もっとはやくに
ウタを少しでも元気つけようと、ルフィがウタに今までの冒険を話しているとまた部屋がノックされる。そうして入って来たのは橙色の髪をした女性で、ロビンもだが、ずっと同性との交流がなかったウタは思わずジ…と見てしまう。
「ルフィー、ちょっとウタ借りても大丈夫?」
「お?ナミ?なんか用か?」
「ええ、船から色々取ってきたから……あ、はじめましてよね。私はナミ。ルフィの船の航海士よ」
「ナミさん?」
「あー、私の方が歳下だからそこまで畏まらなくていいわよ?気楽に接してちょうだい。他の奴らも…よっぽど接し方間違えてない限り良い奴らだから」
「う、うん…えっと、それで…私に、なんの用事?」
そこまで話して、ナミがニッと笑って手にしてた袋を掲げる。色々入っているのかゴソゴソと音がしている。
「色々取ってきたの。化粧水とか、ヘアオイルとか」
「?」
「折角可愛いのにやつれちゃって勿体ないもの!磨き直さなきゃね!これから一緒にお風呂でも行きましょう?」
「え、あ…」
「…行ってこい!おれ、ここで待ってるからよ」
「う、ん」
まるで迷子の子供の様にルフィを見て、ルフィの意見を受け取って、流される様にウタはナミに連れられて城の大浴場へと連れていかれた。
「わあ、やっぱりお城なだけあってお風呂も豪華ね〜!!貸切じゃない!!」
ナミの言う通り、エレジアの城の大浴場は広い。一人で使うと虚しくなる程。
だから普段は狭い個人用の浴室を使っていたのだが…まぁ、こうして誰かと入る分にはいいのかもしれない。
「ほらウタ、ここ座りなさいよ!洗ってあげるから」
「そんな子供みたいな…」
「なあに言ってんの!指、それだと滲みて痛いでしょ?それに、こういう裸の付き合いはバカにならないわよ」
なんというか先程のルフィといい、もしや自分は今すごい手がかかる子供みたいに思われていないだろうか…それとも彼らが世話焼きな性分なのか…分かるのは、断るのは難しそう、という事だった。
「えっと、じゃ、じゃあ…お願い、するね?」
「うん、任せなさい」
そうしてナミはウタの髪を洗い始めるが…本当はチョッパーに言われてウタの身体を少しでいいから診て欲しいというものだったが……
「(…ひどいわね)」
噛み跡の酷い手以外は基本的に血の出た様な傷はない…が、恐らく幻から逃げようとする際にぶつけてると思われる痣が少しある。殴られたものではない位置なのは安心したが…それでも、白い肌にその痣があるのは中々辛いものがある。
なにより酷いのは、やはりちゃんとした食事をとってない事による、不健康な痩せ方をした身体だ…同世代の女性…それも自分を救ってくれた船長の幼馴染がそんな状態となれば、世話くらい焼きたくもなる。
ナミはなるだけ痛くない様に、解す様に、ウタの紅白の髪にお湯をかけて泡を流していった。
「あ、の、ナミさ、ナミ…本当、乾かすくらいは自分で…!」
「い、い、か、ら!ヘアオイルも使ってあげたいし…」
「う……なんで」
「ん?」
「なんで、そこまで…ルフィが此処に来た理由も分かんないし……」
「え、アイツ言ってないの?…うーん、まず、私とか、船員に実は歌手としての貴方知ってた奴が数人いるのよ」
「!」
思わず肩が跳ねる。つまり、それは…私が、配信をしなくなった事に違和感を覚えたという事…ファンを待たせて、しまったという事
「ぁ、の、ごめ…」
「で!心配してたら…ルフィが貴方の名前聞いて「ウタって名前で歌が上手い友達を知ってる」とかいうから…」
「……しんぱい」
食い入る様に言葉を遮られた辺り、気を遣われたのだろうが、その気遣いを無碍にしないためにウタはそこに何も言わず、ルフィとナミ達、の会話から彼らがエレジアへと来たのだと分かった。
ただ、それよりも、心配。という言葉に少しだけ面食らう。
そんな事はをもらえると思わなかった。基本的に、自分はファンからは「救世主」として扱われたりしてたから…配信中に海賊が来たりすれば確かに心配はされていたがこんな風に行動また起こされて言われるのはいつぶりだったろうか。
ゴードンはいたけど…元々なんとなく一歩引いた関係だっただけに真実を知ってからはなおのこと距離をとっていた…
だから、そんな言葉が聞けたことにウタはパチクリと目を瞬かせたのだ。
「……」
「さ、分かったなら…諦めて世話焼かれてくれない?」
「え、いや、だから…なんでここまで…」
「そんなの決まってるわ。ルフィの友達なら助けないと…なにより、船長のルフィが守りたいと言うなら船員として守る。それが当たり前よ」
ああ、話を聞けば聞くほど分かる。彼ら彼女らは…【いい海賊】なのだろうなと。
あの日から…信じたかった。信じていた。信じられなくなった。海賊に対する印象。ファンの言葉通りに素直に受け取って「嫌いだ」と気安く零した…結果取り返しが付かなくなった自分にとって、もっと早くに出会いたかった存在。
「なんか面倒なこと考えてるわね?」
「っ、え…っと…」
「ま!いいわ、貴方が言いたくないなら聞かない。こっちで勝手にやっちゃうわ」
そうしてナミに肩を押す様に座らされ、櫛を使って、ヘアオイルなんかを髪に馴染ませてくる。
…ルフィに似てる人が集まったのかな?それとも、皆がルフィに似ていったのかな?どっちが正解かは分からないが……ああ、本当に、もっと、早くに出逢ってしまいたかったと自嘲じみた笑みをナミに隠れて零しつつ、柑橘のいい匂いに、ウタはなんだか苦しくなった。