アヤベさんと買い物

アヤベさんと買い物


クリスマスソングが延々と流れるイ○ンモール。トレセン学園が近いということもあって、壁には有馬記念のポスターがずらりと並ぶ。そしてそこには我が愛バ、アドマイヤベガの姿もあった。しかし…

「こんなところでまでこの顔は見たくなかったわ」

アヤベが不機嫌になるのも無理はない。中央にでかでかと鎮座するオペラオーの得意げな立ち姿を見せられては愚痴の一つも言いたくなる。

「そういうことじゃない…いいわ、さっさと買いましょう。食料品はあっちだから。」

「そうだな」

今日は月曜日、つまり休養日で自由に過ごして良いことになっているのだが、アヤベを自由にしていたら有馬に向けて自主トレをしてしまう。そうならないように鍋でも食べながらミーティングをしようと提案したところ、意外にもすんなりと承諾してくれた。しかも買い出しまでついてきてくれると言う。

「私はついて来ただけだから、あなたの好きな物を買って。好き嫌いはないから気にしなくていい。」

「そうか」

それなら筋肉をつけるために鶏のもも肉が良いだろう。ブロッコリーに人参、魚も必要かな。乳製品はチーズで良いか。あとは豆製品…安いし小豆も買っておこう。

「ちょっと」

「どうした?」

「今から鍋を作るのでしょう?何を買ってるの」

「何って…鍋の食材だけど…」

「呆れた。栄養のことしか考えてないのね。…カゴ。貸して。いいから。」

半ば強引に買い物かごを奪われ、もも肉、魚、チーズ、小豆を戻していった。代わりに白菜、大根、豆腐を手際よくカゴに入れていく。

「スープ。いつも何で食べてるの」

「スープ?」

「…あなた毎日何を食べているの」

「朝昼はカ○リーメイト、夜は屋台のラーメン。今度美味しいところ紹介しようか?」

「…そう。」

とても困った顔をされてしまった。ラーメンは好きではないのだろうか。そう思いながら歩きだすアヤベについていった。



大方食材を買ってレジに向かうと、そこには長い行列ができていた。仕方なく並んでいると、昔食べていたお菓子が目に飛び込んでくる。

「なあアヤベ「駄目」 …」

「一袋だけ「駄目」 …」

何度か頼み込んでもなしのつぶてだったので、目を離した隙にビスケットを一袋隠しておいた。アヤベは多分気づいていない。


会計を済ませ、アヤベからビスケットの件で軽く叱られた後、袋詰めを任された。袋詰めくらい誰でもできるはずなのだが、どうやらアヤベは俺のことを信用していないらしい。とにかく袋に隙間ができないようにすればいいのだから、まずは豆腐から…

「やっぱり。貴方買い物したことがないのね」

呆れた顔で詰め寄ってくる。

「豆腐は汁が零れるから袋に入れる。そして最初は飲み物から詰める。野菜は潰れて困るものは後から入れる」

「…アヤベは主婦みたいだな」

「馬鹿なこと言ってないで早く手を動かす」

手厳しい指導を受け、どうにか食材をレジ袋に詰める。こんなことならもう少し勉強してから来ればよかった。そう思いながらレジ袋を下げて建物を出ると、アヤベが手を貸してきた。

「重いでしょ。持つわ」

「担当に余計な負荷をかけないことも仕事だ。良いだろう?」

「買い物は私にやらせたでしょ」

「うっ…返す言葉もございません」

「いいから持ち手。半分よこしなさい」

「奥さん、今日は休日なんだから僕が家事をやりますよ」

「それって…ねえ、どういう意味」

耳をピコピコと揺らして聞いてくる。小粋なジョークが余程面白かったのだろうか。

「どういう意味でもないよ」

「そう」

そう言うと会話が途切れる。アヤベの方を向いても、そっぽを向かれてしまう。しまった、何かやってしまったかと思い気を揉んでいたが、鍋をつついて笑顔になるアヤベを見ていたら、そんな些細なことは全て忘れてしまった。

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