むかし?ばなし 愚者の贈り物

むかし?ばなし 愚者の贈り物


 ポメラニアンは唸り声をあげていました。

また目当てのものが出なかったからです。

そう、現在横浜ランドマークプラザ5階ではエイプリルフール企画の学パロを題材としたコラボカフェが開催中。学パロ時空のキャラを題材としたフード・ドリンクメニューをお楽しみいただけると共に、1オーダーごとにランダムでおまけのノベルティがもらえてしまうのです。これは行くしかありませんね。

ポメは己の不運に自覚がありました。していたので、準備もちゃんとしていました。ちゃんと頼み込んだら聞いてくれそうな人を同伴として連れてきたし、メニューは初手で全品最低一つずつはオーダーしています。

でもダメです。基本的に本人がするものに関しては、どれだけ努力しようとも運ゲーでは絶対に勝たせないというのが彼女の生まれついた星の持つ基本方針でした。

三周目に突入したコーヒーを啜りながら、ポメは己の限界を悟りました。カフェイン量が致死量とかそういうの以前に、胃が悲鳴をあげています。

 ポメはおやつこそたくさん食べますが、別に大食いキャラではありません。普段事あるごとにぱくぱくもぐもぐしているように見えますが、与える側も実はお腹の余裕のギリギリを狙って与えています。青ざめた顔で本日二皿目のメインディッシュを食べながら、ポメはリルトットを連れてくればよかったかなと思いましたが、数秒後に思い直しました。財力の点で言えば在庫が枯れるまで食い尽くしてしまっても問題はないのですが、それは流石に他のお客さんにも店員さんにも迷惑だからです。

ちなみに同伴者は通算四皿のご飯を平らげた後に二つ目のケーキに突入しています。

そんなに食べるのにいつも見た目が頗る美しくスマートなままなのは不公平ではないのか、とポメは思いましたが、それは頗る見当違いな感想。彼は毎日昔ポメから課された修行メニューを自主的に負荷率を上げながら再現することを日課とし続けてもう千年ほど経ってしまった人外なので、食べた分のカロリーはその日のうちに消費されてしまうのでした。日がな一日愚かなことをしているか部屋にこもって漫画を読み書きしながらおやつを食べているバカとは、そもそもの前提が違うのです。

まあ顔が良くあり続けるに越したことはないわよね、と勝手に結論をつけて、ポメは戦利品を見下ろします。大体揃ってる、というかダブってるね…と言えるぐらいには揃っていました。

もちろん、目的とするただ一枚を除いての話です。ギンなんてもう三枚はあるのに、最大目的の一枚はいまだに姿を見せる気配すらありません。まあこれについては後で乱菊にでも送りつけとくとして、どうしたものかしらとポメは頭を抱えました。

その時です。隣の席から「あー…」と少しがっかりしたような声が聞こえました。 見たところ、女学生達のようです。

コラボカフェのメニューというものは割高なものです。少ないチャンスに一点がけをせざるを得ないような客もおり、彼女達もその一人で、そしてその賭けに今まさに敗北したところであるようでした。

ポメは今まさにドカ食いタイムアタックに挑んでいる最中ですが、これはバカだからこそできる所業なのです。常人が同じ真似をするようなものではありません。それを斟酌せずに再チャレンジをしろというのは、いささか酷な話でした。

食べ続けるのに飽きてしまったポメは、半分までは頑張ったカレーを同伴者に押し付けながら隣の席をこっそり観察します。

小さな声で「見てみて、あのテーブルの上のグッズ。雨竜が好きなのかしら。見る目あるわね」と囁きかけると、同行者は無表情のまま極めて不快そうな気配を発しました。

わからせが足りないかなあ。ポメは少し眉を顰めます。いちいち言わなくても理解させているはずなのに、目の前で他人を肯定された程度でむくれる気持ちがポメにはわかりません。わかりませんが、とりあえずしばらく目を合わせておくと機嫌が治りがちなことは理解しているので、無心で目を見つめておくことにしました。

機嫌が戻ったようです。勝ったな、と思いながら意識を戻せば、いつの間にかテーブルの上の食事は綺麗に片付いていました。 

お見事、完食です。ついでにお時間です。さっさと諦めてご退店ください。

諦めてとぼとぼと店内を後にすると、どうやら時をほぼ同じくして食事を終えた隣のグループも店を出るところのようです。

しばらく首を傾げて考えた後、ポメは立ち去るところであった少女を咄嗟に呼び止めました。

訝しげに見つめ返してくる相手を見つめながら、ポメは袋にしまってあった束を取り出します。

「私、いつもついついムキになってしまうから持ち帰ったもののしまい場所に困っちゃうの。少しもらって頂けるかしら」

人に物を頼むものとは思えないほどふんぞり返った態度ではありましたが、ちゃんと相手の目当てであろうものをまとめてあります。

頭の中を「おなかいっぱい。ねむい。かえりたい。」という感情で満たしながら、ポメはぐいっと彼女達に手持ちのものを押し付け終えます。ミッション完了です。

対価?そんなものを求める気持ちはポメのデフォルト機能ではありません。外付けならばなくもないのですが、ねみぃのですっかり忘れてしまっています。

誰かの気持ちを晴れやかにすること、ひいては子供のQOLを上げて世界のレベルをまたひとつ向上させること以上に大切なことはこの世に存在しませんよね。

帰りましょ、と同行者に声をかけようとすると、そんなポメの背中に声を投げかける人がありました。

見れば、先ほど余ったコースターを1、2枚ばかり押し付けた少女ではありませんか。

「あの、これ」と、少女が何かを差し出します。見れば、下の階のショップで売られているランダムグッズの一つです。

そう。現在横浜ランドマークプラザの4階ではBLEACHのアニメ20周年記念企画と連動して特設ポップアップショップが開催されています。コラボ中のランドマークタワー展望台でも購入できるグッズに加え、新規に描き下ろされたイラストを使用したアクリルスタンドなどが購入できるのです。これはますます行くしかありませんね。

他ならぬポメラニアンも同行者がどこからともなく差し出してきた整理券で無事入場することに成功し、目当てのグッズを入手してきたところでした。当然ランダムグッズは当たるはずもないので、最初からコンプリートBOXで購入しています。時には冒険しなければいけない時があるというだけで、ポメは基本ギャンブル全般好きではないのです。

少女が差し出してきたのは、そんなポメが狙いの品として目をつけていたものの一つでした。しかも二枚組です。

よくわかったなあとポメは首を傾げていますが、それは実の所全然不思議なことではありません。

現在ポメは全身に痛バッグを抱えていました。その色とりどりな様は、さながら全身で汎アフリカ主義を表現しているかのようです。そこにぴっちり敷き詰められたブツの様を見れば、一目でわかるのは当然のことです。

コンプリートBOXを購入しているということは、つまり差し出されたそれはどちらもすでに持っているものではあるということです。しかし、ポメの場合幸運値の都合で二枚目を手に入れようとすると一万三千二百円かかってしまいます。とても不経済です。

じゃあまあ普通にありがたいしありがたくいただくけど、ぐらいのノリで礼を言えば、少女は友人の後を追うようにいそいそと去っていきました。

今日も気分が良くなったのでプラマイで言えばプラスね!

これで寝覚めも最高確定です。そんな事を考えながら、単細胞生物ことポメは帰りの車で爆睡するのでした。




ちなみに、ポメが目当てにしていたノベルティは数日後にグッズ箱を開けたら保存用布教用実用用の三種に分けて収納されていました。

どういうことなのでしょう。これしまっておいてねとグッズ全般を丸投げした同行者(物を綺麗にしまうのがとても苦手なポメは小物収納係を業務委託しています)に尋ねたところ、「善行を為す者には必ず相応しい報いが訪れるということでしょう」という返事をされました。

そういうことではありません。

まあ目当てのものを手に入れられるならそれに越したことはないのでしょう。ポメはとりあえず相手の頭をわしゃわしゃと撫でまわし、ついでにこの間足りないかなと思った分の調教を改めて行うことにしました。

こうしてポメはめでたく壁中にお目当てだったグッズを敷き詰めて息子にどういう感情かよくわからない顔をされ、界隈ではどこからともなく現れて特定キャラのグッズを無限回収してくる謎の金髪外国人男性がしばらく語り種となりましたとさ。

めでたしめでたし。

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