ゆうべは おたのしみ でしたね!
晴信が目を覚ますと隣に景虎が寝ていた。全裸で、あちこちに紅色を散らして、健やかな寝息を立てながら寝ていた。「晴信…私の許可なく……先に逝ったら、許しませんよ………」なんて、どんな顔して聞いたらいいのか分からない寝言も言っていた。
「…………マジか」
妙に気怠い身体と、ぎいぎい呻き声を上げる腰。引っ掻かれたり噛みつかれたりした痕はひりひりと存在を主張している。
あたりを見渡してみれば床には二人分の服が脱ぎ捨てられていて、敷布はじっとりと色々な液体で濡れていて、部屋には湿り気を帯びた空気が満ちていた。間違いなく艶っぽいナニかの後だ。現実から目を逸らすには痕跡が残りすぎていて、晴信は頭を抱えたくなった。
「あぁ……やっちまったな、これは」
晴信の記憶は酔った景虎との会話で途切れている。『そろそろ飲むのを止めた方がいい。明日に響くぞ』『酒は百薬の長ですよ?たくさん飲んでもいいとアスクレピオス大先生が!』『いくらなんでも言い訳が適当すぎる!』『言い訳じゃないですよぉー本当に言ってましたぁー』とっても下らないやり取りの後、どうしてこの事態に至ったのかはふわふわしたピンク色の靄の中だ。
「………………はぁ」
特大のため息が空気に溶けていく。
景虎と体を重ねるのはこれが初めてじゃない。晴信が誘ったことも、景虎に誘われたこともある。酒の勢いで行為に至り、肝心の記憶が吹っ飛んでいるというのは初めての経験だが。
「あ゛ぁ──…………」
『景虎が起きたらどう説明しよう』『反応によっては謝罪すべきかもしれない』そんなことばかり考えながら、晴信は布団の上で唸り続けた。
景虎が起きるまであと数分。