アイドルの笑顔も柔かく♪
剣戟……大きな金属がぶつかり合う音が響く。
角の生えた長身の女性と鷹の目をした黒髪のスタイルの良い女性が金棒と二刀流で激戦を繰り広げてた。
「っく!女性で僕の金棒にここまで打ち合えるのは……君くらいだよ!」
「それはどうも、技は洗練されてるけど……どうにも実直過ぎるわね」
ヤマトとミルバスがその類まれなる腕力と剣術で勝負をしていた。
客観的視点で言えば長身でパワーもあるヤマトが圧勝するだろうと思われるが、ミルバスという剣士にそのセオリーは通じない。
実際、いつ折られてもおかしくないレイピアとダガーがずっとヤマトの金棒をさばいていた。
攻めている筈なのに一向に有効打が決めれないヤマトは歯噛みして……
「!」
一歩後方に跳躍、そして金棒に覇気を込める……決めるつもりだ。
「雷鳴八卦!!」
轟音と共に瞬く間にミルバスへ迫る金棒。雷を纏う攻撃はまさに一撃必殺。しかし
「図南鵬翼」
その金棒は静かな金切り声を出したまま、空を切る。
二人の位置はいつの間にか通り過ぎており……
「……くっそぉ」
ヤマトが膝をつく。見れば金棒を握る両手が血まみれ、それだけでなく腕、そして肩にまで刀傷がつけられていた。
目の良い者がいれば理解できた筈。ヤマトの金棒の上を刀を滑らすように宛がいその威力を殺さず彼女の両腕を斬りつけたのだ。
ミルバス得意の柔剣。それもあのカイドウの娘であるヤマトの腕力すら利用する洗練された剣術であった。
そして二人は目をつぶり。
─
──
「はい!試合終了。ミルちゃんの勝ち!」
目を覚ましたミルバスの右手をあげて誇らしげにするウタ。
同じく目を覚ましたヤマトがぐぬぬと悔しげにしていた。
「これで5勝目だったか?」
「うわぁ……」
ペローナとプリンが勝負の決着をウタから聞いて静かに感想を呟く。
どうやら、ウタワールドの中で真剣勝負をしていたらしい。現実でやれば怪我の怖れがあるため夢の世界でやるのがお決まりになっているようだ。
「すごい、ウタワールドで見ましたけどミルバスさんって本当に強いんですね」
「まぁ子供の頃から鍛えてたしね」
師匠にも恵まれていたって言おうとしたけど止めた。何か父親自慢になる気がしたし、藪蛇になりそうだった……。
プリンの素直な感想にくすぐったく思いながらミルバスはヤマトの前でしゃがんで
「でも前より良い戦いになってきたわ。あなたは技も力も鍛えてあるから後は経験だけ積むと良いよ」
「本当かい!?」
そう言ってヤマトの顔がほころぶ。最年長なのにどこか可愛げのある性格をしているためかミルバスも彼女に対して好感があった。
ちょっとした話になるが、初めて会って腕試しにと剣を抜いた時。『あ!二刀流!!良いなぁ、おでんみたいだ!』と変な感心をされたなぁと思いだした……。
「それにしてもミルバスさんってどこにあんなパワーがあるんですか?」
プリンがティータイム用にとそれぞれ好みのお茶を配りながらミルバスの腕を触る。明らかに筋肉的にはヤマトの方がある筈なのに。
「うーん……別に力で勝ってるわけじゃないのよね」
プリンオリジナルブレンドの紅茶を飲みながらミルバスが補足説明をする。
「ただ彼女の力の向きに沿って刀を滑らしたり、力の方向を変えたり力が入ってない部分を攻めたりしてるだけ」
簡単に説明するがこれは難易度の高い高等技術。実際プリンも理解が及ばず首を傾げる。
「そう言えばプリンは見たことなかったか。ミルバス、あの技でも見せれば?ほらあの握手からの」
アップルティーを飲みながらペローナがそう提案して
「あ!あれね!私も久々に見たい」
ミルクティーを飲んでるウタが便乗した。
「別に私は良いけど……ヤマトは良いの?」
「うーん、あれ結構不思議な気分なるけど……仕方ない!今日こそ打ち破るか!」
ミルバスの確認の目くばせにダージリンを飲み干したヤマトが立ち上がって肩を回す。
二人が相対する形で佇み、他三人が見守る。
「プリン、よく見とけよ。面白いから」
ペローナが少し悪戯っ子な表情で笑う。それに対してプリンは頷いた。
ミルバスとヤマトが右手を出して、握手。
「ふん!」
そのままヤマトが腕の筋肉を隆起させ、ミルバスの手を押しつぶそうと力を込めた。しかし
「っぐ!!?……ぬ、くっ……」
なんと力を込めた筈のヤマトの体勢が崩れた。右足で踏ん張りを効かせて何とか体勢を戻そうとするも、額に汗をかくばかり。
「え?え!?なんで!?」
「な?面白いだろ、私にもわかんない」
困惑するプリンの横でペローナも相変わらず原理が意味不明と思いながら二人の握手という名の握り合い勝負を見る。
「っぐ……っくぅ!…ぐぐぐ!!」
「ぁ、すごい押して来た」
ヤマトが右足で踏んでる地面に罅が入り、ミルバスの手を捻り返そうとするも
「っよ」
「ぁ!!」
ビタン!!と地面に倒されたヤマト。
「はい!ミルちゃんの勝利!ふふん!」
「さっきから何でお前が誇らしげなんだよ」
ウタがウキウキでドヤ顔する中、一応のツッコミをいれるペローナであった。
「ワノ国で言う柔(ヤワラ)というやつかな。魚人島とかでもある柔術みたいなもの」
倒れたヤマトを起き上がらせて補足説明をするミルバス。しかし、プリンに取って不思議過ぎる現象が起きたために今一理解に苦しむ。
明らかに力の強いヤマトがなぜやられたのか
「うーん、説明するのが難しいわね……」
顎に指を当てて悩む、ミルバス。だがその後プリンへ右手を伸ばす。
「体験してみる?」
「遠慮しときます!!」
プリンは首をブンブン振って拒否。世の中には‘よくわからないけど確かにあるもの’という事を勉強したのだった。
─
──
───
サニー号のメインマスト上部。ここに一人の剣士が合計1tの重りを肩と腕に乗せて瞑想していた。
「…………剛と柔か」
ロロノア・ゾロはかつて受けた屈辱的なやり取りを思い出す。
~~~
2年前・シッケアール城・大広間
「あなたの豪剣はよくわかった。だけどまだ力押しが目立つ」
そう言って右手を出して来たミルバスに不審な目をするゾロ
「剛力だけじゃこの先通用しないのを教えてあげる。私の手を握りつぶす気で掴みなさい」
「は?」
この女はバカにしてるのかと思った。確かに初めて会った時にはコテンパンにしてやられたが事、力押しに関しては圧倒的に自分が上と自負している。
事実その通りであろう。常日頃常人の何倍も鍛えてるゾロの筋力はミルバスを遥かに上回る。
少々訝しい顔で手を握った。
「仕掛けたのはそっちだ、言っとくが手加減しねぇぞ」
やはり細い……女性ならではの手、剣ダコはあるがこの筋力じゃ自分が勝つと思った。
この手、数日は剣を握れなくなっても知らんぞと一言添えたが
「どうぞ」
と涼しい顔で言われた。少々頭に来たので、お望み通り彼女の手を握り潰そうと力を加える……すると
「!!!?」
ガタン!と体勢を崩された。何とか踏ん張りを効かすも
「はい」
「っぐあ!?」
握った手を離せず……尻もちをついてしまった。
「わかった?剛力だけじゃ通じないって意味」
「…………」
何とも不思議な体験をしたゾロは、目の前の剣士に改まって教えを乞おうと悔しさと謙虚さと野望の気持ちが混ざった複雑な心で頭を下げた。
~~~
「勝負はつけられなかったが……次に会った時にケリつけてやる」
ミホークには悪いが娘を下してやろうと麦わらの一味が誇る大剣豪は鬼のような笑みを浮かべた。
─
──
───
「あ!そうだ。次のライヴの衣装が出来たから皆着てみてね」
とウタが持ってきたスーツケースの中から5着分の衣装を取り出して配る。
その顔は自身に溢れており……
「おお、もう出来たんだ」
「今回はどんな感じのですか?」
ペローナとプリンが興味津々でウタからもらった服を眺めて
「……」
「……」
ヤマトとミルバスはそろりそろりとその場から離れようと──
「はーい二人共♪同じチームなんだから着ようね♪」
したが、ウタに回り込まれた。
「待ってウタちゃん……その、明らかにフリフリなワンピース型のが」
「そ♪可愛いでしょう♪」
ミルバスがひくついた顔で衣装を指さして
「ウタ……僕は絶対似合わないよ、ほらこのデカさだし、皆より年上だし、おでんだし」
「大丈夫!ヤマトちゃんは可愛いよ!」
女の子らしさを全面に出した衣装にタジタジになるヤマト
そして……
「お着換えターイム♪」
善意100%とあどけない笑顔で迫るウタに二人は抵抗出来ずにいた……
「うん!やっぱり可愛い!!」
腕組をしてフンスと頷くウタの目の前には
「…………ウタちゃん…許して」
黒のリボンが大きくあしらわれた夜を思わせるカラーのフリフリのワンピース型アイドル衣装に身を包んだミルバス
「僕には派手過ぎるよ……もうおでんじゃないよ」
白のリボンが目立つようにつけられた和のテイストのアイドル衣装を身に包んだヤマトがいた。
「普段横乳が見える服着て何が派手だよ」
と呆れた顔でゴシックアイドル衣装のペローナ
「その内慣れますよ♪」
とフワフワしたスカートを回すプリン。
「よーし、じゃぁシッケアール・シスターズ!次のライブに向けて、練習だ!」
「「おー!!」」
「……ぉぉ」
「……ぉぉ」
ノリノリな三人と恥じらう二人。彼女のアイドル活動はこれからも続く!