らん拓ツバ?

らん拓ツバ?


「お兄ちゃん、あ~ん」

「……ほれ、あーん」


大きく開かれた口に一房のみかんが投げられる。

もぐもぐ。ごっくん。ぷはー。


「お兄ちゃんもういっこ!」

「……なあ華満。いつまで俺の膝の上に乗るんだ?」

「う~ん…拓海お兄ちゃんエネルギーが満タンになるまで?」

「なんだそりゃ。てかオレはただみかんのおすそ分けに来ただけなんだが……」

「だって拓海お兄ちゃん最近ぜんぜんらんらんのこと構ってくれないんだもん」

「そうは言うがな……」


チラッとこちらを覗く視線。拓海さんの耳はほんのりと羞恥のせいか赤くなっている


「あ、僕のことはお気になさらず…」


合わせる視線がなくて少しだけ気まずく逃げる。

ただたまたま居合わせてしまっただけでこんな状況に出くわすとは思わなかった。


「ふふ~ん。拓海お兄ちゃんはやくはやく。あ~ん」

「たく……ほれ」


ポイっとまた一個みかんが運ばれる。

仲がいいんだなぁ……。

少しだけ優しくしてくれる兄という存在に羨ましさを覚えた。


「あ、ちょっとごめんね」

「うん? どこ行くんだ?」


膝の上から飛び出したらんさんはそそくさと扉の方へと消えていき、ひっこっと顔だけを戻す。


「お手洗いだよ。拓海お兄ちゃんのエッチ」

「なっ……! べつにそういうんじゃ……!」


慌てふためく拓海さん。思わず握っていたみかんを落としそうになってさらに動揺が増す。

そんな最中、らんさんと不思議と目が合う。

らんさんはちょんちょんと拓海さんのほうを指さし、意味深な視線を送ってきた。示された場所がどういうところか理解したと同時にらんさんはトレイへと行ってしまう。


「あいつはもう……」


残された部屋にはようやく落ち着いて腰を付けた拓海さんと僕だけ。

先程の意味を知りたいけどらんさんはもういない。どうしたらいいのかわからず俯いていたら、


「悪かったな」

「え」


気が付けば拓海さんは僕の目の前に来ていた。

拓海さんはよっと僕の隣に座り、


「あいつ人目も気にしなくて気まずかったろ? ほら、お詫びじゃないけどみかん食べるか?」

「え、でも…」

「ソラの友達なんだろ。遠慮すんなよ」

「じゃ、じゃあ…」


ポンと手渡されたみかんを見つめると、不意に拓海さんの手が頭に置かれた。


「うまいぞ。食ってみろ」


にっこりと優しく微笑む拓海さん。

きっと彼はこうやっていつも誰かに優しくしているんだろう。さっきのらんさんやソラさんにするように。たぶん特別な意味とかはなく。


「………」


らんさんの指の差された場所。それはすぐ真横に来ていた。

僕はしばしみかんとその場所、そして拓海さんの優しそうな笑顔を交互に見て、


「あ、あの……」

「うん? なんだ?」




「ふぃーすっきりしたー。拓海お兄ちゃん続きしよー! ってひょわっ!」


帰ってきて早々奇声をあげるらん。目の前に広がる光景に目をまん丸くしている。


「あ、あ~ん」

「……ほれ」


パクリ。もぐもぐ。ごっくん。


「うまいか?」

「はい! とってもおいしいです!」

「そうか…。まぁならいいけど……」


拓海の膝の上でちょこんと座るツバサは目をキラキラち輝かせている。対する拓海はバツの悪そうな表情でみかんをツバサの口に運ぶ。


「なぁ…頼みたいことがあるって言うから聞いたけど……。これがいいのか……?」

「はい! とってもうれしいです!」

「う~ん……なら…いいのか…? これ…?」

「拓海さん。もう一個お願いします」

「ん、ほら」


パクリ。もぐもぐ。ごっくん。


「うん。やっぱりとってもおいしいです—————”拓海お兄さん”」


キラキラな笑顔で見上げるツバサの頬は少しだけ紅潮していた。





「……仲良くなってほしくてちょっとだけ貸すつもりだったのに、らんらんの想定の100倍はやく仲良くなってる。拓海お兄ちゃん恐るべし……」


自分の好きになった人がある意味怖くなった。


「てかもこうたーい! そこはらんらんの席!」

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