みみなり。 #音瀬コタマ

みみなり。 #音瀬コタマ


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『■■■■■■■■、■■■■!!!!!』

『──■■■■■■■、■■■!? ■■■■~■!!!』


 ──うるさい。

 うるさい、うるさい、うるさい。

 うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさい!!


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 ……あの日から。

 耳鳴りが、鳴りやみません。


 あの日……私たちヴェリタスは、攫われたユウカを一分一秒でも早く助けるために死力を尽くしていました。

 そしてそれは、私だって例外ではありません。


 単純なハッキングの腕前なら部長や副部長には及ばない私ですが、それでも自分の得意分野であればできることはあります。

 私は……学園中にばらまかれたあの動画の音声から、ユウカの居場所を突き止めるための手がかりを少しでも突き止めようとして。

 耳を澄ませて、ほんの小さな物音も聞き逃さないように。

 あの場面を、あの音声を。

 ずっと、ずっと、ずっと──何十回も何百回も何千回も、吐きそうになるくらいにリピートしてきました。


 ……今も、頭の裏で。

 暴力の音が。下卑た男達の笑い声が。泣き叫ぶ後輩の声が。悪夢のような所業が立てる、吐き気を催すようなノイズが。

 ……耳の奥に。脳裏にこびり付いて離れないんです。

 ずっと、ずっと、聞こえてくるんです。

 まるで……今もすぐ耳元で「それ」が行われてるみたいに。


 ……ただ聞いただけの私でさえ、これなんです。

 当事者であるユウカの苦しみなんて……私にはきっと、想像すらできないもので。


 あの日から、ずっと……

 どんな音を聞いても、どんな声に耳を澄ませても……あの悪夢みたいな声は途切れない。途切れてくれないんです。

 もう、何も聞きたくない。何の音も、誰の声もない。静かなところへ行きたくて……


 でも……静かなのが、怖い。

 だって、声に怯えて耳を塞いだって何の意味もない、頭の裏からまたあの声が響いてきて、それで……

 ……こわい。きもちわるい。こわい。いやだ。いやです。こんなのいやです……いや、だよ……!


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 ──耳を塞ぐようにヘッドホンを被って。

 ぎゅって両耳を抑えて、何も聞こえないようにして……私は震える指で、録音していた音声データの再生ボタンを押します。


“あい──してる──よ コタマ”

“コタマは──いいこ──だね”

“いつも──コタマに──は──たすけ──てもらって──い──るよ”

“だいすき──だよ──コタマ”


 耳元で囁くような、優しい……でも、ちょっとだけ会話の繋ぎ目が不自然な声が。

 いつも通り……ほんの少しだけ、私の心を癒してくれました。


 ……先生。

 せんせえ。

 わたしのだいすきな、せんせい。


 ……いやだ。いやだ。わたし、こんなのいやだ。

 綺麗な音を、心地いい声だけを聞いていたいのに。

 耳鳴りが、罵声が、悲鳴が、鳴りやまない。鳴りやんでくれない。

 どうしよう。どうしたら。どうすれば。これじゃ、もう。わたしは、もう。


“──私が──つい──てるよ、コタマ”


 ……たすけて。

 たすけて、せんせい。


 ──たすけて。


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