わたしの“宝物”

わたしの“宝物”

レイレイ

〜丘の上の家(キュロス宅)〜



眼が覚めたとき、ルフィの顔が目の前にあった。


ウタ「……!!?(どういう状況!?)」


あまりの驚きで声が出なかったのはある意味幸運だったのかもしれない。周りは暗く、ルフィ以外の寝息も聞こえてくる。

なんとか呼吸を整え、周りの音に集中する。


ウタ「(この心音は…。ゾロにウソップ、ロビン、フランキー、あとトラ男君かな?他に二人男の人がいるけど皆が安心して寝てるみたいだし、大丈夫かな?)」


どうやらルフィも含めて、ドレスローザに残った仲間たちは皆ここにいるみたい。ナミ達がいないのはちょっとさみしいけど、改めて皆が無事で良かった…。


身動ぎをしようとしたら、どうやら私がルフィに抱きしめられて眠ってることがわかった。どうしてこうなったのか分からなくて顔が真っ赤になるのがわかる。


「(でも、なんだか凄く安心する…)」


人形だったとき、いつも聞いていたルフィの心臓の音。聞いているこっちまで楽しくなって踊りだしたくなるような、宴のようなリズム。今の私は、いつもみたいにルフィの近くにいる。でも人形の時と違って、ルフィの暖かい体温や息遣い、それにルフィの臭いを感じる。


「(なんだか凄く懐かしい。小さい頃、シャンクスと一緒に寝てたときみたいで安心する。…あれ?でもあの時と比べるとなんだか胸がドキドキしすぎるような?)」


12年ぶりに感じる様々な感覚に困惑しながらも、とりあえず今どうなってるのか何となく察しがついた。

そうやってルフィの腕の中でもぞもぞしていたからなのか、ぐっすり眠っていたルフィがうっすら目を開ける。


ルフィ「…ムニャ。ウタ…?」

ウタ「……おはよう?」


寝ぼけ眼のルフィに小声で声をかける。


ルフィ「ウタ!!」

ウタ「ちょっ…、ルフィ、こえ、おおきい。みんなおきちゃう…」


ルフィも皆が寝てるのに気がついたのか、声を抑える。



ルフィ「いやー、よかったよかった。どうやっても起きないし、それなのにおれに抱きついて離れないしで心配したぞ?

医者は疲れてるだけで怪我はないって言ってくれたけど、本当に大丈夫か?」

ウタ「…え?」


起きたらルフィに抱きつかれてたから意識してなかったけど、よくよく考えたらわたしの腕もルフィに抱きついてる。ルフィの体には包帯が巻いてあるから、わたしが抱きついた状態で治療してもらったのかな?

…本当に申し訳ない。


ウタ「ご、ごめんね。」

ルフィ「気にすんな。それにまあおれも…」


最後の台詞はゴニョゴニョしてて聞き取りにくかったけど、ルフィは気にしてないみたいで良かった。

流石に恥ずかしくなってルフィから離れようとしたけど、ルフィがギューっと私を抱きしめてきた。



ウタ「る、ルフィ…?」

ルフィ「ウタ。ごめんな。本当にごめん。おれ馬鹿だからよ。お前がずーっと苦しんでたのに気付いてやれなくて…。」


さっきまで嬉しそうにしていたルフィの声に、だんだんと涙が混じる。


ルフィ「ずっど一緒にいでぐれだのによォ、おれおまえのごど乱暴にあずがっで、ボロボロにしぢまって…」


ルフィが泣きながら私に謝り続ける。


ルフィ「シャンクスだちども離れ離れにしぢまっで、おれ…」

ウタ「ルフィ、…ルフィ!」


謝り続けるルフィに、大声で声をかける。

…皆起きちゃわないかな?大丈夫だよね?


ルフィ「ウダ…?」

ウタ「ルフィはわるくないよ!あやまらないで!」


気がついたら私も涙が出ていた。


ウタ「ルフィはずっとわたしをたすけてくれた。ルフィがいたから、わたしはいまここにいる。だから、あやまらないでいいんだよ。」


涙を流して、ルフィにもっと強く抱きつく。


ウタ「しゃんくすたちに、みんなにわすれられちゃってすごくつらかった。だれもわたしのなまえをよんでくれなかった。」


12年前、シュガーに玩具にされた私は世界から忘れられた。大好きなお父さんも、優しかった赤髪海賊団の皆も、そして大切な幼馴染も、皆私のことを覚えていなかった。


ウタ「でもルフィが、わたしのことを“ウタ”だってよんでくれた。」



ルフィ『おまえ歌が好きなのか?じゃあおまえの名前は“ウタ”だ!よろしくな!ウタ!』



12年前の大切な記憶。今日この日まで決して忘れることのなかったわたしの“宝物”。


皆に忘れられて、わたし自身も忘れてしまいそうだったわたしの名前。あの日、ルフィがわたしの名前を呼んでくれたから、その奇跡があったからわたしは生きてこれた。


ウタ「ありがとう、ルフィ。わたしをみつけてくれて。ほんとうにありがとう」


ルフィの胸の中で泣きながらお礼を言うわたしを、ルフィが優しく抱き返してくれる。


どれくらいそうしていただろう。

二人ともようやく涙が止まって、顔を見れるようになった。


ウタ「えへへ…」

ルフィ「ししし」


どっちも涙で眼が赤くなってる酷い顔で、なんだか可笑しくなって笑っちゃった。

いつも一緒にいてくれた幼馴染。ずっと、こうやって話せる日を夢見てた。人間に戻れる日がくるなんて、もうほとんど諦めていたけど。いつかのそんな日が来るならって、奇跡を願っていた。


ウタ「ルフィ、わたしルフィにたくさん、いいたいことがあるの」

ルフィ「ウタ?」


ずっと話せなかった。だから今、ちゃんと言わないと。


ウタ「わたしをすくってくれてありがとう。わたしをずっとまもってくれてありがとう。わたしを…、ともだちだって、なかまだっていってくれて、ありがとう。」


沢山、沢山お礼を言いたかった。名前を呼んでくれたあの日から今日までの沢山の感謝の気持ちを伝えたかった。


ルフィ「ウタ…、おれもだ。おれも、お前のお陰でここまでこれた」


ルフィがわたしを優しく抱きしめながら言う。


ルフィ「ありがとう、ウタ。お前がずっと一緒にいてくれたから、おれは寂しくなかった。それに、お前だっておれをいつも助けてくれたじゃねェか。

なあ、覚えてるか?昔おれが海賊に捕まったときさ、お前がエースとサボを連れてきてくれたから、おれは助かったんだ。」


それはルフィがまだ幼かった頃、エースとサボとまだ兄弟じゃなかった頃。

悪い海賊に捕まっちゃったルフィは、エース達の宝物の在処を吐かせるために、海賊に拷問された。一緒に捕まった私も、珍しい動く玩具だって売り飛ばされそうになった。暴れるわたしに怒って壊そうとする海賊たちに、ルフィが無謀にも立ち向かって…。


ルフィ『ウタに手を出すな!!』


自分もボロボロなのに、わたしを庇ってもっと血塗れになった。それでも隙を見てわたしを逃してくれた。


逃げ出したわたしは、必死でエースとサボを探して彼らに助けを求めた。

エースとサボに助けられたルフィは、立つこともできないくらいボロボロにされてたのに、エース達と一緒にいるわたしを見て笑っていた。


ルフィ『ウタが無事でよかった…』




ウタ「うん、おぼえてる。あのときのルフィ、かっこよかったよ」

ルフィ「……そっか」


あ、ルフィがちょっと照れてる。


そうやって昔の思い出を語り合った。フーシャ村で一緒に“勝負”をしていた時の話。私が人形になってから、コルボ山でエースやサボと修行してた頃の話。そして船出してから沢山冒険をした頃の話。


ルフィ「……なあ、ウタ。シャンクスに会いたいか?」


思い出話が途切れた時、ルフィが私に尋ねた。


ウタ「…あいたい。でも、わたしはルフィのふねのくるーだから。」


ルフィが、今はまだシャンクスに会おうとしていないことは分かっている。約束があるから。立派な海賊になるまで、ルフィはシャンクスに会わないつもりなんだろう。

でも、わたしがそう言うとルフィが辛そうな顔をした。


ルフィ「でもよ、ウタが父ちゃんに会えないのは…」

ウタ「だいじょうぶ。ルフィといちみのみんながいるからさびしくないよ。それにルフィなら、もうすぐしゃんくすにあえるよ」


だってルフィは…。


ウタ「ルフィは、かいぞくおうになるから。かいぞくおうになれば、むねをはってしゃんくすにあえるよ」


ルフィの夢。幼い頃のわたし達の約束。

わたしのことを忘れてしまったルフィが、それでも覚えていた夢の果てを、わたしは知っている。


ウタ「だからね、ルフィ。かいぞくおうになって、むぎわらぼうしがいまよりもっと、もーっとにあうおとこになって、わたしをしゃんくすにあわせて。」



わたしはそう言って、ルフィから預かったままだった麦わら帽子をルフィの頭に載せる。


ルフィ「おう、まかせとけ!!」


ルフィの太陽みたいに暖かな笑顔を見て安心した私は、ルフィの腕の中でまた眠りの世界に旅立った。




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以下、同じ部屋で二人の会話を聞いていた一味+αの(目線だけの)会話



ウソップ「(なあ、これ俺たちが起きてることバレたらヤバイよな?)」

ロビン「(ダメよウソップ。ルフィはともかくウタが恥ずかしさで死んでしまうわ。)」

フランキー「(アゥ!泣ける話じゃねーか!まあ、ここで泣いちまったらバレるから我慢するしかねーがよ)」

ゾロ「(酒の肴にちょうど良さそうだが、今飲むのは野暮だな)」

ベラミー「(何でおれはこんなところに…)」

ロー「(おい動くなハイエナ屋!俺達が起きてるのがバレるだろうが!)」

キュロス「(良かったな、ルフィランド…)」



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