わたしのひかり
【ここだけ冥王レイリーに子供がいたら】Byスレ主ジンジャーバック・イーサンの両親、“冥王”レイリーとルナーリア族な母親の馴れ初め話
※2023/07/11改訂
此処は酷く寒くて凍えそうで暗い所。
いえ、違う。
薄布一枚でも過ごしやすいし灯りも点ってる。
それでも私は此処を凍えそうで暗い所だと思ってる。
私はあと幾夜を過ごせるのかしら…なんて、最近になって耐性がついてきた睡眠ガスが撒かれた部屋で考える。
何日か前に耐久実験とやらで耐えきれなかった、囚われている最後の血族であり同族であった男が…父さんが死んでしまった。
何時も庇ってくれていた大切な、とても優しい父さんが。
研究員達は『壊スツモリハナカッタ』なんて話していたけれど、どうせ彼等は消耗品くらいにしか思っていない。
あまり研究成果が出てくれないなんて焦っている様だし、きっと私も…。
嗚呼…それにあの子は大丈夫かしら。
いつも私の後ろに隠れてしまう様な、優しい子。
1年…いえ、2年くらい前に自力で此処を抜け出す事が出来た子。
せめて、最期には一目でも…。
そんな時、外から微かに爆発したかのような音が聞こえてきた。
(ばくはつ…?)
ガスで気怠い上体を起こすとジャラリと首や手足に着けられた鎖が音を立てる。
争うような音が近付いてくるのが分かるけど、何が起こっているのだろう?不思議に思うのと同じくらいに、ゾクリと身を震わせるような威圧感が身体を通っていった。
(いまのはなに?)
急に外が静まり返った。
先程の爆発でだろうが、いつの間にか睡眠ガスの噴射が止まっていたから体勢を変えようとする。
ガチャガチャと扉の外側についているだろうドアノブが音を立てた。
数秒ほど音は続いたが一瞬を置いて扉が吹っ飛んだ。
金の髪を持つ研究者と比べるのが間違いに思える体躯の人間族の男…それが扉を蹴り飛ばしたのだろう体勢でいた。
此処の研究者には見えないなと思うが、ふと思い出した。
研究者が見ていた手配書にあった顔。
たしかロジャー海賊団の…“海賊王”の右腕、“冥王”レイリー。
私を見ると僅かながら目を見張るもすぐに
「…大丈夫かな?お嬢さん」
などと声をかけてくる。
海賊とはこんなに友好的なのだろうかと頭の隅で考えつつ、男を見上げつつ1つ頷く。
嫌悪感を抱くような視線を向けてくる事も、ヒトではなく珍しい物を見る視線を向けても来ない…稀有な人。
人間族にしては少し大きいだろう節くれ立った手で、私に着けられた鎖を丁寧に外していく。
未だ力無く垂れ下がっている黒い翼に絡まないように全ての鎖を外し終わると手を差し伸べられた。
「…信じてくれなくても構わないが、此処を出る。だから、ついておいで」
炎がまだ灯せない状態だからか私が強張っているのが分かるだろうに、そんな柔らかい言葉をくれたから、つい差し出された手をとった。
あれから彼に連れられて、東の海でもあまり船が来ない自然の多い島に住むことになった。
東の海でも私の種族であるルナーリア族の事を知る者が少ないだろう、そういった種族などの情報に疎い地域で。
海の近くに村はあるけど用意してくれた家は山の上の、黒い翼も背に灯る炎も目立たぬ、人間族では来にくい場所。
其処で生きるのに必要な物は全て揃えてくれた。
そんな姿に、私は生まれて初めての“恋”をした。
いいえ、理屈をつけたけど本当は、手を差し伸べられた時からこの人に惚れていたのだろう。
きっと女の我儘を聞くのは初めてではないのだろうけど、彼は私の我儘を聞いてくれて。
褐色の頬に手を添えてくれて、お互いを見つめながら静かに距離が縮まった。
そして、私と彼は一夜を共にした。
心地好い気怠さと寝台の柔らかさに、炎も灯さず身を任せていると、隣の彼は上体を起こしながら私を見ていて。
「…ルルワ……俺のような男とは、関わらない方がいい」
名前を呼んで…そんな風に笑って、黒い翼を繕うように撫でてくれた。
彼と会うのは、それっきりになってしまったけれど…彼との“宝物”を腕に抱きながら、空を見上げる。
「貴男は…レイリーは“俺のような”なんて言っていたけれど、私にとって貴男は“生きる希望(わたしのひかり)”だったのよ。」
私も貴男も、お互いに“連理の枝”にはなれなかったけれど。
たとえ、私が貴男の“比翼の鳥”にはなれなくても。
この心だけは貴男と共に。
私が愛している唯一の…何処へでも飛んで行ける自由な“比翼の鳥(あなた)”