アドとエースの出会い2

アドとエースの出会い2


「もし父の前で変な動きをしたら、あなた達の命はないと思ってください。今日は二日酔いで機嫌が悪いので。」

「ご忠告どうも。」

アドとエースはピリピリした雰囲気のまま洞窟の前にたどり着いた。

「おうアドお帰り。野うさぎは仕留められたか?」

「ううん。変わりにお父さんに挨拶したい人を連れてきたよ。」

「俺に挨拶…?」

愛刀グリフォンに手を掛けながら圧倒的な威圧感でその言葉を放つシャンクスに、流石のエースも汗が出る。

「いや、そういうことじゃねえんだ。弟があんたの話ばっかりするんで、一度会って礼をと…。」

それを聞いた瞬間、アドとシャンクスの態度が180度変わった。

「へぇ…ルフィに兄貴がいたのか!」

「え…あ…あなたルフィのお兄さんなの!?」

「ああ、俺はあいつの兄弟だ。」

アドの顔がみるみる蒼白になる。

「あ…ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

「だっはっはっは!俺の娘が悪かった。俺の船には娘よりも年上ばっかりでな。見たところ年も近そうだし、仲良くしてやってくれないか。」

宴が始まった。

最初は険悪だったエースとアドだったが、仲良くなるのにそう時間はかからなかった。

(エースのあんな楽しそうな顔、本当に久しぶりに見たな。)

理由なく王を目指す目的のない旅はいつも、焦りに急かされる。

その言葉を赤髪から聞いていたデュースは、エースの焦り、身を焼く炎が少しでも和らぐきっかけになればと思った。



「そっか、エース君にとって、ルフィは本当に大切な家族なんだね。」

「ああ、あいつは世話が焼けるが、本当に自慢の弟さ。」

エースから幼少期の話を聞き終えた後、急にアドは遠くを見つめるような目線になった。

「ん?どうした?」

「ううん、何でもない。兄弟っていいな~と思って、さ。」

エースは不思議に思った。

「もしかして姉妹がいるのか?」

「あ…それは…。いや、エース君になら話しても大丈夫かな。」

サイレントと唱えて球状のドームを作り、エース以外の誰にも聞かれないようにする。

語られた言葉は、世界を揺るがしかねないものだった。

「私にはお姉ちゃんがいるの。」

「赤髪の娘がもう一人…!?これは驚いたな。」

「うん、今まで誰にも言ってなかったから。私のお姉ちゃん、本当に歌が上手くてさ――――――」

アドは久しぶりに大好きな姉のことを話し始めた。



「そういやお前の姉ちゃん、今どこにいるんだ?そんなにすげ~歌歌うなら一回聞いてみてえなぁ。」

アドは少し寂しそうな笑顔になった。

「私が体調を崩してフーシャで留守番してる間に、お父さん達とお姉ちゃんはどこかの音楽の島に行ったんだ。」

アド曰く、赤髪海賊団はとある音楽の国に行き、そこでその国の王に認められるほどの才能を見せた姉は、音楽を学ぶためにその国に留まることにし、船を降りた。そしてシャンクスは、姉が世界一の歌手になったらみんなで歌を聴きに行こう、そうアドと約束したという。

「へ~そうなのか!いつか世界中にすげえ歌を届ける奴が現れたら、それがお前の姉ちゃんってことだな!」

「この事、誰にも言わないって約束してくれないかな?お姉ちゃんがもし私と姉妹だってバレたら、きっと夢の邪魔になる。」

「その言い方だと、直接は会わないつもりか?」

「うん、あの海賊王の子供が生まれるかも知れないって噂があった地域の子供や妊婦さんがたくさん処刑されたこと、お父さんも私も知ってるから。四皇の娘だってバレたら、きっと世界中から狙われ―――――」

その時、エースは持っていたコップをバキリと握り潰した。

「黙って聞いてりゃあ…ゴタゴタ理由を並べてるが本当は会いたいんだろ、姉ちゃんに。その望みから逃げる言い訳に海賊王の話やら親父の話を使ってるだけだろ?」

頭では会わない方が姉のためだと理解している。しかし心は会いたいと思っている。長年誰にも言えず一人で抱えていた葛藤を言い当てられ、アド珍しく感情的になる。

「お父さんは優しいよ…でも世間から見たら大犯罪者だから我慢するしかないの…!エース君に何が分かるの!?赤髪の娘っていうだけでたった一人の姉にも会えない私の気持ちが!」

「アド、親は選べねえぞ…!お前の親が誰だかは関係ねえ!お前自身がどうしたいかだろ!」

「私が…どうしたいか…?」

「ああそうだ!お前の心は、お前だけのもんだろ!もう一度聞くぞ、お前は本当はどうしたいんだ―――」

今まで自分より他人を優先して生きてきたアドにとって、エースは心の恩人だ。しかし、どうしてエースが親は選べないと言っていたのか、アドにはあの日が来るまでずっと分からなかった。





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