アズサがプレゼントを買う話
感謝の表す方法……ですか?そうですね……一般的には例えば……プレゼント、でしょうか?
相手の事を考えて、プレゼントを選んで。そして、感謝の言葉とともに。
……あはは。改めて口にすると、ちょっと恥ずかしいですけどね。
ある日、興味本位から、ヒフミとそんな会話をした。
知り合いに感謝を表すためにはどうしたらいいのか。日常のちょっとした雑談。
私はそういったことに疎いから。
補習授業部の中でも一番頼りになりそうなヒフミに聞くことにした。
……ハナコに聞いたら明らかにふざけて返してきたし。
履いた後の靴下を渡されて嬉しい人なんている訳ない。私をからかうにしたってもう少し考えて欲しい。
……コハルは。
しばらく無言で固まっていたと思うと。急に頭から煙を吹き出しながら、顔を真っ赤にして。
「……!エッチなのは禁止!ダメ、絶対!絶対よ!そんなことする訳ないんだから!!」
そう言って走り去ってしまった。
……いったい何を考えたんだ?
まあいい。
とにかく。
ありていに言ってみれば、私は「プレゼントを選んで、感謝とともに贈る」という行為を、やってみたい。
周りの人たちに、私は世話になりっぱなしだから。その恩返しで。
プレゼントを買って、渡そう。
そう考えたのは良いんだけど。
……相手は誰にしよう?
最初はヒフミって思ったんだけど。
多分プレゼントを選ぶ行為で躓く。
いや。躓くというか。
ヒフミ相手なら自然とモモフレンズのアイテムを選ぶことになる。
私も全力を尽くす。
……ん、だけど。
その、ことヒフミ相手だと、「プレゼント選び」の行為がちょっと趣旨とずれる気がしている。
勘、だけど。
なので、今回はヒフミは候補から外そう。
そうして考えた時、脳裏をよぎったのは。
前に先生と一日、トリニティ学区内で遊んだ記憶。
最後にはモモフレンズのぬいぐるみショップに入ったっけ。
無計画でどこかに行く。なんてことには最初は戸惑いだらけだったけど。
それ以上にとても楽しくて。
──あの時のお礼をしよう。
だから、プレゼントは先生に。
そう決めた。
そう考えたなら早速。リサーチを……。
反射的に情報端末に伸ばしかけた手を、止める。
確かあの時先生は。
計画を立てすぎるのは良くないと、そう言っていた。
無計画を楽しんだ方がいい、とも。
……ふむ。
改めて考えると、とても難しい。
どこまでが適切で。どこからが立てすぎなのか。
これが戦闘作戦なら話は簡単なのに。
なれない「無計画」に頭を悩ませながら、考える。
まず、先生が何を必要としているか。何をプレゼントにするべきか。
これを考えることは「適切な計画」だと、思う。
必要のないものを買ってしまう事は避けるべきだ。
じゃあ、それが分かったとして。
それをどこで買うか。
……もしかして。この部分は。無計画の方が、良いんだろうか?
想像する。
店を調べて、これを買うと決意して。入手する。
全く問題ないように見えるけど。
あの時に照らして言うなら、もしかして。
……
…………
「その品物しか目に入っていなかったせいで、もっと素敵な品を見逃す」とか?
まあ、あり得るといえば、あり得る。
でも。
何も考えずに買いに行って、何も買えずに帰ってくる。プレゼントも当然用意できない。
こういう結末に至る場合も当然ある。
その両方の可能性を考慮すればするほど、私の頭が熱を帯びたようになる。
……これは難しいミッションだ。
しばらく頭を悩ませた後、考えが固まった。
「先生に欲しいものを聞いてリサーチ。その後、ネットで対象商品を調べる。ただし実際に買いに行く時は、店に直行せずに他の店舗を見て回って、あらかじめ調べた商品より良さそうなものなら買う。そうじゃないなら当初の計画通り」
………。
考えれば考えるほど、これが最適解な気がする。
先生の言う、十分な計画を立てつつ、あえて無計画な部分を残す。
今の案なら、条件をすべて満たしている。
うん、決めた。これで行こう。
じゃあまずは、先生の欲しいもののリサーチから。
それを聞くために。
私は端末を取り上げ、モモトークを開く。
先生とのトーク画面を開いて。
【こちらペンギン】
【応答せよ、アヒル───】