アビドス砂漠砂糖アフター・先生の憂鬱

アビドス砂漠砂糖アフター・先生の憂鬱


(おかしい、最近何かが変だ。)


シャーレ所属の先生は今日も多い書類をなんとか処理…

するのもそろそろ慣れは来ていたが、何か違和感を感じていた。

あのキヴォトス中を巻き込んだ事件から一週間程度。

問題はアビドスに出現した砂の蛇のようなモノ…を相手に戦い、

ゲーム制作部所属の天童アリスによって騒乱の原因となった砂を水に置換した事と

各生徒達の頑張りによって砂の蛇を倒すことに成功して事態は収束を迎えた。

ではその砂糖関連の事件が水面下でまた起きているのかと言えばそういう訳でもない。

先生が違和感を抱いているのは、最近シャーレに現れる生徒たちの発言についてだった。



「あのー、先生?ちょっとお時間よろしいでしょうか?

こちらの書類なのですが…」(ピトッ)

「それからこちらの予算についても…(ギュッ)」

「え?“今日はやけに積極的だね”…?…!(カァァッ)そ、そんな事ない…です…(ギュッ)」


「やっほー先生、久しぶりー⭐︎

大分中毒が落ち着いて来たんだけど、ナギちゃんもセイアちゃんもくっついて離れなくて…

嫌じゃないんだよ?むしろ嬉しいっていうか…たまには先生のお手伝いもしたくて許可取って来ちゃった!

えへへ、今日のお仕事終わったらいっぱい構って欲しいじゃんね!…な、なんちゃって!」


「パンパカパーン!アリスはシャーレの当番のクエストを受注しました!

“今日は来てくれてありがとう、アリス。最近何か困ったことはない?”…ですか?

特にはないですけど…そういえば最近モモイやミドリ、ユズが中毒状態からかなり回復したの

またゲームが出来るようになりました!普段はあまりしないのですが、

みんなでくっついてゲームすることが増えました!」


ここ最近、中毒症状が治まり通院程度で済むようになってきたユウカやミカの

スキンシップが妙に前よりも頻繁に、かつ距離が近くなってきている気がする。

アリスからもゲーム開発部と前よりも少し距離が近くなってきたという話を聞いた。

これではまるで砂糖中毒になっていた者達が皆甘えん坊になって来ているような…

そんな事を考えていると、ふとあまり思い出したくない記憶がよみがえって来た。


「ククク…アポビス討伐ご苦労様でした、先生。

そのような顔をされなくともすぐに退散させていただきますよ。

ただその前に一つだけ、独り言させていただきたいのです。

あの"アポビス"には僅かに色彩に触れた痕跡が残っていた…

しかしAL-1S…失礼、今は天童アリスによる「プロトコルATLAHASIS」の起動…

すなわち物質変換能力により、砂漠はオアシスへと生まれ変わりました。

そしてオアシスとなった元砂漠は完全に無害になったでしょう。

しかしですね…先生、それは果たして生徒達の中に未だ残る"砂糖"も同じでしょうか?

前と同じ効能のまま…という事はおそらくないでしょう。完全にアポビスの核は破壊されました。

しかしあの権能は色彩に触れた痕跡があった以上、元は全く別の神秘だった可能性があります。

ここからはさらに推察に推察を重ねた形になりますが…

"誰もが心休まり、羽根を休める事が出来る、そしていつかは疲れを癒し羽ばたく…

そんな神秘があったのかもしれません。…あくまで仮定の話ですが。」


アビドスでの決戦の後、僅かに自分の傍に生徒がいなくなった隙を見計らったかのように

喋って来た黒服のあの言葉…あの時は蹴り飛ばしてやろうかと思うくらい腹が立ったが、

もしもあれが本当だとしたら…?


"…ん?今の資料は…"


そんな考えを振り払うように書類を片付けていると、その内の一つに何か気になる文章を見つけた。

砂糖中毒患者のためにキヴォトスの複数の学校が協力して対策本部を設立しており、

この書類も砂糖中毒患者の経過観察と現行の対策をまとめ、

問題が無ければ現行の中毒症状用のワクチンの量産体制を維持させて欲しいという旨が綴られており、

ここだけ見れば何の問題もない書類に見えた。

しかしその途中、"中毒者観察レポート"と書かれた文章が綴られている部分に

先生は目が吸い寄せられていた。


「最近中毒症状だった者の症状が落ち着いてきている」

「むしろこちらに甘えてくるような言動が増えている」

「スキンシップが多くなり、抱き着いたりご飯を食べさせてほしがる」

「中毒症状が完全に抜ければこの症状はなくなるらしいが、

中毒症状がひどかった者については長く上記の症状が続くかもしれない」


"いや、そんなまさか…"


ここまで来ると偶然では片付かないだろう状況に、少しめまいがしてくる。

少しでも気分を入れ替えようと先生は窓を開けて……



「ん、今日はホシノ先輩が甘えたがっていたからノノミも行こう。」

「あら~、先輩のご指名なら仕方がありませんね~♪

折角だしみんなで行きましょうか~?」


「イオリ、チナツ!仕事は終えましたので私は先に矯正局に行かせていただきます!

ヒナ委員長、待っててくださいねー!」


「…アコちゃん、前にもまして仕事のスピードと委員長好きが増してるような…

でも前よりしっかりヒナ委員長の事見てるし、委員長も嬉しそうだしいいのかな…?

…今日もヒナ委員長の耳かきのおねだりするなら私もやらせてもらおうかな。」


「アズサちゃん、今日はどのモモフレンズの子を持っていきましょうか!

ハナコちゃんがぎゅって抱きしめやすいぺロロ様の抱き枕がいいでしょうか!?」


「ヒフミ、それならスカルマンの方もいいと思う。

後は…うん。食べやすいごはんも持っていくか。後からコハルも来るし…」




…シャーレを横切る生徒たちの会話が聞こえてくる。

確かあっちには矯正局で中毒症状の回復のために病棟に入院している

ハナコやホシノにヒナがいたような…


"……今日も平和だなぁ"


そして先生は考えるのをやめた。


【この後しばらく経ってからモモトークでヒナとハナコとホシノから先生宛に

悶絶したと思われるモモトークが大量に送られてきたり、

各地で甘えん坊になったり正直になった生徒達がしばらく発生したりしたが、

それはまた別のお話…】


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