アニマルセラピー
(最近姉様の顔色がいい気がする………)
アレクシアはミドガル王国の姫君である。魔剣士の姫として、誇りある王族だが、彼女には世間で言われる『天才の剣』その才能がなかった。
だが、それを悲しんだりふて腐ったりすることはない。自分より先に生まれた姉が、天才を超えた『人外の剣』を使う余りのアホらしさに肩の力が抜けたからだ。
以来、姉に指導を受けながらも実直に剣技を積み重ねる彼女だったが、ふと仕事をしている姉様を見て思ったのだ。
あんだけ、徹夜してるのに、妙に肌色が艶やかだと。
(姉様に男………はあり得ないわね。頭の中まで剣一本の剣鬼には考えられないし………何かあったのかしら?)
巷ではシャドウガーデンやら教団やらが蔓延っている。まさかあの姉様が、とは思うが心配くらいはしてもいいだろう。
「姉様、最近顔色いいですね? ミツゴシの化粧品か何かですか?」
「あら、アレクシア。違いますよ。ふふ、実は最近夜に可愛いワンちゃんと戯れてるんです」
なんともまあ、シンプルな答えだった。一国の姫が夜中に出歩くなという話はあるが、剣鬼相手にやらかす馬鹿はいないだろうと黙認。
むしろ、姉様のことだからその犬を連れ帰って来そうな気もしたのだが、
「姉様。そのポチ………げふん、犬はどんな犬ですか?」
「強さを求めて強者に喰らいつく! 野生味あるワンちゃんですよ!」
前言撤回、やっぱり碌でもない犬だった。野犬相手に剣技を披露してる疑惑が募る中、姉様は楽しそうに話しながら、
「夜を溶かしたような髪に服を着て、暴力が具現化したような戦い方でしたが、一度躾ければ素直で可愛いですよ」
(ん? その感じだと獣人か何か?)
最近見た獣人で思い返されるのはデルタと呼ばれたシャドウガーデンに属するもの。
本能で戦う彼女が通った姿は嵐のように悲惨で、今でも頭にこびりついて離れないほどに衝撃的な映像だった。
「しかも、飲み込みが早くてですね! 私の歩法や間合い管理の説明をすぐに理解して、戦い方も変えて来たんですよ! すごくないですか?」
(あの犬ではなさそうね。説明とか理解してなさそうな馬鹿犬だし、姉様は指導下手だし)
バキュン! ズザザーン!などの擬音しかない説明で誰が理解できるのか。それこそ、姉様と同じ才能クラスでないと不可能な話で。
「というわけですか、父には内緒ですよ。アレクシア。私の息抜きなんですから」
「はいはいわかってますよ。因みにその犬、名前とかつけてたりします?」
「ええ! 本人がデルタと名乗っていたのでデルタと!」
これはアレクシアの怒声が、城中に響く数分前の出来事。