アビドス編
「えらくご機嫌だね、ホシノ。なにかいいことでもあった?」
「え~♪そう?」
その日の私は、絶好調といってよかった。
なにせ、昨日は、彼女との逢瀬。
アルに、私の体をねっとりじっくりと楽しんでもらった。
私の体に、今も、アルのモノがいれられて、満たされた感触が残り続けている。
これを至福と言わずに、何というべきか。私にはわからない。
そんな話を先生がしていると。
「アビドス学区に侵入者です!」
教室中に鳴り響く警報とアヤネちゃんの声が響く。
「うへ~。もう、またヘルメット団?」
「いえ、一人みたいです」
一人?
他の学区に一人で潜入だなんて、あまりにも無謀だ。
そんなこと、私だって、昔に何回かやったくらいで……。
「あ、アヤネちゃん。が、画像、回してくれるかな?」
だから、その状況が頭に浮かんでしまった私は、震える声で、彼女に指示する。
そこに映されてるのは、……アルだった。
「……ごめん、皆。ここで待ってて」
それだけ言い残して、私は、校舎から駆け出していた。
「あ、ホシノ。来たのね」
学校までのルート上。
そこにいるのは、彼女一人。
……彼女でなければ、一人で来るなんて無謀だと言い切れた。
けれど、私は知っている。
「……お願いします、アビドスに、手を、出さないでください」
彼女は、私より……ううん、キヴォトスの中で、文字通り最強の存在になっている。
実際、私は彼女の力に抗えなかった。好きな相手だから、とか、それだけの理由じゃ無い。
きっと、私たちは簡単に倒される。
アルは銃を持ってるけれど、それを使うまでもない。
武器を使って、傷をつけることもできずに、皆、アルに食べられて、アビドスはアルのモノになってしまう
きっと、これは、確定事項だ。逃れることのできない。
だから、私は、……戦うことを手放した。
「私なら、なんでもします、だから、だからっ……」
ボロボロとこぼれる涙で目の前がにじむ。
大好きな人と、天秤にかけることすらできない私は、銃も、盾も、彼女の前に投げて。地面に頭をこすり付ける。
情けない。好きな人にこんな姿を見せないといけない私が、……。
そんな私を見て、彼女は、……アルは、深くため息をつく。
「奥に行きましょう。ホテルはないけれど、せめて、学校が見えないところに」
私の頭の上に乗せられた温かい手のひらに、ひどく、安心してしまうのだった