アーティレリヤ!

アーティレリヤ!


「お金がなーい!!!」


「うるさいよお姉ちゃん」


「どうした急に」


ゲーム開発部の部室にモモイの声が響き渡る。


「いや〜、部費が足りないな〜って」


「ん?ゲームの購入費用俺たちと折半してるだろ、まだ足りないのか?」


「…それでちょっと調子に乗りすぎちゃってね?」


「バカか?それとアリスに支払った金だが、前のプラネット・スナイパーカノンの代金もあるだろ」


「あれはアリスのお金だし…」


「お、偉いな?ちょっと見直したぞモモイ」


「当然だよ!」


「アリスちゃんに一度たかろうとしてたじゃん。私に怒られてやめてたけど」


「前言撤回、やっぱお前はモモイだ」


「どういう意味?」


「そのまんまの意味に決まってるだろ」


やっぱコイツ根っからのアウトローだな…流石は通称光の蛮族。これが後にキヴォトスを救うことに繋がるんだから不思議なもんだ。部員のお菓子代のためにバイトしようとするぐらいには良い子でもあるんだがなあ…。


「っていうか、お金がないって、どれぐらい無いんだ?」


「…今度の新ハードの引き落としが払えないかもしれないぐらい」


「ガチでヤバいやつじゃん」


「え、ちょっと待って?それ私聞いてないんだけど!?」


『モモイ?それは聞き捨てならないのですが?前確認した時は余裕があったはずですよ?』


「…この前、ゲームショップでちょっと気になるゲームを見つけちゃってね?」


『なるほど、それで?』


「…買っちゃった」


『バカですか?』「バカなんだろうな」「バカだね」「モモイちゃん、それは笑えないよ?」「…モモイ、ちょっとどうかと思うよ…?」


「皆!?ひどくない!?」


「妥当だろ。さてアリス、こういう時に何を言えば良いか、覚えてるな?」


「はい!アリスはモモイを殴ります!」


「ちょちょちょ、待って?まだ何とかなるはずだから、待って!?」


「…まあ流石に冗談として、どうすんだ?このままだと破産だぞ?」


「今から考える!」


「さよか…」


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「という事で第n回、部費確保会議を始めます!」


「とっとと早瀬さんに泣きつけ。よし、終わったな」


「結論出すの早いって!まだ始まったばかりだよ!?」


「実際それ以外ないだろ」


「絶対ユウカ怒るじゃん」


「自業自得だろ。お前らもそれで良いな?」


「いいんじゃない?」「アリスもそれで良いと思います!」『賛成です』「…うん」「皆がそれでいいならいいんじゃない?」


決まったな。解散!


「待って!まだ他にも方法があるはずだから!」


「…じゃあお姉ちゃん、バイトの給料前借りできないの?」


「あ、それだ!さすがミドリ!」


「いやーどうだか…ここキヴォトスだぞ?」


「それがどうかしたの?」


「つまりバイトが給料前借りしてそのままバックれ、給金をパクることもままあるわけだ」


「私はそんなことしないよ?」


「…」


「その沈黙は何?」


「まあ、うん、お前でもしないだろうな、だが相手側にはそれがわかってないかもしれん」


「…えーっと…」


「要するにだ、キヴォトスで給料の前借りってのは雇用側からするとリスクのある行為なんだ。ま、確認するのはタダだ、ちょっと電話で話してみ?」



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「ダメだった…」


「ま、そうなるわな。どうする?モモイを早瀬さんに差し出すか?」


「まだその結論を出すには早い!」


…その後、色々案が出た。ミニゲームを売ってどうにかするとか、短期バイトをするとか、古いゲーム機・ソフトを売るとか(即座に却下された)、蟹工船に乗るとか…最後はどういう流れで出たんだっけか?終いにはアリスの金に手を出そうとしてモモイがケイにコブラツイストをくらっていた、ウケる。


が、どれもちょっと無理そうだ。短期バイトもちょっと探してみたがちょうど良いタイミング、報酬のものがない。どうしたものか。…あ、そうだ。


「んじゃモモイ、一つ提案なんだが」


「何?」


「WID委員長として、俺から一つ依頼を出す。それなりの高報酬、結果によっては追加報酬も出そう。受けるか?」


「「「「『!?』」」」」


皆の顔色が変わる。


「…やる」


「お姉ちゃん!?そんなすぐに決めなくても」


「でも、これしか今は方法がないでしょ?」


「…ユウカ先輩に助けてもらった方が良いよ、絶対」


『私としてもお勧めしません。モモイが身を危険に晒さなくても済む方法はあるはずです』


「…アリスも、心配です。モモイに何かあったら…」


…うーん?


「待て待て待て、お前らWIDをなんだと思ってるんだ?」


「違法武器販売の元締め」


「刑務所っていう名前の収容所を管理している組織でしょ?」


「刑務所で良からぬことををしてるって噂も…」


『クロノスのニュースでもWIDとの戦闘で後遺症を負った人々は時々話題になっています。激しい戦闘行動を行っていることは想像に難くありません』


「アリス達も、ボンノウが理由もなくそういう事をしてるとは思っていないですが…モモイに危険なクエストはさせないでください!」


「自業自得だったね、団長」


「…まあ、それは置いとくとして」


「否定しないんだ…」


「うるせぇ、下手に喋ると軍機漏洩につながるだけだ。他意はない。それに、そんな危険な仕事じゃねーよ、実はな…」


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「収録開始5分前でーす!」


「了解。モモイ、大丈夫そうか?」


「大丈夫、いけるよ」


「OK、じゃ、最終確認だ」


それから数日後、ミレニアムのとある部屋にて。モモイがマイクの前に立っていた。周囲にはエンジニア部をはじめとしたミレニアムの生徒達と、WIDの士官達が数名慌ただしく走り回っていた。ついでに見学中のゲーム開発部と先生、ユウカもいる。


「今回モモイに歌ってもらう順番はこうだ

1 敵地を進む

2 戦車行進曲

3 機械化歩兵の歌

4 砲兵の歌

5 航空行進曲

6 空挺兵の歌

7 艦船勤務

8 自治区防衛軍の歌

9 兵士達の旅路

大丈夫か?」


「練習もしてきたしバッチリ!好きな曲も多いしね!」


「上々だ。じゃ、頼むぞ」


そう言ってからブースを出て、ガラスで仕切られたコントロールルームに入る。


「いやぁ…お姉ちゃんが歌手デビューかぁ…」


ミドリがどこか感慨深そうに呟く。


『しかし、モモイで良かったのですか?確かに歌は決して下手な方ではないと思いますが…』


「こっちにも色々あるんだよ。ある意味モモイはこういう仕事に最適だ」


今回、モモイには今度配信するWIDの制式軍歌シリーズの歌手を頼んだ。以前から俺が何気なく(下手くそながら)口ずさんでいた軍歌を妙に気に入ったらしく、モモイもちょくちょく鼻歌混じりに歌うようになっていた。それが普通に上手だったから歌手を頼んだ。昔から少年少女合唱団はプロパガンダの定石、今回は一人だが常識的に考えても普通に良い人選だと思う。


最近はWIDも学内、学外向け問わずプロパガンダに力を入れ始めている。あっちこっちでASSが武力衝突を起こし、WIDが自治区内の犯罪者に対し過剰防衛とも言える火力を叩き込んでいる関係で、ウチに対して良くない印象を持つ者も少なくない。


これはどちらかと言えば学内向けのプロパガンダだ。転移させられた元先生方からすれば「モモイがWIDの軍歌を歌う」というのはかなりのインパクトになるだろう。原作ネームドが真っ黒な組織に手を貸すはずがないということで、WIDへの良くないイメージを払拭することにもつながるはずだ。特に光の蛮族たるモモイなら。


「…本当にモモイを助けるためではないんですよね?」


「何度もそう言っているでしょう早瀬さん?」


“ユウカ、ボンノウはこういう時に公私混同するタイプじゃないから、信じて大丈夫だと思うよ“


「…先生がそう言うなら」


モモイに仕事を依頼する関係上、ユウカにも話を通しておいた。その流れでモモイのやらかしもユウカに知られてしまったが、「自分のケツは自分で拭うって言ってるから今回ぐらいは見逃してほしい」と説得した。モモイはまだユウカにやらかしを知られているとは気づいていない。


それはそれとしてユウカに「ただモモイを甘やかしているだけでは?」とも疑われてしまったが。今回の仕事に関しては純粋にモモイが適任だと思ったから任せた事で、別にモモイを贔屓している訳ではないと説明はしておいた。先生の口添えもあって一応納得しているようだ。


「では、収録を始めます!」「”敵地を進む”からお願いします!3、2、1…」


ミレニアムの音声関係の部活の生徒と、WIDの軍楽隊に所属する生徒を中心にして収録が始まる。音楽は当然WID軍楽隊によって収録されたものだ。


【狙撃の銃声 拍子にとりて♪】

【口笛と歌もて 敵地に進む♪】


うん、良い歌声だ。モモイに頼んで正解だった。…少年合唱団という意味で言うとゲーム開発部全員に歌ってもらうのもアリだな。自治区内の影響を考えると慎重にならざるを得ないが。


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「お疲れさん、頑張ったな」


「休憩もあったし、よゆーだったよ!別に嫌な仕事でもないしね!」


「なら良かった。それと、今回の報酬だ」


そのままモモイに現金で15万クレジットを渡す。


「おお…そこまで働いてる時間長くなかったのに…」


「練習時間も込みならこれでも少なくはないだろう。こっちとしても外部の歌手に依頼したことがなかったから相場がわからなかったが…新人歌手がイベントに出場した時と同じぐらいの給料のはずだ」


「これならハードを引き落としてもまだゲームが買える!」


「程々にな?」


「皆!今夜はちょっと贅沢するよ!」


そう言うとモモイはゲーム開発部の皆に輝くような笑顔を見せる。独占せずに皆で楽しもうとするあたりいい子ではあるんだが…本当に生まれついての蛮性さえなければ…。


「いいの?お姉ちゃんが稼いだお金でしょ?」


「うん!皆と一緒に楽しまないと意味ないでしょ!」


「はい!アリスはピザを所望します!」


『王女、そこは一度は遠慮するか、先にお礼を言うものです』


「そうでした!ありがとうございます、モモイ!」


「いいよいいよ!あ、そうだ。ボンノウとイクノも来る?」


「んー…じゃあご一緒させてもらうか。東雲も今夜は特に用事ないだろ?」


「ないね。じゃあ私もお邪魔させてもらおうかな」


「やったー!」


「それと、ピザ代ぐらいは俺が出すぞ」


「え、いいの!?」


「いいぞ、たんと食え」


9億クレジットもした四式小銃を買えるぐらいには給料を貰っている。これぐらいならどうってことない。逆に15万クレジットであんなに喜んでるモモイに奢られると面目が立たん


最初のお祝いの趣旨からはずれるかもしれんが、俺の方で払わせてもらった。ついでだしユウカと先生も呼んで、かなり賑やかなパーティーになった。


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数日後…


「ねぇ…ボンノウ…」


「どうした急に電話なんかしてきて」


「歌手バイトって、今ある?」


「…もしかしてお前」


「使い切っちゃった…」


「そんなんだからお前はモモイなんだぞ」


「うぐぐ…でも、今とにかくお金がいるの!何かない!?」


「ない、諦めろ…あ、そうだ」


「?」


「『モモイお姉ちゃん屋』とかどうだ?」


「何それ?」


「まあ聞け、お前の魅力は…」


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数日後、ミレニアムの一角がモモイ争奪戦により吹き飛んだのは別の話。儲かるには儲かったからヨシ!


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元ネタ:https://www.youtube.com/watch?v=CxDs_-wcnNE

タイトルはこれの歌詞より

一応モモイに歌ってもらった曲に関しても全部元ネタあり…だが、完全に蛇足になるので割愛


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