もしも桐生戦兎がシャーレの先生になったら……

もしも桐生戦兎がシャーレの先生になったら……


「あぁもう! いくらなんでも数が多過ぎよ!」


 青く澄んだ空の下、平穏な日常の風景が流れていたであろう大通りから一転、弾丸が飛び交うような戦場となった場所で少女は叫ぶ。

 腰まで伸ばした菫色の髪をツーサイドアップにし、黒いブレザーの上から白いジャケットを羽織る少女の名は「早瀬ユウカ」。

 この学園都市「キヴォトス」の中でも有数の学区───「ミレニアムサイエンススクール」に通う二年生だ。

  本来なら今日も変わらずミレニアムの生徒会会計として事務作業を行っているはずの彼女が、なぜ学区外にまで赴いて愛銃と共に不良を相手取っているのか……それには深い事情がある。


「痛っ! 痛いじゃないのよ!」


 前線に出ていることもあって被弾の多いユウカが苛立ちと共に弾丸をばら撒いて不良を牽制する。

 統率をとろうとしない不良達が相手ということもあって適当にばら撒くだけでも命中する。

 だが、この数は流石に分が悪いと言わざるを得ない。


 仲間をやられたことで逆上した不良達がユウカに対して集中攻撃を行おうとし─── 


───Ready Go!

「伏せろ早瀬!」

「っ!」

───Vortek Break!!


───その瞬間、ユウカの背後から機械的な音声と共に男性の声が聞こえ、その指示にユウカは従って身を伏せた。


 直後、ユウカの頭上を黄色い鎖状のエネルギーが通過して、不良達を縛り上げて拘束する。

 その縛り上げる力と鎖の強度はキヴォトスの生徒であっても抗えず、縛り上げられたまま地面に転がることとなった。


「フー……修理完了! さっすが俺! こういう時のためにドライバーに再構築システムを搭載しておいたんだよな~! すごいでしょ!? 最高でしょ!? 天っ才でしょー!?」

「先生……喜ぶのは良いですが、早瀬さんの無事を確認しないと……」

「……ハァアアア……」


 あっという間に不良達が制圧されたことに目を見張ったユウカの背後から、場違いともとれるテンションの高い声が聞こえる。

 その声の主は、先程ユウカに回避するように指示を出した人物と同じであり、いわばユウカを危機から守った人物と同一人物なのだ。

 しかし、そんなことをしておきながら自分にはねぎらいの言葉の一つもないのかと、動けなくなった不良達の様子を確認したユウカは、安堵とも呆れともとれるため息を吐くとともに、自身の背後にいる「とある人物」に詰め寄った。


「"桐生"先生! 今のは何なんですか!?」

「いや~我ながらほれぼれする出来だ~。他にも"ホークガトリンガー"とか"4コマ忍法刀"とかも修理出来たら───」

「話聞いてますか!?」


 これは「青春の物語」に紛れ込んでしまったとある天才物理学者、そしてその仲間達が織りなす───


───愛と平和の物語である。

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