イサムの部屋からグッズが見つかるSS
(照内イサムは『平成ライダー知らない俺が妄想で語るスレ』に登場する幻覚キャラです)
(猥談スレで生まれた、照井と四肢欠損イサムの共依存概念に基づいたSSです)
照井竜が寝室でそれを見つけたのは偶然だった。雑貨と思しき紙箱だがパッケージには英語表記だけ。中身の写真が正面に大きく載っている。アルファベットのTを曲線的に書いてひっくり返したような、使い方も名前もわからない何か。箱は既に空けられていた。
海外の雑貨を購入した覚えなどないが、ここは自宅だ。となれば必然的に持ち主は決まる。今日はまだ仕事中な居候の照内イサム。彼がキャリーケースを広げたときにでも落ちてしまったのだろう。本当に必要なら探しているだろうし、後で渡せばいいか、と思考を終える。
それでもなんとなく用途が気になった照井は、パッケージの説明書きに見える部分を読んでみた。知らない単語もあったがおおよその内容は掴めた。
どうやらこの雑貨は、男性が体内に用いるアダルトグッズらしい。
***
資料作成や諸々を終えて帰宅したイサムにおそるおそる聞いてみると、「俺のです」とあっさり答えられた。この手のグッズを見つけられたら戸惑うものだろうと考え、どう慰めるかシミュレーションしていた照井としては拍子抜けの結果だ。
「あんまり好きじゃないけど貰い物だし、何か役立つかなと思って、荷物に入れてただけですよ」
安心しかけた照井はコーヒーを噴いた。
「君、恋人がいたのか?」
意外と言っては申し訳ないが、正直な話、イサムの精神はかなり病んでいる。なんなら今も過食を禁止させた反動か手の甲(金属製)を噛んでいたので、とりあえず義肢を形作るベルトを外させたところだ。そんな彼が恋人を、それもアダルトグッズを贈るほど親しい関係を持つイメージは全くなかった。
「相手がいるのに長期出張とは災難だな……」
「大丈夫です、恋人じゃないから」
「そう……なのか」
「はい。ストレス発散のお手伝いをしてただけです」
照井は震える手に力を込めて、なんとかマグカップをテーブルへと置いた。
「……詳しく聞きたい。誰と、どういった関係を築いて、どんな状況で受け取ったんだ」
なんとなく予想はついたが、それでもイサムの言葉で否定してほしかった。
自分は警察だからと言い訳をする。本当は、二度と戻らない人たちに重ねてしまったこの青年を、清らかなものだと信じたかったのかもしれない。
けれどイサムの口からは、彼の壊れかけた心につけ込み利用した男たちの記憶が、夕食のメニューを挙げるのとなんら変わらない口調で語られた。サンドバッグのように扱い暴力を振るう者もいれば、性的な奉仕を求める者も。先程のグッズはその一人が、口ばかりじゃ飽きるからと気まぐれに与えたものらしい。無論、イサムはそれを使った。好きじゃないと言うからには経験があるはずで、事実そうだった。
その関係が終わったという話はなかった。出張で物理的に遠ざかっただけだろうと判断する。
「──だから、照井さんが心配することじゃありません」
その発言が、恋人がいるのに出張なんてという照井の勘違いへ掛かっているのは、頭で理解出来たのだが。
続く言葉が、
「もし照井さんもストレス溜まってたら、俺、手伝いますよ」
「は……?」
「口は女と同じだって言われたし、こっちも、好きじゃないだけで練習はしたからっ、前もって言われれば」
「もう黙ってくれッ!」
振り切れた怒りに任せ、ドン!と机を叩く。衝撃で倒れたマグカップからまだ温かいコーヒーが溢れた。
「熱っ……!」
イサムが小さな悲鳴を上げる。見れば腹や太もも辺りにコーヒーの染みができていた。沸騰した感情がすうと冷える。自分は、何を。
「すまない! 火傷はないか? すぐに着替えを持ってくる」
「大丈夫です、俺自分で……うわっ!」
ベルトを付けていないことさえ忘れて椅子から降りようとしたイサムは、重力に従い転がり落ちる。
次は間に合った。なんとか痩躯を受け止めることができた。
「あ、はは……ごめん、なさい。ごめんなさい、俺、ちゃんと一人で……」
「いや、俺のせいだ。……着替えが終わったら寝よう。今日は……お互い、もう寝るべきだ」
今にも崩れそうな会話をしながら濡れた服を別の部屋着に着せ替える。イサムはもはや抵抗も反対もしない。僅かに残った心まで相手に預けきってしまう、この子の悪い癖だ。
照井はベッドにイサムを招き入れ、ぎゅっと抱き締めた。小さく痩せた背中を撫でれば、このまま自分の腕の中で閉じ込めておきたい衝動に駆られた。