アビドスの亡霊
「あの日、いったい何人死んだ?」
薄暗い部屋の中、平坦な声が調月リオに問いかける
「そして、これからどれだけ死ぬ?」
殺し損ねた…見方を変えれば死に損なった者がやってきたのだ
「答えろ。計算は得意だろう」
セキュリティを透過しカメラにも写らずに自分の元へたどり着いた亡霊を、調月リオは静かに迎え入れた
ああ…この日々もようやく終わる
「…わからないわ、もはや止まることのない憎悪と混沌がどこへ行き着くのか…その過程で誰が、どれほどが犠牲となるのかも」
"ゲマトリア"と名乗った者達から供与された技術は見事に目的を果たした、果たしてしまった
アビドスの中心地で瞬時に奪われた数百の命、中枢を喪ったアビドスは組織としての統制を欠き、連邦生徒会と三大校連合の勝利は確定した…
虐殺の責を負った先生と連邦生徒会、関係各校の平穏を犠牲にして
「…質問を変えよう。あの子達の無念を晴らすには、鎮魂には何人の犠牲が必要だ…?」
巡航ミサイルを発射してからずっと食事も喉を通らず、夜も眠れなくなったせいで細った首を小さな手で締め上げられる
「私はこれから何人殺せばいい?教えてよ…」
押し倒され、さらに締め付けが強くなる…彼女はもう答えを必要とはしていないようだ
…私以外も、今のミレニアムを支えようと頑張っている子達もこのままだと彼女に殺されるのだろう
止めなければ、せめて相打ちに…
……もうダメだ、もう殺せない
結局私は罪悪感に耐えきれず、責任を果たしきれなかった
ごめんなさい、後は任せるわ
馬乗りになってこちらを見下ろす蒼と橙の異色瞳に早く殺してくれと視線で訴える
「殺すべきじゃ、死なせるべきじゃなかった…」
骨の軋む音が聞こえて
ヘイローが割れた
「"全ては虚しい"か…ここからは何をしても、何の役にも立たないんだね」
いつだったか、悲観的なようで図太い子に言われた言葉を思い出した
皆を殺した直接の下手人を殺しても、達成感も、罪悪感も、哀れみも、何も浮かばなかった
この凶行に何の意味も無くても、それでも
私がどこへ行き着くのか、誰を何人殺すのか
確かめるには往くしかない、彼女達の生と死の意味は私が探さなければ見つけられない
銃を背負い、弾丸を拾い集めて部屋を出る
ホシノは振り返らなかった
「…行こっか」