アバウトな家族

アバウトな家族

娘ちゃんは撫子ちゃん

「ハァ?」

 尸魂界にある、上手い食事処の騒がしい店内でのこと。

 久しぶりに顔を合わせた母娘2人でゆっくり食事をしてから、平子宅に戻り弟と家族3人川の字で寝る予定だったのだが、母親の爆弾発言によってそれどころではなくなってしまった。

「……アカン、飲みすぎたかもしれん。オカン何て言った?」


「やから、見合いすんねんって」


 平子の言葉に撫子は唖然とし、やっと発せた言葉とそれに対する母の回答がそれだった。

「京楽さんに相談してみたらうんうん、探してみるよって言われたから一応お前にも報告しておかなアカンやろ。

まだ相手も日取りもわからんから、詳しいことは決まってからやけどな」

「………それ、桃さんにはちゃんと伝えとる?」

 普段碌に相談などせず、内心に抱えてしまうのが平子の悪癖である。その平子が何故か見合いに前向きな姿勢を見せている。副官の雛森が知らないはずがないが、万が一のことがある。

「言うとる言うとる。『隊長がお見合い!?』ってえらいびっくりしとったで」

 そりゃそうだろう。訳アリまくりの上司がいきなり見合いをするだなんて驚くなと言うのが無理な話だ。

 しかし、何故見合いをすることにしたのだろう。

 というより、結婚自体に向いていないと思っていたのにどうして見合い?

 もしや…そこまで考えて、平子の顔を見るとばっちり視線があった。

しまった。

 気を抜いたつもりはないのに、考えていることがそのまま表情に出てしまったらしい。

「……何でいきなりお見合いをしようと思ったん?」

「話せば長くなるけどやな、」


 平子の話をまとめるとこういうことだった。

 息子が歩く家族連れを羨ましそうな目で見ていることがある。恋次、ルキア、苺花の3人を見ても、やはりこどもには父親も必要なんだなと感じた。

 それに家族は多くて困ることはないやろ、と。大勢の死神に愛されて育った撫子には、息子を思う母親の気持ちが痛い程にわかる。

 自分を守り育ててくれた拳西や白、ローズ、そしてリサは撫子の家族ではあるが、弟の家族ではないし、教育係の藍染は、弟の中で『もう1人の俺』と思われても、家族とは考えられていない。

 家族という特殊な繋がりは、決して温かいだけのものではないのだ。


「………どういう人が来るんやろね?京楽総隊長の審査が入るんならよっぽどの人じゃないとお見合いまでこれんやろ」

「とりあえず要望としては、俺の仕事に対して一定の理解をしてくれて、お前やアイツも含めた子ども達ともうまくやってけそうな男、って言うとるけど」

「アタシはもう大人やから関係ないやろ!うーん……」

 平子のその言葉をきいて苦い顔をして頭を抱えた撫子の様子に平子は『何やねん』と言いたげな顔だ。

「オカン、言い方アレやけど大きいこぶ付き…『藍染の元女を許容して再婚する死神』なんて、尸魂界にホンマにおると思う?」

「京楽さんを信じろ。いざとなれば京楽さんにアイツの父親としての責任取ってもらうわ」

「言い方ァ!……アタシ京楽総隊長のこと、オトウサンて呼ぶん嫌過ぎんねんけど」

 とはいえ、あの大罪人を父親とも言い辛い。

 自分の幸せよりも尸魂界の為に弟を産み、その子の幸福を考えて見合いを決める親馬鹿な母親に撫子は頭を抱えた。



「余り大人を困らせてはいけないよ、坊ちゃん」

 鋭い眼差しを細め、藍染は可愛らしいこどもに優しく笑った。

 迷いのない藍染の言葉は濁らない。

 少し間をおいて、こどもはこくりと頷いた。

「……母さまが日番谷隊長と結婚してくれたら、松本さんもこの家に沢山来てくれるんじゃないかなって。そう思ったんだ」

 自分の内側が暴かれるような気がして、こどもは藍染から顔を背けた。

 ここだけの話、こどもは松本乱菊に惚れている。知っているのは藍染だけだ。

 あの麗しい美貌を一目見て心奪われ、初めて会った時からの片思い、ずっと胸に秘め続けた恋心。しかし、乱菊が想っているのは既にこの世を去った幼馴染の男だそうで、死人に勝つ事は出来ないと、こどもは自分の思いを告げずに恋を終わらせるつもりだ。

 それならば、日番谷と母親の縁談が決まってくれればいいのに、と思ったのだ。京楽に頼めば日番谷のお見合い写真もこっそり混ぜてくれるだろう。

 母親と日番谷の縁談が纏まれば、日番谷とプライベートでも仲の良い乱菊は、この自宅を訪れる事が増えるだろうと。

 こどもらしい可愛い願いだが、京楽は日番谷と平子の結婚を望む事は無く、実現は至難の業である。

 億が一、そんな事態になったとして、乱菊がこの家に来ることがあるのかすら疑わしい。

 さてどう言ったものか。


・パターンA:君の姉と、その恋人にはかなりの年齢差があるそうだ

・パターンB:見合いなど、一刻も早く辞めさせるべきだ

・パターンC:流石の松本乱菊も、遠慮という言葉を知っているだろうから、家に来る事はない


 こどもの頭に手を置き、ぽんぽんと撫でながら藍染は思慮に耽っている。

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