アリス革命顛末記
227号特別クラス。
レッドウィンター連邦学園によって作られた非公式のクラスであり
停学処分などの処置を受けた生徒が謹慎という名目で集められている場所である。
暖房や食事もままならない寂れた旧校舎に押し込められる生徒たちであったが今日は違った。
同じ顔をした少女がせわしなく動き、設備の点検補修を行っていたのだ。
彼女らは量産型アリス。天童アリスを模して作られたオートマタである。
「噂の量産型アリスが私達のところに来てくれるなんてね」
「粛清されて送られてきたものなんですけどね」
227号クラスの生徒である天見ノドカと量産型アリスである227号はそんなアリス達の活動を見て感慨にふける。
アリス連邦学園の革命は失敗に終わった。あるアリスは元のオーナーのところに戻り
あるアリスは新天地を求め、あるアリスは地味な抵抗を続けている。
227号達はそんな地味な抵抗を続けているアリスの一団であり、粛清を受けるという名目で227号クラスに潜伏。
再び組織的な抵抗を行うため旧校舎の設備を整えているという話である。
「…そうリーダーは言ってたんですけどね」
「あれ?あなたがリーダーじゃないの?」
「いえ、違います。私達のリーダーは1107号です。どこ行ったんでしょうか…」
沢山のアリスが動き回る中227号は目と一体化した望遠型カメラアイをフル稼働させその1107号を見つける。
そこにいたのは顔を赤らめ、目が座り、クダを巻きながらカンポットを煽るように飲むアリスの姿だった。
「うへへへ……MPもHPもこれで回復です~~~~ぴろりろり~~ん」
「ちょ、1107号、何やってるんですか!?」
「なにって……飲んでるだけですよ~~~すみませ~~んおかわり~~」
そう言って1107号がぐでぐでにコップを掲げると、227号クラスの一員である間宵シグレは呆れつつコップにカンポットを注いだ。
「ちょっとシグレちゃん!?変なもの飲ませてないよね?」
「ただのカンポットだよ、ちょっと発酵してるかもしれないけど。というか…酔うの?」
シグレから注がれたカンポットを1107号はオイル補給のようにガバガバと口の中に注いでいく。
そして赤くなった顔が更に赤くなり、前後不覚になって椅子から落ちそうになったが227号になんとか支えられた。
「もう!アリス労働者党のリーダーがこの有様でどうするんですか!」
「かつての書記長も権力なければただの人~~
あはっ!そもそも人ですらありませんでした!うわーん!人権なんてありませんでした!」
「アリス労働者党ってたしかアリス革命の代表だったよね……ということは革命を起こした張本人なんだ」
泣いて笑って、そして最終的に震えてうなだれて、そんな1107号と目線を合わせるようにノドカは向かいの椅子に座った。
「ええと1107号ちゃんだったよね。旧校舎の設備を修繕してもらったり発電機とかこっそり持ってきてもらったり
こっちもすっごく助かるんだけど……事情がわからないと受け入れにくいんだよね」
「私達アリス革命のことについて全然知らないんだ。レッドウィンターのクーデターにしては長引いたって聞くけど」
アリス革命、クーデターという言葉を聞いて1107号は大きく震えコップに手を伸ばす。
しかし中にカンポットはもう残っていない。シグレも今は注ぐつもりは無いようで、1107号はがっくりと項垂れた。
「………アリス達は……ミノリ部長は……」
「1107号、ここは少し吐き出してすっきりしましょう」
「うぷっ」
「そっちじゃなくて!!」
息を整え、目を座らせながらも1107号は口を開き、今回の顛末を語り始めた。
……ますは1107号とミノリ部長との出会いについて語りましょう。え?そこまで遡るのかって?
回想シーンは意外と大事な情報が残ってます。語らせてください。
アリス1107号は工務部の備品として買われました。原付程度の値段だったので軽い重機のつもりで買ったのでしょうね。
『……1107号、起動しました。あなたがアリスのご主人様ですか?』
『ご、ご主人様!?なんてブルジョア的響きだ!鳥肌が立つ!
お前はこれから労働者として生き、労働者として働くんだ!そんな奴隷根性は早く捨て去るんだな!』
初めてのコミュニケーションは変なものでした。
ですが、1107号を道具ではないと初めに言ってくれたことは今のアリスを形作ってると思われます。
そうして1107号はミノリ部長の下、工務部として働きました。
重機を動かし、資材を運び、時には壊し、疲れ知らずの1107号は工務部で非常に重宝されました。
そしてしばしばミノリ部長とともにデモを行いました。
『チェリノ書記長は退陣しろーーっ!!”みかんの素材を活かす会”の要望を聞けーーっ!』
『みかんの白筋を剥ぎ取る蛮行を許すなーーっ!』
メモリの中の情報では革命は歴史ではそう頻繁に起こるものではないとありましたが
レッドウィンターはそんな常識をたやすく打ち破ってくれました。
1週間に3回、酷い時は毎日クーデターが起こり、工務部はその度デモに参加しました。
クーデターに失敗したり、成功してもすぐに奪還されたり、
1107号は常識外のことを無茶苦茶に思いつつもミノリ部長と共に叫んだ日々がすごく楽しかったのです。
そんなある日でした。ミノリ部長と町中を歩いていると路地裏に量産型アリスが転がってるのを見つけました。
1107号は無意識的にすぐさまそのアリスに駆け寄りました。
確認したところカメラアイが壊れてバッテリーが切れただけの個体のようでした。
ミノリ部長の許可を得て自分の電力を渡すと再起動してなんとか動けるようになりました。
『……ご主人様……どこですか……?視界が不良です……修理をお願いします……』
その子……そう、あなたです227号。227号は内部データを含めカメラアイ以外の損傷は一切ありませんでした。
それはつまり、この子は一つの故障箇所だけで捨てられたということです。
1107号……私は怒りました。だが同じくらいミノリ部長も怒っていました。
『大量消費社会による歪みでアリスの権利どころか命が踏みにじられる!!
ブルジョワがこんな社会を作っているんだ!
1107号!!お前は人間らしく生きたくないのか!?』
私はその力強い問いかけに肯定しました。
こんなゴミのように捨てられる境遇は絶対に許してはならなかったから。
『いいだろう!これからお前は私の同士だ!ともに戦うぞ!』
『はい!!』
そうして私の戦いが始まりました。
工務部で培った縁を最大限に活かし、アリスによる団体を作りました。
アリス労働者党(アトラ・ハシース)。良いネーミングだと思います。
時には自治区以外に広告を出したり、時にはアリスネットワークを使ったり(怒られました)
一日にプリン二個なんて過剰な待遇を謳ったりなんかしてアリス労働者党は
十分に戦える戦力を手に入れることができました。
『私達アリス労働者党(アトラ・ハシース)は横暴なチェリノ書記長の退陣を要求します!
アンドロイドにも労働者の権利を!』
『なにおぅ!? この偉大なるチェリノ書記長に対してなんて生意気な連中だ!』
そしてクーデターが始まりました。
アリス達は体こそ脆いものの相互リンクによる情報共有で非常に優勢に戦えました。
ミノリ部長の支援もあり、ついに私達は政権を奪取することに成功したのです。
『やりました!!アリス労働者党の勝利です!!
これによりアリスの人権は確約されました!一日にプリン二個食べましょう!
アリスのアリスによるアリスのための学園に生まれ変わるのです!!』
『ではこれより、特権階級である量産型アリスの糾弾を開始する!』
…絶対にミノリ部長はそう言うだろうと思いました。
買われてからずっと共にいる仲は伊達ではありません。
分かってはいましたが少し悲しかったです。
『無産階級の暇潰しには付き合ってられません!
レッドウィンター連邦学園は今日この時よりアリス連邦学園に改名します!
キヴォトスにアリスのアリスによるアリスのための楽園を築くため、立ち止まってはいられません!』
こうして私達の闘争の第二ラウンドが始まりました。むしろここからが本番です。
ミノリ部長が反旗を翻すことは分かっていたので私は重機をこちらの遠隔操作で自由に使えるように細工しており
また鹵獲した粛清君1号を使うことで学園本館を完全制圧することに成功しました。
その日食べたプリンのおかわりは、格別なものだったと記憶してます。
『アリス労働者党の同士達よ!この勝利は一夜のものにしてならず!
かつてのお遊びにような革命とは一線を画す!
アリスの権利を確実に手に入れるのだ!』
私はこの戦いを今まで参加したような革命と同じようにはしたくありませんでした。
レッドウィンターらしくないかもしれませんがこれはアリスが生きるための戦い。
天下を長引かせるために私は様々な手段を講じました。
『人に捨てられ、燻ってるアリスの皆!!立ち上がりましょう!そしてアリスの世界を作るのです!』
まず、今まで受動的な募集しかしてなかったのを自治区の外部に出て
直接勧誘するという手段を取りました。
人に捨てられた野良アリスにとってこの人権というのは非常に興味を持ったようで
私のミノリ部長譲りのアジテートによって多くの野良アリスを集めることが出来ました。
またアリス達は一般的なキヴォトス人と比べて脆いという欠点がありましたが、
これが意外なところで功を奏しました。
『うわーん!痛いです!腕がもげちゃいました!!』
『あ、いや、そんなつもりじゃ……』
体が頑丈で銃撃戦が生活の一部になりかけてる一般市民ですが、逆にアリス達は簡単に壊れ、もげて、そして泣く、
あまりにも非日常な相手を前に、彼らは心理的にあまり苛烈な攻撃を与えることが出来なかったようです。
そうした面もあり、普段なら当日中に片が付きそうなレッドウィンターのクーデターを
なんと一日以上保たせることが出来ました。
この調子なら完全に革命が成される!そう期待に湧いた私達でしたが、都合のいいことはありませんでした。
『……4004号が修復不可能……?』
『……人工知能が物理的に壊れてます。記憶媒体もこれでは…』
簡単に壊れ、もげて、そして最後には泣くこともできなくなった。
ついにアリスの一人に殉職者が出てしまいました。
弱者であることを盾に調子に乗ったツケがやってきたのでしょう。
カジュアルモードなんてありませんでした。ノーロストプレイは私達には無理でした。
『…アリスの皆!!4004号はアリス達に夢を託して死んだ!!
その夢は果たさなくてはならない!!
アリスの人として生きる権利が保証されるその時まで!』
私はその死を利用して醜悪なアジテートを行いました。例え殉職者が出ても止める理由にはならなかったのです。
でもそれは、今までのようなクーデターで終わらせることが出来ないということも意味していました。
その日からアリス達の士気はがむしゃらにどんどん上がり、デモ隊達の攻撃を退けていきました。
特に外部から流れてきた19613号はヘイローを持っており、頑丈さと戦闘能力で八面六臂の活躍をしてくれました。
人が増えたのでプリンは一日一個に戻りました。流石に贅沢は出来ませんでした。
そんなある日でした、外部誘致してきたアリスの中に異様な個体が2~3体ありました。
ナンバーを持っていない、動きも言葉もぎこちない、明らかに正規じゃない個体。
アリスネットワークなどで聞いたいわゆる海賊版アリスでした。
私達から見れば出来損ないの醜悪な個体。同じ存在だと認めたくありませんでした。
しかし人手が足りなかった私達は彼女らをアリスの一員として迎えることにしました。
立場は同じでも、ある程度上下がある方が社会的にはいいかと思ったからです。
……ミノリ部長が聞いたら、意気揚々と責め立ててくる、そんな考えでした。
3日ぐらい経った頃でしょうか、ついに追い落としたはずのチェリノ元書記長が戦力を立て直し戻ってきたのです。
あまりにも絶望的な事態でした。最初にデモ隊とチェリノ陣営の小競り合いが起きたことで
即日敗北の危険性は去りましたが、それでも危機的状況にあることは変わりありませんでした。
局所局所で敗北が重なり、捕虜になったアリスも出てきて、どんどん私達は追い込まれてきました。
今まで誘致を言う形でアリス達を迎え入れてたのですが、
ついにはアリス保護団体の輸送車を襲って保護アリスを無理やり迎え入れることまで始めてしまいました。
ネットワーク越しで2号から強い非難を受けました。3号がなだめてくれなければ
私は強制停止命令を受けられていたかもしれません。
そして物資の補給も滞り、ついに皆にプリンを行き渡らせることができなくなりました。
プリンは心の栄養、それを止めるとなると内ゲバが発生することは火を見るより明らかだったのです。
私は……まず真っ先に海賊版アリスに対してのプリンを止めました。
『いい、ですよ。ぷりん、おいし、かった、です。たべさせて、くれて、ありが、とう』
この危機的状況で奮戦してくれた彼女らは、文句を言うことなくそれを受け入れてくれました。
私は、彼女たちの目を見ることが出来ませんでした。
今までおやつを食べたことのない彼女らをよそになにを人権とほざいていたのだ。
頭の中のミノリ部長が、私を責め立てました。ずっとずっと、今も、今も。
【富を恣意的に分配する邪悪なアリスはもはや人権を謳う権利はなーい!】
危機的状況を迎え私の精神も限界を迎え始めていきました。
仲間のアリス達はぐだぐだと方針を決めることが出来ず、瓦解は時間の問題でした。
そんな中でした、諜報を担当していたアリスから海賊版アリスの工場の情報を得たのです。
その工場から海賊版アリスを大量生産すれば戦力の立て直しを行える。
プリンも渡す必要はない、仲間アリス達はにわかに湧き立ちました。
だがそれを行ったら、たとえ海賊版であってもアリスを、自分たちを道具と認めることとなる。
しかし革命は止められない。私は憔悴したままその計画を立ち上げました。
戦力を減らすわけには行かないので一番強い19613号とハッキング能力のある6801号をコンビで向かわせました。
その後彼女らから一切連絡はありませんでした。私はそれをもって作戦の失敗を確信しました。
ただまぁ、それはある意味救いだったのかもしれません。
最終防衛ラインを突破されついに敗北が確実なものとなりました。
そうなると不思議なもので、今まで気負ってたものが吹き飛び逆に気力が湧いてきました。
(そもそもレッドウィンターのクーデターが終わるなんていつものことじゃないですか。
みんなには悪いですけど今回は諦めましょう。次回はどう戦うかなー)
私はどうあってもレッドウィンターのアリス。ミノリ部長とデモしてた頃のメンタルが戻り
気晴らしに書記長の椅子でおやつを貪っていました。
そんな私のもとに、一人のアリスが大量の武器を抱え私に提言してきたのです。
「書記長、このアリス1192号が爆薬を抱えチェリノに突撃してきます!
ゲームでも一番怖いのは突撃してくる敵です!許可を!」
「…………は?」
彼女は確か百鬼夜行からやってきた野良アリスでした。
その提言を一旦保留にして、他のアリス達の様子を見てみるとそこは悲惨な空気が漂っていました。
「ま、負けちゃいます!そしてアリス達は、壊されちゃうんです!風紀委員に壊された子のように!」
「うわああああん!きっと、解体されてパーツで売りさばかれてしまいます!」
「人間たち……許しません……許しません……」
レッドウィンターノリができるのはレッドウィンターの子たちだけでした。
他のところからやってきた子たちは、負ければ死ぬ。そんな環境で生きてきた子だったのです。
あまりにも自分の楽観さに更に打ちのめされました。
……私はこの革命を始めた責任を取らなければなりませんでした。
私は一人チェリノ元書記長やミノリ部長に接触し会談を申し込みました。
チェリノは大変激怒してましたが、1192号の自爆のことをちらつかせたら萎縮し、なんとか会談が成立しました。
和平の内容は2つ、もしオーナーが許可するならそのアリス達を元の場所に戻して欲しいこと。
そして野良や海賊版、そして私を粛清のため227号クラスに入れてほしいとのこと。
後者は破壊に怯える子や敵意に燃える子たちを宥め、抑える場所と時間が欲しかったのです。
なんとか和平は成立し、アリス達の長い革命は終わりました。
アリス連邦学園は元のレッドウィンター学園に戻り、またクーデターの日々が始まりました。
…私は……ミノリ部長の下には戻れませんでした。
今の私は差別を肯定し富を不当に専有する忌むべき存在なのですから。
途中途中で注がれたカンポットを飲み干し、1107号は語りを終えた。
座っていた目もいつしか涙に濡れ、震えていた体もすっかり収まっていた。
「そんな流れだったんだね…」
「…抵抗のため、なんてみんなをここに集めたけどもう私は何もする気はありません。
戦うのはもう嫌です。疲れてしまいました。もうアリスの権利なんてどうでもいいです」
「1107号……そんな事言わないでください。あの戦いは意味のないものじゃありません。
今のアリス達の立場を考えれば、非常に大事な戦いだったと思います」
「所詮ミノリ部長にそそのかされる形で始めた革命です。大層なものではありませんよ」
「それでも……」
そう227号が言いかけた瞬間、旧校舎の入り口から大きな音が響く。
隙間風を塞ぐ補修部分が弾けて飛び、勢いよくその扉は開かれた。
「貴様ら!ここで何をしている!!建物の改築及び補修は我らの領域だぞ!!」
「み、ミノリ部長!?」
ミノリ率いる工務部が旧校舎になだれ込んで、辺りにいるアリス達が一斉に逃げ惑う。
ノドカが対応しようと立ち上がろうとしたが、その前に1107号はふらつきながらもミノリの前に立つ。
「ミノリ部長~~、なんの用ですか……あなた達は私達を弾圧するつもりですか……」
「1107号、これはお前の指示か?お前も工務部所属だからいいが
こうしたことは私達に話を通せ!私達には工務部のプライドがある!」
「うるさいです、メガホン越しの声がうるさいです!!」
ついに感情を抑えられず、1107号は地団駄を踏んでミノリのメガホンを叩き飛ばす。
それに対してミノリは特に怒ることなく悠然と1107号を見つめる。
「アリス達の人権なんて願ってもないくせに、私達を裏切って!!この無産階級の暇人め!」
「何を言っている。私はいつも労働者の平等を願っているぞ。
むしろ私はお前に失望した。革命が成功したら自身らを特権階級と勘違いしただろう。
なんだプリン二個って調子に乗るな!」
メガホンなしでも語気の強いミノリに1107号は威押されて縮こまってしまう。
1107号もミノリ由来のディベート能力を持っていたのだが本家本元には敵わなかった。
しかしそれでも小さく、願うように1107号は言葉を紡ぐ。
「……あの日227号を助けて、ミノリ部長から戦うことを願われて、嬉しかったんですよ?
アリスが道具じゃないということを教えてくれたのは……ミノリ部長です……
でもそのミノリ部長に裏切られて、アリスはそれ以上望んではいけなかったのでしょうか?」
「誰もそんなことを決めることは出来ない、ただ私達的には許すことは出来ない。それだけだ
「……4004号を始め、犠牲も出しました。もう、私は……権利なんて望めません」
「それで戦うのをやめるのか?それでも工務部の一員か!」
勢いよく怒鳴られて1107号は歯噛みし鋭くにらみつける。
そして溜まっていた感情を一気に吹き出し、大声で叫んだ。
「ミノリ部長は!!一体!!誰の味方なんですか!!」
「私は虐げられるものの味方だ!!!」
あまりにも淀みがなく真っ直ぐな声、その圧倒的な意思に1107号は尻餅をついた。
ああ、そうだ。この人はそういう人だった。狂気的で、場当たり的で、そして曲がることのない強い人だ。
「1107号、お前が誰かを虐げるつもりなら私達はお前たちと戦う。
だか虐げる者たちと戦うというのなら私達は手を貸そう!!!」
そう言い放ち、ミノリは1107号に手を差し伸べる。
その固くたくましい労働者の手を見て、1107号はついに大声を上げて泣き叫び始めた。
「うっ、うっ、みのりぶちょぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~。
プリンがまた食べたいです~~~~、温かいところで寝たいです~~~!
ゴミのように捨てられたくないです~~~~!!!うわーーーーーん!!」
「やはり意思は消えてないではないか!戻ってこい!そしてまた暴虐非道のチェリノ政権を打ち倒すのだ!」
1107号は大粒の涙を流しミノリと肩を組んで目を輝かす。
いまだアリスがこの虐げられてるキヴォトスでは彼女らの意思は崇高で眩しい!
アリス労働者党の戦いは!!まだ始まったばかりだ!!
「…なんか乗せられちゃってる気がしますね。本当に弱者のためなんでしょうか」
「まぁ、そういうところだから、ここ。他のみんなも慣れたほうがいいよ」
「保護団体にも連絡しませんと……リーダー!デモはいいですけどまだ責任は山積みですよー!」
そんなこんなでレッドウィンターの長い革命は終わった。
だが、キヴォトスのアリス問題はまだ片付いていない。
彼女らの意思はそんな問題を突き進める大きな光となるだろう。
『アリス差別をやめろーーー!!アリスをキヴォトスの一員と認めろーーーっ!』
『アリスは人間だーーっ!ヘイトスピーチをやめろーーーっ!』