やっちゃった

やっちゃった


「…つき きれい」

その日はとても月が綺麗な満月の夜でした。ちょっとやんちゃで大人しい女の子は窓の中から空を見上げます。女の子は家から出た事がありませんでした。窓と扉越しでしか見たことの無い外、憧れが女の子の体を衝き動かしました。

女の子はお爺さんと二人で暮らしています。お爺さんは怖いですがとっても強いので女の子は素直に言う事を聞きました。

お爺さんはいつも言います。「家から出てはいけない」と…

…でも女の子は我慢できなくなってしまいました。自分の好きな可愛らしい服を着て軽い帽子を頭にかぶせます。

そして、そっと静かに…お爺さんに内緒で夜のお散歩へ出かけました。


「……♪ たかいばしょ どこ?」

お月さまは空高く輝いていました。一人のわがまま女の子は月触るために高い場所へと向かいます。

初めての外はとても楽しい物でした。横に波打った壁や暗いのに出来る自分の影、少し寒い風…全てが初めて感じる物でした




女の子は一つのもの音を聞きました。しゃん、と鈴が落ちる音でした。

「おと なに?」

好奇心旺盛な女の子は音が聞こえる方向へと歩いていきます。

家と家の間にある暗い道…そこに入り込んだ瞬間、見知らぬ大人に腕をふるう掴まれました。

「……はなして」

腕を振ると大人は不機嫌な顔になります。

「抵抗すんなガキ、暴れんじゃねえよ」「可愛いねえ…俺とお茶しない?」「バカだなお前!こんなチビに何求めてんだよ!」

女の子にとってもとても不快でした。自分の思う通りにならない人間達に腹が立ちます。


なので殺す事にしました

「…」

「あ?何だガキその目ギャア?!」

「は…何が起きデガ」

「来るな化けもゴキャ!!」

悪い大人達は次々と首を落とされ、体を小さく切断されていきます。

あっという間に、その場は女の子と大人だった肉の欠片だけになりました。赤黒い色の水溜りが鏡のように女の子を写し出します。白の髪は赤い斑点がつき、赤くなった瞳と合わせて縁起の良い紅白のようでした。


そんな風に自分を眺めていると、後ろから声がかかります。

「卯づ…っ、何をやっている!!!」

振り向けば聞いたことのない怒鳴り声を上げたお爺さんがいました。普段は物静かで欲しい物もくれる優しいお爺さんでしたが、この時ばかりはまるで鬼のように恐ろしく感じました。

「なに…なに…」

「…ああ………もう良い、行くぞ」

「いく どこに?」

「隠しに行く。お主を死なせないために」

女の子は非常に怖くなりました。今まで怒鳴られた事は何回もあります…しかし、この一周回った冷たく冷静な態度は初めて見た物で、捨てられてしまわないかと無償に心配になりました。

言い淀んだ女の子を連れ、お爺さんは細切れの肉片を全て持ち山へ向かいます。幸い、明日は雨だそうです。鉄の匂いを発する水も雨と一緒に流れていくといいます。

山へつき、お爺さんは穴の中へ肉片を入れました。見つからなければ御の字、獣に食べられていても身元は分からないでしょう。


お爺さんが必死に隠している間、女の子は空を見ていました。

「きれい」

月が優しい光を放っています。図らずとも女の子は目指していた高い場所につきました。両手を伸ばして捕まえようとしますが、月に触れる事はできません。

「何をやっておる」

お爺さんが来ました。

「……ごめんなさい」

「二度とするなよ」

「わかった」

「…なら良い」

静かな時間が過ぎ去ります。月が傾くまで二人は一緒に眺め続けました


おわり

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