わたしの名前は…

わたしの名前は…

レイレイ

〜スリラーバーク〜


敵に捕まったナミ達を助けるため、王下七武海ゲッコー・モリアの海賊船“スリラーバーク”へ乗り込んだわたし達“麦わらの一味”。

でも、道中でゾンビを成敗しながら進んでいたら気がついたらサンジくんとゾロがいつの間にかいなくなっていた。ゾロだけならまた迷子になっただけだと心配はしないですむんだけど、サンジくんまでいなくなるのは異常事態だと皆警戒していた。

戦闘で役に立てないわたしも、ルフィの肩の上で聞き耳をたてて、敵が来たらすぐにルフィに伝えることができるようにしていた。


そして、鎧を着たゾンビの軍勢に取り囲まれた大乱戦の最中、ルフィの肩にしがみついていたわたしは天井からの奇妙な気配に気がついた!


ウタ「キィ!」

ルフィ「上か!」


わたしの声に反応したルフィが、上からわたし達を捉えようと伸びてきた糸を回避した。だけど…。


ウタ「ギィィー!?」

ルフィ「ウター!!」


ルフィが回避したはずみにルフィの肩から落ちてしまったわたしは、糸を回避しきれず捕まってしまった。そしてわたしが捕まったせいで注意が削がれたルフィも…。


ルフィ「しまった!?離しやがれー!!」


複数の鎧ゾンビに取り押さえられ糸でぐるぐる巻にされたルフィと一緒に、わたしとルフィは天井に空いた穴から回収され棺に放り込まれた。


こ、これからどうなっちゃうの…?



〜ダンスホール〜


粘着性のある糸で捕縛されたわたしとルフィは檻に入れられてらっきょみたいな体格の大男のいる部屋に連行された。

こいつがブルックやあの傷だらけのお爺さんから影を奪った、王下七武海の一人“ゲッコー・モリア”なのかな?

そしてわたし達が連行されてすぐ、部屋に四人の人影が入ってきた。

一人は丸っこい体格で後ろに綺麗なお姉さんを引き連れたサングラスのおじさん、一人は顔面がライオンの偉そうな大男、もう一人はファンシーな衣装を着た可愛い女の子。

彼らが入ってくると、デカらっきょ…じゃなかった、ゲッコー・モリアが彼らに呼びかけた。



モリア「オウ、来たかおめェら!キシシシシシシ!!

早くおれを海賊王にならせろ!!!」


モリアの発言にルフィが「海賊王になるのはおれだ!!」と叫んでいる。それにゾロ達のことも聞いたけど、捕まったのはわたし達以外だとゾロとサンジくんだけみたい。


モリア達が何やら話し合ってる隙にルフィが鉄の檻を文字通り食い破る。


ルフィ「逃げるぞ!ウタ!」

ウタ「キィ!」


手を使えないルフィがわたしを口で咥えてウサギ跳びの要領でぴょんぴょん逃げようとする。敵の攻撃が来るかもとハラハラしていると…。


ペローナ「“ネガティブホロウ”!!」

ルフィ「!!?」

ウタ「ギィィー!?」


まずい、さっき森で出くわしたオバケが、何故かあの可愛い女の子から呼び出されてわたしとルフィの体をすり抜けていった。

このオバケがさっきの奴と同じだとすると…、わたしもルフィもネガティブになっちゃう!?


ルフィ「もし生まれ変われるのなら…、おれはナマコになりたい…、死のう」

ウタ「ギィィ!ギィギィ!?」


ルフィーー!?い、いつもポジティブで明るいルフィがこんなにネガティブに!?

……あれ?でもわたしはいつもと変わらない?


アブサロム「さっきまで海賊王になると言っていた男がナマコとはむごい」

ペローナ「…?“麦わら”はともかくあっちの人形は特に変わってないな?

人形だからか?」


可愛い女の子が首をかしげていたけど、とにかく逃げないと。でも非力な私じゃあ無駄に鎧なんて着たルフィを運べるはずないし!


混乱した私を、可愛い女の子が抱き上げた。


ウタ「ギィ!?」

ペローナ「よく見たら可愛い人形じゃねーか!ご主人様!この人形わたしのにしていい?」

モリア「……あー、そんな縁起の悪い“玩具”はやめとけペローナ。」

ウタ「ギィギィ!ギィィ!!」


なんだとォ!わたしのどこが縁起が悪いんだ!この可愛い紅白ボディになんて失礼なことを!


抗議しようとモリアの顔を見て、わたしはゾッとした。

普段、動く人形であるわたしを初めて見た人間はたいてい怪訝な表情や珍しい物を見るような好奇心を含んだ表情をする。

だけどこの男は、私のことを値踏みするような、そしてわたしを通して何か嫌なものを見るような表情をしている。

何故だがわからないけど、その表情がわたしを怯えさせた。

そしてペローナと呼ばれた可愛い女の子から、ヒョイっとわたしを取り上げた。


モリア「手配書を見てまさかと思ったが…。だがまあ折角だ。ちょっと試してみるとするか。」

ウタ「ギィィー!!」


モリアがわたしをつまみ上げ、何かをしようとした、その時。


ルフィ「ウタを…、仲間をはなしやがれェ!!」

ペローナ「な…!?こいつ!?」


ネガティブになっていたはずのルフィが立ち上がり、唯一自由になる頭をを伸ばしてモリアに頭突きを放とうとした。

だけど…。


ドォン!!ドォンドォン!!!


突然ルフィが爆発した!?いや、ルフィがバズーカーか何かで撃たれたみたいに爆発して吹っ飛んだ!


アブサロム「油断するなペローナ!相手は曲がりなりにも3億の男だ!」


ライオンの顔をした男が何故か手をルフィの方に向けている。あいつが何かしたの!?

ボロボロになったルフィは改めてゾンビ達に念入りに拘束されてしまった。


ウタ「ギィ!ギィ!!」

モリア「キシシシシ!どうやら随分大切に扱われているようだな。さて、改めてこの“玩具”の影を頂くとするか。」

ルフィ「ウ…タ……」


ゲッコー・モリアがハサミみたいな形状の奇妙な剣を構える。

そして地面に落ちたわたしの影を掴んで…。


ウタ「ギィィ!!」

ルフィ「ウターーー!」


ルフィが叫ぶのが聞こえる。ごめん、ルフィ。わたし…。


ジョキン!!


影を斬られたわたしは、10年振りに意識を失った……。








『静まれ!!“玩具”の影よ!!』


声が聞こえる。…誰?


『おれがお前の新しい主人だ!!』


主人…?そっか。わたしは“影”だけど、元の体から切り離されたのか…?


『今からお前がゾンビとして生きるための声と肉体を与える』

肉体。…それに声?でも“わたし”は声なんて…?


『過去の一切の人間関係を忘れ去り、俺に服従する兵士となれ!!』


忘れる…?嫌だ!もう忘れるのも、忘れられるのもコリゴリだよ。でも命令には…逆らえな…い……。







動物ゾンビ「おい新入り、早くしろ!ペローナ様を守りに行くぞ!」

??「……(コクリ)」


わたしは動物ゾンビ177番。御主人様、王下七武海ゲッコー・モリア様の忠実な部下で、3怪人の一人、“ゴーストプリンセス”ペローナ様の指揮下にある。


わたし達動物ゾンビは個別の名前はない。ペローナ様に気に入られれば気紛れに名前をつけてもらえるらしいけど、大抵は番号で呼ばれるだけだ。だからわたしも名前はな…。



???「ウターーー!!!!!」


……?遠くから声が聞こえる。


???「待ってろよ!お前の影も絶対取り返してやるからな!!ウターーー!!!」



………。何故だろう。忘れたはずなのに、わたしが見たことが無いはずの光景が思い浮かぶ。


これはとてもとても大事な記憶。たとえ“わたし”が壊れて朽ち果てても、決して忘れてはいけない“わたし”の原点。


『歌が好きなのか?じゃあお前の名前は“ウタ”だ!よろしくな!ウタ!』


太陽のような眩しい笑顔。“わたし”が覚えている最古の記憶。

そうだ。なんで忘れていたんだ!


“わたし”は…、わたしの名前は……、“ウタ”!!



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