イカれストーカーと被害者

イカれストーカーと被害者

メントスニキ、幻覚術師

「あ、お邪魔しています。おかえりなさい」

「鍵閉めとったはずやけど何で居んの??」


あるアパートの一室、広くもなければ狭くもないそこそこ清潔感のある部屋。電気をつけた途端に現れる人影に田代は無表情ノンブレスで疑問を投げかけた。

そこには名目上後輩のキチガイストーカーこと矢車彼方がいた。


カーテンは束ねずに開かせたまま家を出たが、それにしたって暗い中優雅に茶を嗜むとか頭おかしいのだろうか。ソーサラーはエメラルドグリーン、田代が入れたメッシュの色なところが絶妙に気持ち悪い。


「勝手に上がってしまってすみません。夏樹さんの御尊顔を拝見していないと思いまして。」

「別に毎日見なくてええもんやしな、帰れ。」

「いいえ毎日見ても見飽き足りないものですよ。もしや多忙でしたでしょうか。少し細くなっていません?」

「目ぇええんやな自分、帰れ。」

「血色が悪いとなると寒暖差か貧血か...レバニラ作りました、食べます?」

「また作ったんかお前、持ち帰って帰れ。」


田代の棘のある言葉と最後の一言は無視して冷蔵庫からレバニラを出す矢車。微妙に美味しそうなのがまた腹立つ。


「なに?ピッキングでもしたん?」

「いいえ?大家さんに告げましたところ快く入れさせてくれました。」

「不法侵入何回目やねんセキュリティガバガバやんか。

転居するかぁ...」


ハイ出ました転居宣言。過去にした転居回数その数何と60回。その原因の大半が目の前にいる男だと言うのは言うまでもないが謎に支払われている家賃頭金は目の前にいる男が“勝手に”やっていることに田代は気づいているのだろうか、いや気づいていない。最早迷惑も超えた迷惑である。

いや、逆に60回も転居して尚逃れようとする田代がおかしいのだろうか。私には分からない。少なくとも諦めるのがいいのか粘るのがいいのか、早めにことを終わらせられるのは前者ということだけ。


「またですか?ならお金を出しますね。今度はどちらにするんです?」

「お前が不法侵入しないところ」

「人聞きの悪い...不法侵入ではありませんよ、夏樹さん。」

「嘘つけイカれストーカー。」


憔悴し切った田代の顔を矢車が覗く。目を細めすぎて目の色が全く見えないけれどどうやって見ているのだろう、と考えていると、首筋に痛みが走る。


「ヴッ」

「やはり隈ができていますね。多忙でさぞお疲れでしょう...任務は請け負いますので休んでくださいね。」


現在のストレスの根源はお前だ、と言いたいところだが悲しきかな、意識は眠りに落ちるのだ。

そのまま倒れかけるのを矢車が腕で支え、ソファに座らせる。田代の荷物から資料を取り出して玄関へ向かい、そのまま。

とは言わず、振り返って一言。


「おやすみなさい、それでは行ってきますね。」


バタン、と扉が閉まる。その後施錠音がして鍵が閉まったことを意味した。


さて、気付いただろう。



この男、勝手に合鍵を作っているのだ。

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