う。
その恐怖とは違う。
この鎧を纏ってから。ただ生きよと命じられる。"死にたくない"から生きているのではない。生きる為に生きている。
ただ、ただ、生きる為に生き続ける。そのような生き方こそ。祝福されたものの、それではないのか?
この声の主は既に"死んで"いるからか。
それ故に、生きることのみを望むのか。
無窮の欲。それは、満たされなかったが故に。そしてこの声の強さは。奪われたのだ。何も得られず、何も守れず、持たざる者。
選ばれなかった者。
明日を呪いながら、生きることを望む矛盾。そうして、誰のものでもない明日を奪い取る。
生き続けることを叫ぶ。この声を、捨てたとして、だとしたら。
私は一体何者なんだ。
*
ソウブレイズには時折、違う声が聞こえていた。それは、いくつもの怨嗟とは異なる高潔な言葉。遠く遠く、高くにある志し。
その声が掛かれば、ふと己の隣りにある者達を思う。そうしたなら決まって、同族に似た鳴き声の、嗚咽を聞く。
*
終ぞ、そのソウブレイズは。仲間達と共に添い遂げたという。斯くして鎧の**は**へと。
その明日は誰の為。
*
祝の声は「どうかお前も」と。
呪の声は「どうかお前が」と。
続くことを願う。ただ明日を望む。
はじまりが祝福であれ、呪いであれ。その終わりは知れぬままに。
呪は叫ぶ「お前を認めない」。
満たされることなく、求め続ける。己自身はもう救われない。
祝は叫ぶ「お前を認めよう」。
満たされ続けるままに、求め続ける。救いは全てに。
選ばれた者は、選ばれざる者を知らない。同時に選ばれなかったものは、選ばれたものが背負わされたものを知らない。
両者、明日を望めども、その根源は交わる事はない。
ヨロイに**の声が重なり続ける。
カルボウはヨロイに問う。
「己は何であるのか」と。
もうその明日は受け入れられ******