みんなで歌おう!

みんなで歌おう!

 レイレイ


〜ゴーイングルフィセンパイ号〜


新世界の荒れ狂う気候を乗り越え、ひとまず波も落ち着いた夕方の一時、わたしは癒やしを求めてルフィに抱きついた。


ウタ「つ~か~れ~た~…」

ルフィ「おう、ウタ。ご苦労さまだったな!」

ウタ「ほんとだよー、なんでこんなことにィ…」


ルフィに後ろから抱きつき、顎をルフィの肩の上、人形時代からの私の定位置にのせながら愚痴を言う。


ウタ「まさか航海士無しでここまでたどり着ける海賊がいるなんてねー…」

ルフィ「ししし、あいつらすげェよな!」

ウタ「笑い事じゃないよー…。まあルフィのファンなら仕方ないのかなァ…」


ルフィの大ファンだという海賊バルトロメオと彼の率いる海賊団バルトクラブ。わたし達麦わらの一味はドレスローザからゾウへと先行したナミ達に追いつくために彼らの船に乗せてもらったんだけど…。


この船には航海士がいなかったのだ!

なんで“新世界”まで辿り着けたのか本気で謎だけど、まあそういうものなんだろう。


ともかく、それがわかってから大変だった。

ルフィとゾロは論外として、器用なウソップも航海術は持ってない。フランキーも船を修理したり改造したりはできるけど気候や波を読める訳では無い。頭のいいロビンも海図を読んだり風や気温から天候を予測する術までは持っていない。

辛うじてトラ男君は知識があったけど、彼はこの船唯一の医者だ。つい先日まで重症で休んでたのに航海士の仕事までさせたらまた倒れちゃう!

そんな中、頼りにされたのが、9歳から12年間玩具にされて、先日人間に戻ることが出来たわたしだった。


わたしは人形時代、ルフィが船出する前から彼の助けになればとせっせといろんな知識を吸収していた。航海術や最低限の医術など、眠りも食事も必要ないわたしはルフィの寝ている夜中にマキノさんやダダンから貰った本をよんで勉強していた。


仲間が増えてからも、時間があればナミから海図の見方や天候の予想の仕方、星の位置から現在地を知る方法等を教えてもらっていた。少しでも皆の役にたつためにと学んでいたことが活かされて、最初は結構嬉しかった!

けど…。


ウタ「うぅ…、ナミー。早く会いたいよォ…」

ルフィ「そーだなー。やっぱナミは凄い奴だよなァ…。でもウタもすげェ頑張ってるし、お陰で助かったよ。ありがとうな!」


まだまだ慣れない体で、必死に声を張り上げみんなに指示を出し、ビブルカードとにらめっこしながら船の針路を確かめ、海流や海王類に襲われる影響でズレてゆく針路を調整する。


口で言うのは簡単だが、ナミがいつもどれだけ大変だったのか身をもって思い知った。


ウタ「ゾウでナミに会ったら早速お礼を言わないとね。いつもわたし達を無事に目的地まで連れて行ってくれてありがとう、ってさ!」

ルフィ「おう!そうしようぜ!」

ウタ「エヘヘ〜」


そんな風にルフィと雑談してると、ちょっとずつ気力も回復してきた。


ウタ「よーし、休憩終わり!針路の確認してくるよ!」

ルフィ「…おう!頼むぞ、ウタ!」


なんだかちょっとだけ名残惜しそうなルフィを残して、わたしは甲板に向かい、ビブルカードの指針を確認する。

うん…、大丈夫。


ふと目を向けた先に、水平線に沈んでゆく夕日が見えた。



ウタ「綺麗…」



夕日は人形のときも何度も見たはずなのに、わたしはその光景に見惚れてしまった。


♪ビンクスの酒を届けにゆくよ♪

♪海風 気まかせ 波まかせ♪

♪潮の向こうにで 夕日も騒ぐ♪

♪空にゃ 輪をかく鳥の唄♪


自然と口ずさんだのは、小さい頃から何度も聞いて歌った思い出の歌。ルフィと一緒に船出した後、ブルックが仲間になってからは船の上でよく聞いていた“海賊の歌”。


12年間ずっと、わたしはこの大好きな曲を聞くだけだった。皆が楽しそうに歌うのを見るのは好きだったけど、わたしだけ仲間外れな気がして、時々寂しくなった。


♪♪♪ヨホホホー ヨーホホーホー♪♪♪


気がつくと、周りにルフィや一味の皆、それにバルトクラブの人達にトラ男君まで現れて、皆で“ビンクスの酒”を歌っていた。


♪♪♪ビンクスの酒を届けにゆくよ♪♪♪


皆が肩を組んで、わたしもルフィやロビンと肩を組みながら歌っている。



わたし達の陽気な歌声が、波が穏やかになった新世界の海に響いてゆく。



ここにいない仲間達に、盃を交わしてルフィの子分になった大船団の皆に、ドレスローザのレベッカやキュロスさん達に、そしてこれまで冒険でお世話になったいろんな島の人達に、そして、シャンクス達に、どうかこの歌声が届きますように。



わたしは、わたし達は元気だって、皆に伝わることを願ってわたし達は夕日が沈むまで、“ビンクスの酒”を歌い続けた。



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