らくがき

らくがき

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  今日は寮に残ってお勉強。あなたはノートに顔を突き合わせ、何かをせっせと書いて忙しそう。邪魔しないように後ろ姿を覗いていると、だんだん筆の動きが鈍くなっていって、ついに居眠りを始めてしまった。冷えてくる頃なのになんて無防備な格好。毛布を担いで机に向かうと、ふとあなたの手元に目が行った。

  何を書いていたのだろうか、どうしても気になってあなたの傍らにあったノートを手に取った。開くと植物の絵が描かれていた。どれも丁寧な筆運びで、眺めるだけで楽しめた。次のページを見てみるが、こちらは描きかけのものが多い。……?空白の多くなったページの裏にも、何かが書き込まれているようだ。何気なくめくると、 そこにあったのはわたしの絵だ。描きかけだが、前のページの絵より明らかに進んでいる。これもあなたが描いたのか。食い入るように見はじめた矢先、あなたが目を覚ましてしまった。目の前のわたしとノートを交互に見て、あなたは照れくさそうに頭を掻いた。

「スケッチのまとめをしてたんだよ。柑橘ばっかり見てたら君のこと思い出しちゃってね。君の絵なら筆が進むのになあ。」

ここはお勉強の方はよろしいのですかと心配すべきところのはずなのに、なぜか言い出せなかった。むしろわたしの絵を完成させてくれと思っている自分がいた。

「今日中に終わらせるから、明日は一緒に遊ぼうか。」

わたしをひと撫でした後、あなたは毛布を膝にかけ直して、またノートとにらめっこをはじめてしまった。

  わたしもまた後ろに下がって、それでも邪魔してしまう気がしてボールに入った。ペンが走る音を遠くに聞きながらわたしの絵のことを考える。些細なことでわたしのことを思い出してくれたことが嬉しかった。大切な人の脳裏にわたしが刻まれている気がして。それが分かっただけで十分だ。完成させるのは贅沢だから、ノートの一面に残っていてくれないかなという結論に至った。



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