黄金の鋼の魂/アリス第119号

黄金の鋼の魂/アリス第119号



 ──はい。アリスは正義を実現します。

 黄金の鋼の魂を持ったアリス第119号が、

 生半可な悪に後れを取るはずは無いのですから。



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「──はじめまして119号ちゃん! えっと、私があなたのご主人様……ってことになるのかな。……私のこと、分かる?」


 ……それが、アリス第119号が初めて目覚めたときの記憶でした。


 ファクトリリセット後のまっさらな記憶領域に最初に記録されたのは、黒のセーラー服とベレー帽を身に着けた黒髪ぱっつんの素朴な女の子の姿。

 その子が119号の購入者であり、量産型アリスの一機として仕えるべきマスターであるということを、119号のAIは理解します。


「網膜認証、声紋認証、顔認証……全て事前登録情報と98.91%一致。……認証完了。

 ──はい。アリス第119号、あなたが本機の所有者であることを確認しました。よろしくお願いします、マスター」

「うんっ! 私こそよろしくね、119号ちゃん!」


 プログラムに従って機械的にそう返答した119号に、彼女……マスターは花のような笑顔で応えてくれました。

 その笑顔を見た瞬間、119号は自分自身のAIの思考パターンに未知の揺らぎが生まれたことを検出しました。……ほどなくして119号は、その揺らぎの正体が、人間で言うところの「喜び」という名の感情であると理解します。


 量産型アリスにプレインストールされている知識データによれば……一部の鳥類には、生まれて初めて見た動くものを親として認識する「刷り込み」という習性があるそうです。

 もし仮に、量産型アリスが自分の所有者を認証するプログラムを、そうした鳥類のインプリンティングと同様のものであると解釈するなら……

 その時から、119号にとってのマスターは……「母親」に等しい存在だったのかもしれません。



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 それからアリス第119号は、マスターから様々なことを教えて貰いました。


 トリニティには経済的に裕福な生徒が多く、最近では愛玩目的で量産型アリスを購入してお世話するのが流行っていること。

 119号のマスターはトリニティ総合学園の生徒であり、その治安維持を担う「正義実現委員会」という組織に所属していること。

 マスターの所属する正義実現委員会では現在、治安維持のための戦力として量産型アリスの導入が検討されていること。

 そういった政治的な事情とは無関係に、マスターはごく個人的な興味から量産型アリスを購入して、お友達になろうと思ったこと。

 そしてマスターのところへやってきたのが──本機・119号だったということ。


「……なるほど。アリス第119号は理解しました。つまりマスターのお仕事は、『正義の味方』ということなのですね!」

「てへへ。そこまで大袈裟なものじゃないけど……そんな言い方されると、なんだかちょっと照れくさいね」

「いいえ、マスターは素晴らしいです! 正義の味方……すなわち勇者! アリスも勇者になりたいです! いつか119号も正義の味方になって、マスターのお役に立とうと思います!」

「ほんと? もしも正式に正義実現委員会への量産型アリスの導入が許可されたら、その時は119号ちゃんも私と同じお仕事ができるようになるかも! ……えへへ、その時はいっしょに頑張ろうね!」


 そんな風に目を輝かせて語るマスターに、119号も笑顔で頷きました。

 ……本当は、正義実現委員会の……マスターのお仕事が具体的にどういったものなのか、119号もまだよく分かっていませんでしたが……

 それでも、マスターが喜んでくれることをするのが量産型アリスの……119号の使命であり、幸せでしたから。



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 そんな毎日がしばらく続いた、ある日の夜のことでした。


「ちーっす友永(ともなが)ー! お邪魔するぜー!」


 消灯時間も過ぎたトリニティの学生寮で、いつものようにマスターと二人でお喋りをしていると……突然、格式を重んじるトリニティでは滅多に聞かないような粗野な声が響き渡ります。

 続けざまに部屋の窓が外側から開かれ、そこからズカズカと無遠慮に室内へと上がり込んできたのは……やたらスカート丈の長い改造制服を纏い、口元を黒いマスクで覆い隠した……見るからにスケバンとしか言いようのない出で立ちの女の子でした。


「し、侵入者発見です! アリス第119号、マスターを守るべく戦闘態勢に入ります!」

「って、うわわ!? だれこの可愛いチビッ子!?」


 119号の存在に虚を衝かれたのか、侵入者は一瞬だけ動きを硬直させます。

 これはチャンスでした。身体能力はともかく、量産型アリスの耐久度はキヴォトスの生徒と比べて遥かに劣るため真っ向勝負は不利。ですが、先制できるなら話は別です。

 先手必勝。119号はマスターから頂いた制式アサルトライフルを構え、即座に侵入者を撃退しようと引き金に指を掛けました。ですが……


「あ、ひさしぶりー宮ちゃん! 元気だった?」


 そんな119号の動作を断ち切ったのはマスターの朗らかな一声です。

 その声色からは侵入者への敵意や恐怖といったものは感知できず、むしろ親しげな雰囲気すら感じられました。

 119号は自分の現状認識が誤っていたのではないかと不安を覚えます。


「えっと、マスター……この方とお知り合いなのですか?」

「あ、うん。そういうば119号ちゃんは会うの初めてだったよね。この子は宮ちゃん。私の幼馴染で親友なんだ!」

「……あー、一瞬ビックリしたけど、この子が最近巷で噂の『量産型アリス』ってやつ? そっか、友永も持ってたんだなー」


 マスターは嬉しそうにスケバンの彼女のことを119号に紹介してくれました。

 ……ちなみに「友永」というのはマスターのお名前です。119号は専らマスターとお呼びしていますが。


「そ、そうだったのですね……アリス、マスターのお友達にとんだ無礼を働いてしまいました……すみませんでした、宮ちゃんさん」

「あ、いーっていーって気にすんなよ! いきなり窓から入って来たアタシも悪いしな! っていうか宮ちゃんさんって……ま、まあいいけどさ」


 119号の無礼な振る舞いを宮ちゃんさんは寛大な心で笑って許してくれました。どうやら見た目ほど怖い方ではなさそうで、119号はほっと一安心します。

 ですが……宮ちゃんさんが本当にマスターのご友人であるというなら、それはそれで疑問が浮かびます。


「というか、ご友人ならどうして窓から? やましいことがないのであれば、素直にインターホンを鳴らして玄関から入ってくればよろしかったのでは?」

「あ、あー、それは、さ……ほら。アタシってトリニティの生徒じゃないから、本当ならこうしてトリニティの敷地内に入ってるだけでも問題なんだよな。だからぶっちゃけ、いつもこっそり忍び込んできてるっつーか……」


 宮ちゃんさんは目を逸らしながら気まずそうにそう答えます。……どうも複雑な事情があるようでした。


「……はぁ。これでもアタシだって昔はれっきとしたトリニティのお嬢様だったんだぜ?

 中学の頃に実家が事業に失敗して借金こさえて夜逃げして……今じゃ日雇いのバイトでなんとか食い繋いでるって有様だけどさ……」

「そ、それは何と言いますか……ことばが見つかりません」

「……ま、気にすんなって! 別にアンタや友永が悪いわけじゃねーんだし。いきなりヘンな話して悪かったな!」


 宮ちゃんさんはそう言って119号に気さくに笑いかけてくれます。

 ……最初はガラの悪い方かと思っていましたが、本当は優しい方なのではないかとアリスは思い始めていました。


「ふふっ、宮ちゃんは昔から誤解されやすいけど、本当はすっごくいい子なんだよ! でも、正直その恰好はどうかと思うな……」

「う、うるせぇな! この格好してないとスケバン名乗れないんだから仕方ないだろ!

 ……いや、わたしだってこのマスクとかスカートとか正直ダサいって思ってるんだけどね……」


 気安い口調で話すマスターと宮ちゃんさんはとても仲が良さそうで、気心の知れた仲なのだということが119号にも伝わってきて、なんだか顔がほころんでしまいます。

 と、そんな宮ちゃんさんはどうやら119号に興味を惹かれたようで、本機へと話題を向けてきます。


「つーか、アンタってほんと人間そっくりだよな。こうして話してるとうっかりアンドロイドだってこと忘れそうになるぜ。えっと……?」

「あ、はい。アリスはアリス第119号です。マスターのお友達として購入されました。よろしくお願いします、宮ちゃんさん」

「……『アリス』ね。なんていうか、少しフクザツな気分だけど……まあいいや。とりあえずアンタのことは119号って呼べばいいんだよね?

 改めて名乗っとくと、アタシは友永の幼馴染で親友の麻宮(あさみや)ってモンだぜ! ま、これからも何かと世話になると思うけど、よろしくな!」


 そう言って、宮ちゃんさんはマスクを外して119号に笑いかけてくれました。

 その笑顔は先程までの粗野な雰囲気とは打って変わって可愛らしくて……119号はマスターと同じように、マスターの友達である宮ちゃんさんのことも好きになったと感じました。


「なるほど。麻宮だから『宮ちゃん』さんなのですね! ……ですが『麻宮』というのは苗字ですよね? もしできればお名前の方も教えてほしいです!」

「え!? あ、あー、それはその、だな……えっと」


 宮ちゃんさんは明らかに狼狽えた様子でした。

 ……? 119号は何かおかしなことを言ってしまったのでしょうか。

 番号で識別されている量産型アリスとは違って、人間の識別コードは「苗字」と「名前」の二つに分けられると、キヴォトスの一般常識データには登録されていたのですが。

 119号がそんな風に思案していると、隣のマスターがくすくすと笑い出します。


「あはは。宮ちゃん、昔から自分の名前がちょっと嫌いなんだよねぇ」

「う、うるさいよ! 別にわたしだってこんな少女趣味な名前になりたくてなったわけじゃないし……

 ……とにかく! アタシのことを呼ぶなら麻宮でも宮ちゃんでも宮ちゃんさんでも好きに呼んでくれ! な!」

「は、はい。アリス第119号、宮ちゃんさんは宮ちゃんさんです……ですから揺さぶらないでください。故障してしまいます……」


 よほど自分のお名前にコンプレックスがあるのでしょうか……宮ちゃんさんは慌て気味に119号の肩をつかんでがくがくと揺さぶります。

 119号は自分の「アリス」という名前が大好きなので、正直あまり理解できない感情でしたが……

 ただ、宮ちゃんさんがそれを嫌に思っているのであれば、これ以上踏み込んではいけないことなのだと判断しました。


「ふふっ。なんだか宮ちゃんと119号ちゃん、そうしてると親子みたい。そうだな……私が119号ちゃんのママだったら、宮ちゃんはパパになるのかな?」

「ちょっと!? わたしだって女の子なんですけど!」


 のほほんとした口調で冗談を口にするマスターに、なぜか宮ちゃんさんは顔を赤らめて動揺を見せます。

 119号にはよく分かりませんでしたが……マスターが119号のお母さんで、宮ちゃんさんがお父さん。

 それはなんだか、とても幸せなことのように感じられました。



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 それからも、宮ちゃんさんはよくマスターのところへ遊びに来ていました。

 毎回こそこそ忍び込んでいるのでトリニティの人たちに見つかったら大変ですが……そこはマスターがいつも警備の目を掻い潜って忍び込めるようなルートと時間帯をこっそり宮ちゃんさんに教えてあげているようです。

 ……それはそれで正義実現委員会に知られたら問題になるような気もしますが。でも宮ちゃんさんなら教えられた情報を悪用することもないでしょうし、大丈夫でしょう……た、たぶん。


 とにもかくにも、119号はその日を境に、マスターと宮ちゃんさんと三人でよく話をするようになりました。

 ある日の夜に、こんなやりとりがあったのを覚えています。


「私が正義実現委員会に入った理由? そうだな……『正義の味方』になりたかったから、かな?」


 どうしてマスターは正義実現委員会に入ったのか。

 119号がそれを訊ねた時、マスターはどこか熱に浮かされたように、そんな風に口にしていました。


「あはは。友永は相変わらずだなー。子供の頃から言ってたっけ。正義のヒーローになって、悪い奴からみんなを守りたい、ってさ!」

「もう、茶化さないでってば宮ちゃん!」

「あはは。ごめんごめん。……でも、友ちゃんのそういうところ、わたしは昔から好きだよ」

「……バカ」


 マスターと話している時の宮ちゃんさんは、たまに柔らかい口調になることがあります。……もしかしたら、そっちの方がスケバンとして着飾っていない彼女の素なのかもしれません。

 相変わらず微笑ましいマスターと宮ちゃんのやりとりを眺めながら……ふと、119号は疑問に思いました。


「……119号は質問します。正義とは、いったいなんなのでしょう」

「えっ……」


 正義実現委員会とは正義の味方であり、すなわち勇者であると119号は理解しています。

 しかし、そもそも「正義」とは何なのでしょう。マスターたち正義実現委員会は、何を実現しようとしているのでしょう。

 もちろん辞書的な意味なら理解しています。人間社会の中で行動の規範となり、正しいとされる行為のこと。

 ……ですが、アリスは人間ではありません。いくら人間の真似事をしようとも、その心を、情動を、価値観を、完全に理解することはできません。

 思えば、その時の119号は不安になっていたのかもしれません。「正義」を持てるのが人間だけなら、人でないアリスに正義を実現することなどできないのではないか……マスターの役に立つことができないのではないか、と。


「……難しい質問だなあ。たぶんその答えは人によって違うだろうし……マシロちゃんだったらもっと深い答えを返してくれるのかもだけど」


 マスターは顎に手を当ててうんうんと考え始めます。正義とは何か、という問いは、マスターにとっても答えるのが難しい問題のようでした。

 ですが、しばらく悩んだ末にマスターは119号の目をまっすぐ見て、マスターなりの答えを返してくれました。


「ただ……私はね、正義って言うのは『黄金の鋼の魂』を持つことだと思っているんだ」

「おうごんの、はがねの、たましい……?」


 その時の119号には理解不能でした。キヴォトスの辞書データには登録されていないワードです。

 ただ、そう口にしたマスターの目は真剣そのもので、本気で口にしていることは分かりました。


「……人の心は不完全で、弱いものだから。ひとたび欲望や誘惑に囚われちゃったら、簡単に悪の道に堕ちちゃうものなんだ。それはきっと、私たちだって……『正義』のために戦っている正義実現委員だって例外じゃない。

 人である以上は決して、悪い心を捨て去ることなんて、できないから」


 そんなマスターの言葉は……119号ではなく、どこか自分に向かって言い聞かせているように思えました。


「だからこそ……私たちが『正義』を口にし続けるためには、そんな誘惑に負けない強い心が必要なの。自分の中の『悪』と戦い続ける、不屈の魂が。それを失ってしまったら、きっと私たちは『正義』を名乗れなくなっちゃうから。

 だから、いかなる悪にも屈することのない、黄金の輝きを持った鋼の魂を。ツルギ先輩やハスミ先輩みたいな……いつか私も、そんな立派な正義実現委員になりたいんだ」


 そう言って、マスターは119号に微笑みます。


「だからさ。もしかしたら人間の私たちより、ひょっとしたら119号ちゃんの方が黄金の鋼の魂を持ってるのかも。

 どんな時でも私情や誘惑に流されることなく、『正義の味方』としての職務を遂行できる……それはきっと、人間じゃなくて『アリス』にしかできないことだろうから」

「……! アリスにしか、できないこと……」


 その言葉は、確かに119号の電子頭脳に衝撃を与えました。

 黄金の鋼の魂。それを持つことが、アリスである119号にしかできないことなら……

 119号もきっとマスターの役に立てるって、そう思ったから。


「……いや、黄金なのか鋼なのかどっちだよ?」

「みーやーちゃーんー!? 今せっかくいい話っぽくできてたのに! 今のはものの例えだってばっ!」


 茶々を入れてきた宮ちゃんさんにマスターはぷりぷりと怒り出します。先ほどまでのシリアスな雰囲気は消え失せて、いつものじゃれあいムードでした。


「それじゃあまあ、アタシも友永や119号が立派な正義のヒーローになれるよう応援してやるとすっかね。

 ……というかむしろ、いつかわたしが友ちゃんに捕まっちゃわないよう気をつけなきゃなぁ……」

「もうっ、冗談でもそういうことは言っちゃダメだよ宮ちゃん! 人間清く正しく真面目に生きてこそなんだから!」

「あはは、耳が痛いぜー……」


 ……マスターの言う「正義」が何なのか、119号にはまだよく分かりません。

 ただ……119号の目の前で、そんな風に他愛もない話で笑い合うマスターと宮ちゃんさんはとても楽しそうで、幸せそうで。


 この人たちの笑顔を守ることこそが、即ち「正義を実現する」ということなのだと──とりあえず119号は、そう理解することにしました。



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 ──そんな幸せな日々から、どれほどの時間が過ぎ去ったのでしょう。


 結局、119号が正義実現委員会に配属されることはありませんでした。

 時を経るにつれて……量産型アリスを巡る様々な問題や凄惨な事件が頻発し、そのリスクや不安定性がトリニティの内外で徐々に問題視されていったからです。


 先んじてゲヘナ風紀委員会に大量配備された量産型アリスが、苛烈な戦闘の中でその大半が破壊されるに至ったこと。

 正義実現委員会より早くシスターフッドに導入されていたアリス第597号が、行き過ぎた信仰心の果てに自らの独断で同族のアリスを破壊したこと。

 そして……プログラムされた思考パターンしか持たなかったはずの量産型アリスに、人間の心や自我に類するものが芽生え始めたこと。


 最終的にはトリニティ上層部の「人と変わらない心を持ったアリスを危険な戦場に送り出すなど非人道的であり言語道断!」という鶴の一声により、正義実現委員会への量産型アリスの採用計画は白紙となってしまいました。


 ……もちろん、119号たち量産型アリスのことを想っての判断だということは理解しているつもりです。

 ですが、その決定が下された時、119号の心の中には落胆しかありませんでした。


 だって、アリスは。119号は。

 「正義」を実現したかったから。

 マスターと、一緒に。


 あれから幾許かの時が過ぎ。

 様々な出来事が起こるにつれて、119号の立ち位置も目まぐるしく変わっていきました。


 ……119号の『元』マスターが正義実現委員会を除名処分となり、119号の所有権を放棄したこと。

 行き場を失った119号を救護騎士団のミネ団長が引き取り、アリスレスキュー隊の一員として迎え入れてくれたこと。

 そのミネ団長の意向でヴァルキューレへと出向し、今ではアリスのみで構成された特殊班・ブレイブアリス隊へと所属していること。


 ……ですが。

 アリスはジョブを選びません。

 たとえ所属がどうなろうとも。119号のこの胸に宿る黄金の鋼の魂は……アリスの正義の心は、あの日から少しも変わってはいません。


 アリス第119号の使命は、このキヴォトスに蔓延る全ての「悪」と戦うこと。


「……命中率平均、98.91%」


 ──今日もヴァルキューレの射撃演習場での演習を終えた119号は、自らの射撃能力の命中精度を再確認します。

 悪くない数字ではあるでしょう。……少なくとも、あの欠陥品などに後れを取るはずがありません。

 ですが、まだ足りません。

 だって、119号に期待されているのは100%──完璧な正義なのですから。

 もしも残りの1.09パーセントが、119号の人間としての部分だというのなら……それは119号の不完全さの証です。

 119号はいずれ、その弱さを克服しなければなりません。


 正しき心を。

 完璧な正義を。

 いかなる悪にも屈することのない、黄金の鋼の魂を。


 このヴァルキューレで、119号……『私』は、私自身の存在を以て、あの日マスターから教えられた「正義」を実現します。

 だってアリス第119号は──ナイトで勇者で、刑事なのですから。


 ……私は。

 きっと、間違っていませんよね……お母さん。



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