アドの日記1
3月2日
お姉ちゃんとの夢が始まった。
そのために、こそこそと12年間ずっとライブの会場の設計図も作ってたし、衣装も考えてた。ダンスの振り付けだって、音響のことも勉強した。
いつか、世界一の歌手になったお姉ちゃんを支えて世界中を回るんだって。
この夢だけは、賞金稼ぎになっていろんなことがあっても捨てきれなかった。
お姉ちゃんは今更都合がいいよねって、私が新時代を託したせいで苦しませてごめんなさいって言ってたけど、そんなことない。
死んじゃったと思ってたから再会した時はびっくりしたけど…こんな擦れた穢れた私に、姉妹に戻らないかって。遅すぎるのかもしれないけど、あの頃約束した二人だけの夢を一緒にやろうって言ってくれた。
真っ黒に染まった私の手を取ってくれた。それが嬉しかった。
ともかく、私達は姉妹に戻れて、また夢に向かって一緒に歩んでいける。
これから頑張らないと。
3月4日
最初にライブを始める場所、エレジアに到着した。
エレジアでライブするのはちょっと不安だ。音楽の国として復興してるけど、あの場所では色々あったから。
私は反対したけど、これは私なりのケジメだって、エレジアの力になりたいってお姉ちゃんに言われたら、それに応えないとね。
3月7日
会場の設営は順調、3日後がライブ本番だ。明日と明後日はリハーサル。
ライブは3日前なのに、世界中から人が集まってる。お姉ちゃんやっぱり凄いや。
準備は予定通りだけど、これを書いているうちに不安になってきた。お姉ちゃんに相応しい完璧なライブを作りたいし、もう夜遅くだけど会場に行って確認してこよう。お姉ちゃんを起こさないようにしなきゃ。
3月8日
…今日は散々だった。
運び込んだ機材とかの故障はなかったけど、リハーサルではスタッフのみんなに対する指示は上手くいかなかった。
その上、倒れるなんて不甲斐ない。
現場の責任者の私がしっかりしなきゃいけないのに…。
部屋でゆっくり休んでとお姉ちゃんは言うけど、そんなことできるわけない。
この貧弱な体が憎い。
3月9日
昼過ぎ、部屋から抜け出してライブ会場に向かったら、お姉ちゃんに捕まった。あんたの考えなんてお見通しよって言われた。
そのまま腕を引っ張られてエレジアで有名なホイップましましパンケーキの名店に連れて行かれた。
ニコニコしながらパンケーキを頬張るお姉ちゃんの意図はよくわからなかったけど、そのまま夕方まで色んな所を連れ回された。
訳もわからないまま最後に連れてこられたライブ会場は、準備もリハーサルも、全部終わってた。
一人で頑張る必要はないよって、もっとスタッフのみんなを、私を頼ってよって言ってくれた。
そっか…私、もう一人じゃないんだ。
誰かに支えてもらっても、いいのかな。
弱くなっても、いいのかな。
3月10日
ライブ本番、何とか乗り切った。今日はくたくただ、反省点もある。
達成感よりも、ホッとした気持ちの方が大きい。
でも…本当にお姉ちゃんと私の夢が動き始めたんだ!
だから、もう少しだけでいいから、このライブツアーが終わるまででいいから。
私の心臓、まだ止まらないでね。
■
アド、最初から分かってたんだ。
もう自分は長く生きられないって。
なのに私は何も…この時は…。
でも、妹がどんな想いで一年間私と世界を回っていたのかもっと知りたい。
震える手を必死で抑えながら、私は次のページをめくった。