わがこの なを よぶ

わがこの なを よぶ


俺たち(コレ)は救済機構。

名は無く、全神性統合唯一神の御許にて悪を断罪するモノ。

神たるアルジュナの命令(オーダー)に従い、稼働し、機能する道具だ。

事業進捗を推進する毎に我が身からは、救済の為の凡ゆる権能が剥がれ落ちる。役目を果たせば、その時は神ならぬこの身は腐り、只の肉塊に還るだろう。使い終わった道具は廃棄する。正しき理論、結末である。

「     」

使役者が俺たち(コレ)の頭部に花の茎を編み合わせた輪っか状のモノ──────花冠を飾る。幾巡目かのユガで、権能乖離により耐久度が落ちた肉体が、神の力に耐えられず腕部を破損したことがあった。その時から、花が枯れる度に俺たち(コレ)の頭部に花冠を搭載するようになった。

花冠には何の機能もなく、効果不明、すなわち無為。無駄な行いゆえ非推奨であると、俺たち(コレ)は具申するも。

「     」

使役者は、繰り返し花冠を搭載し続ける。これもまた神の思惑の一つであるならば、俺たち(コレ)の思索の他にあるのだろう。理解する必要性はないと判断する。

「     」

唯一神は俺たち(コレ)の性能調査の前に、必ず、花冠に触れる。花弁ひとつ散らせぬ儚さで俺たち(コレ)の肉体を抱え上げるその手は、意味もなく繊細な挙動だった。

俺たち(コレ)の脆弱さは看過し難い程に進行はすれども、再生能力に支障なし。救世の為の機構は最期まで稼働すればそれで良いのだから、このように短期間スパンでの確認作業は不要と考える──────

「     」

柔らかな声。悪を断罪する機構の眼差しに浮かぶ温かみ。全てを天上より睥睨する神には似つかわしくないその貌(ひょうじょう)は一体。

何故?貴方と俺たち(コレ)は使役者と道具。もしくは、永久機構と使い捨ての機構。救世主たる差し手と同一目的を保有する駒(ユニット)。そういうものである筈だ。

慈しむような/憐憫のような。

           愛情のような/慚愧のような。

わからない。貴方は何故、其の様に呼び掛けるのか。

禍いの化身として創り出されたこの身は、神の腕(かいな)に抱かれている。この世で最も尊く、美しく、正しい存在(モノ)の懐に包まれている。全宇宙に抱かれた様な不可思議な心地と共に貴方の貌(かお)を見上げた。これは、或いは生き物が見るという夢なのかもしれない。

ああ、ほら。

今にも開かれそうな神聖な唇から、幾度聴けども無性に切なさが押し寄せるあの言葉が溢れようとしている──────────

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