“アリス”の春の記憶

正直な話、私がアストルフォと恋人同士になるのは想定外も良いところだった。確かに、理性が蒸発しているが故の裏表のなさは話しやすかった。けど、私達は所詮そこ止まり。関わりの薄さは如何ともし難かった。
それが変わったのはあの微小特異点での出来事だ。二人してリツカと逸れたあの時、アストルフォが格好良くエスコートしてくれた。「兎同士仲良くしよーよー!」的なノリもあったけど、悪漢から守ってくれた時の彼は紛れもなく白馬の王子様だった。正直キュンときた。
そこから、私達の仲は加速度的に深まっていった。
まず、アストルフォさんじゃなくアストルフォと呼び捨てするようになった。
次に私の方も、二人っきりの時はアルトリア・キャスターから三文字取った『アリス』と呼ばれるようになった(水着霊基の見た目がそれっぽいかららしい)。
「バニー同士でお揃いにしてると髪型もお揃いだね♪」なんてアストルフォが言ってくれたりして。
いつしか、「このアストルフォが妖精國にいてくれたら良かったのに」とすら思うようになっていた。
───そして私は、アストルフォと一線を越えた。
あの運命の夜、私はアストルフォを拒まなかったどころか、進んで受け入れたのだ。
「…良いの? 君にはマスターがいるんだろ?」
「…今だけは、リツカのことは言わないで」
そんな裏切りの言葉の後、私はアストルフォに深い深いキスを捧げた。舌を絡めて唾液を交換しあう、淫らなファーストキスだった。
それで完全にタガが外れた私は、アストルフォの腕の中でめちゃくちゃ喘いで腰を振りたくった。
「リツカよりもアストルフォが好きっ♥ 裏表なくて、格好良くて、白馬の王子様でっ♥ それにセックスもスゴいのっ♥ 処女の私が♥ こんなにいっぱいイかされちゃったのっ♥♥♥ これで好きにならないなんて無理っ♥ アストルフォ大好きぃッ♥♥♥ リツカより何より、大大大好きなのぉッッ♥♥♥」
人間は、痛いことには耐えられても、気持ち良いことには耐えられないという。楽園の妖精もそこは変わらなかったらしい。私は、年中発情期の兎の如くアストルフォにメロメロになっていた。
ファーストキス、ヴァージン、アナルヴァージン。それらは全部アストルフォに捧げた。
理性が戻って「こんな関係はもうやめよう。私も君も幸せには…」と抜かし始めたアストルフォを逆レイプし「こんなに好きなのに今更酷い! お願いだから私を抱いてよぉ!」と泣き叫ぶレベルにまで堕ちた私は、無理を押してまでリツカの隣にいようとは考えなくなった。むしろ、アストルフォとの日々を彩るために積極的にリツカを裏切るようになっていった。
───私は今日もアストルフォの部屋を訪ねる。私だけの、春の記憶を作るために。
───
「うあぁぁぁああっっ♥♥♥ あぁっ♥ あぁあっ♥♥」
「ほら言ってアリス♥ …言えよアルトリア・キャスター♥ マスターには悪いけどさ、ボクの女になったんなら言えるだろっ♥ マスターよりボクの方が好きって言えよっ♥」
「うあぁっ♥ ああぁっ♥ わかったから♥ 言うからぁっ♥ リツカダシにするからこれとめてぇっ♥♥♥」
私をモノにしたくてたまらないといった雰囲気のアストルフォが、凄まじい勢いでピストンを加えてきた。オーキッドピンクの瞳が私を射抜いて、心と子宮をキュンキュンさせる。
こんなの勝てる訳ない。私は速攻で敗北し、またひとつリツカへの裏切りを積み重ねた。それに対して何ら痛痒を覚えない自分がいたが、今の私はそれを恐ろしく思うことすらなかった。
───今の私は、妖精國にいた自分勝手な妖精達と同じだ。自分の快楽のためだけに大切な相手すら裏切る、低俗な妖精。…でも、高尚だとか低俗だとか今はどうでも良い。だって、大好きな人といっぱい春の記憶を作っているのだから。
「私、リツカじゃなくてアストルフォの赤ちゃん孕みたいっ♥♥♥ 世界一大好きなアストルフォの王子様チンポで妊娠させられたいよぉっ♥♥♥」
それを聞いたアストルフォは、ぱあっと表情を輝かせた。…ああ、やっぱり素敵な笑顔だ。裏表がなくて、妖精眼で見ても気分が悪くならなくて。ずっと見ていたい。
「うん、うんっ♥ ボクもアリスのこと孕ませまくって♥ 卵子使い切らせるくらい何度もボテ腹にしたいよっ♥ だから、受肉前の予行演習としていーっぱい種付けセックスしようね♥♥♥ アリスっ♥ だーい好きッ♥♥♥」
「いっ♥ おっ、ほぉっ♥ イくっ♥♥♥ ああっ♥ イ゛ッ゛ぐぅぅうッッ♥♥♥♥♥」
アストルフォが私の膣にチンポをぶち込んで絶頂、子宮に特濃精液を流し込んだ。
…すごかった。量と勢いもそうだけど、濃さが半端じゃない。どろどろで、青臭くて、何故か病みつきになる味。いつもフェラチオで抜いてあげる時のよりさらに濃くてまたキュンとした。
「あー、めちゃくちゃ気持ち良かったぁ…♥♥♥」
「このヤリチン♥ 他の女の子にもそれ言ってるんでしょ? 騙されないから♥」
「あはは、バレたかー」
「アストルフォのことはなんでもお見通しだよ♥ 妖精眼あるもん♥」
互いに体液まみれの状態で身体を寄せ合う。ピロートークってやつなのかな、これ。
───なんか、とっても幸せだ。
───
翌日、ストーム・ボーダーの通路にて。
「あ、マスターだ。やっほー!」
「ああ、アストルフォ。…あれ、アルキャスも一緒? 珍しい組み合わせだけど、何かあった?」

「な……何も、ないよ…? 私、アストルフォとバニー同士『仲良く』してただけ、だからっ…♥」
…今日もまた、リツカに醜い嘘をついた。確かに『仲良く』はしていたけど、それはリツカの思うようなものではない。
アストルフォと私は、ついさっきまで物陰で駅弁セックスをしていた。恋人同士のラブラブディープキスから始まり、「好きっ♥ 好きっ♥ アストルフォ好きぃっ♥」とうわ言のように繰り返しながらピストンを受け入れ、事後にはお掃除フェラまでしてあげた。だから、至近距離まで接近されるのはまずかったりする。上も下もアストルフォのザーメン臭がすごいし、何より口周りにアストルフォの陰毛がついていてもおかしくないのだ。
(…さっさとどっか行ってくれないかな)
リツカに向けるものとは思えない、邪険にするような酷い考えが浮かぶ。でも、それも仕方のないことだ。
だって、今の私の心にはアストルフォしかいない。最愛のアストルフォを想って、アストルフォの精液を受け止めた股から追加の愛液を垂れ流してすらいた。
───あぁ。私が追っていた届かぬ星は、アストルフォだったのかもしれない。会話を終えて歩き去っていくリツカの背中を見ながら、ぼんやりとそう思った。