ゆかり/のりたま

ゆかり/のりたま


>>32のタイトル空目から浮かんだネタ(こういうのも三次創作になるのだろうか)
黒炭カバジネタかつ現パロで黒炭家の親戚設定(ふわっと多少の年齢調整ありな感じ)
口調のブレとかはボワンスーしてください
二人以外の人物は舞台装置の完全なモブ炭家です



子供や若者にとって、法事だ何だのといった親戚筋の集まりほどつまらないと思うものはそうそうないだろう。

行事そのものも退屈で、大人たちには可愛がる、懐かしむといった体で好き勝手言われ、宴会のご馳走を楽しみたくても運が悪いと酔っ払いと煙草や香水の混ざった臭さに邪魔をされる。

帰りたくても帰れないそんなだらだらした時間に付き合うこの毎年の苦痛にげんなりしていたカバジは被害を避けて人の少ない一角で適当に皿の上へと箸を伸ばしていたのだが、そこにふと台所の女衆から声がかかる。

「ちょっとカバジ君、手が空いてるんだったらちょっと小さい子たちの面倒見たげてちょうだいな。私ら誰も手が離せなくって行ってあげられないのよ」

ええ…、と思いつつも女衆=祖母、母、おばといった子供の逆らえない筆頭の集まりとあってははいかイエスしか答える選択肢はない。

「……わかったけど、おれ子供の相手とかどうすんのか知らねえぞ」

クラブにいる下の学年の男子とつるむのとはわけが違うだろうし、ヤンキーとまではいかないがどちらかと言えば不真面目な方にカテゴライズされる見た目な自覚もある。

しかしため息をついて渋い顔をするカバジの心情など知っちゃこっちゃないというように両手に大きな皿が押し付けられた。

「あーいいのいいの、とりあえず外出たりお酒飲まされたりしないように見張って、あとご飯だけでも食べさせてくれたらいいから! はいこれ!」

見れば子供でも食べやすい大きさにした何種類かの小さいふりかけおにぎりとウインナーなどのおかず類が山と盛られている。

これを食べさせて気を引いておけという事なのだろう。仕方ないと腰を上げたカバジは子供たちが固まって座っている一角へと移動する。

走り回っては大人たちの間で構われてるタイプと、つまらなさそうにしつつも怒られるのが嫌なのか席についたり手いじりしているタイプがいる。

(あっちが見張る方でこっちが飯か。まったくめんどくせェ)

「ほらよ、母ちゃん連中からだとさ。これ食って大人しくしとけ」

カバジはそう言いながら子供たちが食べなさそうなつまみ類をどけると持たされた皿をどんと置いて端の空いたスペースにドカリと腰を下ろす。

おにぎりだ玉子焼きだからあげだ、とわらわらと寄ってくる子供たちに喧嘩すんじゃねェぞと一声かけてあとは目だけやって放置を決め込もうとコップを煽った。

意外にも大きな問題を起こす様子もない子供たちを横目で見つつ、明らかに多すぎて余りそうな皿のものを二つ三つ摘まんでいると、ふいに隣から「うぅ~っ!」とつらそうな声があがった。

悪ふざけが過ぎて変なちょっかいでもかけられたのかと視線を向けてみると、手には一口齧られたおにぎりを持った、顔のパーツが全部中央に寄ったような顔でプルプル震える女の子の姿があった。

「なんでやんすかこれは…! きれいな色だと思って食べたらすっぱいでやんす! 梅干しじゃないのに梅干しの味がするでやんす…!」

どうやらすっぱいのが得意ではないのに、知らずに食べてしまったらしい。

誰かに騙されたとかでもなく完全に自爆のようで、全身で「すっぱい!」を表現するその様子にカバジは思わず吹き出してしまった。

「わ、笑うなんてひどいでやんす! お兄ちゃんが持ってきたものでやんしょう!?」

しっかり聞かれていたようで、半目になりながら口をとがらせたその子にカバジは「いや持ってくように頼まれただけでおれが作ったんじゃねえし」と肩をすくめて見せる。

「うう…これは一体なんなんでやんすか? おらこんなふりかけ食べたことねえでやんす」

解せぬといった顔で手の中の残ったおにぎりを見つめる少女は「梅干しの粉でやんすか…?」と呟いている

「あー…そりゃ『ゆかり』だ。たしか梅干しと一緒に漬けてるシソを使ってんじゃなかったか」

あまり子供には好まれない類の渋いチョイスだが梅干しそのものよりはまあ食べやすいだろうといった感じの味だ。それでも酸っぱいものが苦手なその少女にとってはきつかったのだろう、また味を思い出したのかキュッと口元に力が入る。

「食えねェんなら残してそこの小皿にでも置いとけ。これなら食えんだろ」

やれやれといった風にカバジは万人受けするであろうのりたまのおにぎりを取って口直しにと少女に差し出す。

「あ! のりたまでやんす!」

一瞬ぱっと表情を明るくした少女だったが、すぐにしゅんとした顔でうつむいてしまう。

そして食べかけのおにぎりを握り締めたまま逡巡するように僅かに持ち上げては戻すといった仕草を繰り返す少女にカバジは怪訝な視線を向けた。

「何やってんだ、ほらこっち食えばいいだろ」

「…ダメでやんす。お米は粗末にしたらいけないんでやんす。残したらバチが当たるんでやんすよ、だから…うう…」

そう言って頑張って食べようとするのだが、味を思い出して行動に移しきれず固まってしまっている。

親や先生であればその頑張りを待ってあげたりもしたのだろうが、初対面の子供相手にカバジが根気よく待てるはずもなく、早々に痺れを切らしたカバジは空いた手で少女の持つおにぎりを取り上げると乱雑に自分の口へと放り込む。

「ほぇ、ふぉれれいいひゃろ」

行儀悪く咀嚼しながら、これなら文句はねえだろと言わんばかりに持っていたのりたまおにぎりを少女の手に置いてやった。

一瞬の出来事に目をまんまるにしながら手の中のおにぎりとカバジに視線を往復させた少女に目もくれず、ああめんどくせえとカバジは適当なおかずに手を伸ばす。

その横で少し戸惑いを残しながらも少女は渡されたおにぎりを口に運ぶ。

それで終わり、のはずだった…のだが。


「なー見た!? 見た!? お玉のやつ知らねえにーちゃんと間接ちゅーしたぞ!」


突如大声で放たれた無遠慮な子供の声に、その場の空気ががらりと変わった。

周りの子供、特に男子の一群がいいオモチャを見つけたとばかりの勢いで色めき立っている。

「口付けたやつ食ーべたーらかーんせーつちゅー! わー、やーらしーんだー!」

「知ってっか? ちゅーしたらケッコンすんだぞ! けーっこん!けーっこん!」

「ひゅーひゅー! お玉すすんでるー!」

好き勝手に囃し立てる様は完全に悪ガキの様相なうえに集団心理で完全に図に乗っている。

カバジくらいの年齢ならあーうるせェ、と右から左に受け流して終わりだが、幼い少女には言われた言葉がダイレクトに突き刺さってしまったのか顔を真っ赤にしながら動揺してしまっていた。

「ち、ちが…っ、違うでやんす!」

「なにが違うんだよー! おれ見たもんね!」

反論できず涙目になった少女はプルプルと震えて相手を睨みつけている。

このまま泣かれても困るし手が出ても面倒だと思ったカバジは、先頭に立って囃し立てている一人に向かってニヤリとした顔を作って見せた。

どうせ、理由なんてたかが知れてる。

「なんだお前、先をこされてそんなに悔しいのか? そりゃ残念だったなァ?」

余裕たっぷりのカバジのその言葉に、今度は少年の方が言葉に詰まったような顔をして顔を赤くした。

「はァ!? ち、ちっげーし! 何言ってんだばーかばーか!」

「ああそうかい、ならおとなしく飯でも食っとけ。まだ言い続けるようなら図星って認めた事になるからな」

「ううっ…!」

すごすごと引き下がった悪ガキ集団に余計な手間かけさせんなとため息まじりの文句を言いながら、カバジは子供の相手はこりごりだと目を閉じて後ろに寝転がった。

数分の小休止くらい許されるだろうとふて寝を決め込むカバジはその寝顔に小さな視線が向けられている事に気づくことはなかった。

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