アカデミー生避難完了まで、残り四名
「やっと出来た、宝物だったんだよ」
力なく立ち上がったネモは、覇気のこもらない声で呟く。その黒く染まった視線の先には、悲惨無惨な血溜まりが三つ。
それらを生み出したバケモノ達は、最後に残った非力な少女へと標的を移す。ネモは、既に感情が焼き切れてしまったのか、冷え切った声で、言葉を紡ぐ。
「これから、沢山、バトルするはずだったのに」
ネモは、強かった。最強だった。誰にも負けない。誰も追いつけない。誰からも、手を伸ばされない。
ネモの立つ高みは、ネモが思うよりもずっと、ずっと、遙かな場所で。自分の他には誰もいない極みの上で、ネモは、隣に立つ者を求め続けた。
「ようやく見つけた、全力でぶつかれる相手だったのに」
そんなネモに、ある日訪れた僥倖。
ついにみつけた、たからもの。
本気の敗北を知った。追いつかれる焦りを覚えた。それは、孤独に触れる者。孤独な少女が立つ遙かなる高み。その、更なる上に立ちうる者。
暗く沈みかけた目に、明るく眩い光が射した。ただただ暗い上を見上げる瞳に、ようやく映った、暁の光。
光の中から差し伸べられる、小さく力強い掌。ネモは、心の底から笑みを浮かべて、その手を握った。
――握った、筈だったのに。
小さなあの子が稼いだ時間で。ペパーが身を挺して庇ったボタンが、無情にも引き裂かれた直後に、ようやく解除できたボールロック。
「あぁ、なんで――」
ネモは、己のボールを。あの子とペパーに託されたボールを。ボタンが投げ渡してきたボールを。全て空に放り、解き放つ。
「こんな時に限って、無力なんだろう」
殺意に、嘆きに、怒りに、絶望に咽ぶ、総勢二十四匹のポケモン達を引き連れて、ネモはパラドックスポケモン達を蹂躙する。
光に満たされた筈のその瞳は、病んで、萎びて、枯れ果てて。
その果てに、一つ残ったのは、踏まれて弾けた果実の飛沫。
誰にも知られず、悟られず。パルデアの奥地の底の底で、四つの光が失われた。
潰える光は、あと、八つ。