アドの日記2
3月13日
ライブ会場は全て撤収が終わった。
会場のあった場所を眺めていると、ゴードンさんに話しかけられた。
救世主として世界を救うためではなく、君との夢のために歌うあの子の歌声はあんなにも素晴らしいのだなって、ちょっぴり泣きながらそう言ってた。
なんだが胸が温かくなった。
会場の音響などはどうでしたかって聞いてみたら、プロとしての指摘を色々もらったから、次の目的地ワノ国でのライブの時には修正したい。
3月14日
エレジアを出港。
しばらくは船の中だけど、やることは山積みだ。
…お姉ちゃん、船内での練習漬けの生活に耐えられるかな?
ちょっと不安だ…。
3月15日
あの曲の振り付けに、狂言の手の動き入れたら…
黒を基調にピンクの線を…
三味線とか琴も取り入れるか…
(ダンスの振り付けや音響機器の整備、衣装のデザイン等のメモ書きが10日以上続く。)
あ…これ日記だったな。ちゃんとメモ帳作るか。
4月1日
ワノ国に到着。
最後に来た時よりも国が発展してる。
船内でのダンスとか歌の練習漬けの生活で限界を迎えていたのか、お姉ちゃんは船を飛び出して和菓子を求めて行ってしまった。
スタッフの何人かが必死で追いかけて行って、なんだが面白かった。
桜が綺麗だ。
ライブが終わったら、お姉ちゃんと一緒に花見に行こう。
4月2日
会場の設営開始。
今回は倒れないようにしなきゃ。
昼休み、昨日で満足していなかったのか、スイーツ大好きお姉ちゃんに和菓子の名店を連れまわされてちょっと疲れたな…今日は早めに寝よう。
4月3日
リハーサルは順調。
誰かが会場に無断で侵入してきたって報告を受けて向かったら、賞金稼ぎ時代からの知り合いのゾロがいた。
ワノ国に住んでることは知らなかったからびっくり。
ライブ終わったら二人で飲まないかって誘われた。
きっと会えるのは最後だから行かなきゃ。
ちゃんと事前に連絡してよって怒って少し会話して別れた後、明後日の方角に行ってしまったけど、まあ大丈夫かな。
そう言えば方向音痴だったような…?
4月4日
(この日の部分は、かなり字が乱雑で読みづらい。)
ライブは前回より改善できた。
お姉ちゃんの衣装もくノ一とか着物アレンジ。
楽曲も琴や三味線とかの和楽器を取り入れて好評だったみたいで一安心だ。
夜中、打ち上げで騒ぎ疲れたお姉ちゃんとスタッフみんなが寝静まった頃合いを見て、港から渡し船に乗って、ゾロが待つ島に向かった。その島は桜吹雪の舞うすごく綺麗な所だった。
昔ロジャーと白ひげが最後に酒を酌み交わしたのはここらしい。
待っていたゾロに注がれたお酒は、この国一番の酒造りが数年に1樽作れるかどうかの世界最高の養命酒だった。
私が長くないこと、分かってるんだね。
お酒の力を借りて、ゾロにありがとうってやっと言えた。
貧弱な体を薬で騙して賞金首を仕留めて、それでもその日の食事を買うお金が足りない時は…。
穢れて薄汚れて、傷物になった自分を受け入れられなくて、安い粗悪な密造酒を飲んで現実から逃げようとして…死のうとして。
でも、お姉ちゃんは世界のどこかできっと生きていて、私との夢を忘れてないはずだって思うと、やっぱり死ねなくて。
擦れきったくせに夢を捨てきれなかった私は、周りの賞金稼ぎみんなに馬鹿にされた。でもゾロだけは馬鹿にしてこなかった。
どうしてって聞いたら、俺もお前と同じように、誰かと約束した夢があるんだって教えてくれたっけな。
その後しばらく一緒に行動するようになって、色々助けてもらった。
本当に感謝してるって言ったら、ただの気まぐれだって、そっぽ向いてお酒をグビグビ飲み始めちゃった。素直じゃないんだから。
でもある時突然居なくなったと思ったら、まさかルフィの仲間になってるなんてねって言った途端、饒舌になって今までのことを沢山話してくれた。
その後は、もうとてもじゃないけど人に見せられないぐらい二人でハメを外してお酒を飲みまくって、あの頃の自分を笑い飛ばして…。
あれ…これを書いている内に日が昇ってきた。
ゾロはいつの間にか桜の木にもたれかかって鼻から鼻提灯を膨らませて寝てる。
もういいや、私も大の字になって、このまま芝生の上で寝ちゃおう。芝生というか、桜吹雪でピンク色の絨毯になってるけど。
あ~楽しかった。
でもこんな姿、お姉ちゃんには絶対見られたくないけどね!