まどろみの告白

まどろみの告白

黒庭勇者さん

 酒場。今日は人が少なくなってきたタイミングで入ったから、そこまで賑わっているわけではない。


「ここのお店のお魚のソテーは美味しいんですよっ」

「本当だ、味わい深くていいかも」


 笑顔でそう言葉にする水遣いと食事を味わって、ゆっくりとした時間を過ごす。飲み物もオススメのものを用意してもらった。わたしたちは二十歳あたりの年齢。未成年じゃないから、お酒も飲める。


「葡萄酒です。ちょっと強いかもしれませんが、今日の成功祝いということでっ」

「酔っぱらったらごめんね」

「いいえ、大丈夫ですよ。乾杯」

「乾杯」


 そっと葡萄酒を口に含み、飲み込む。ちょっとくらっとくる味わい。なるほど、なかなか強いお酒だ。

 のんびり味わっていると、だんだん意識がぼんやりしてくる。お酒には慣れてないから、なんだか斬新な感覚だ。


「美味しいですねぇ、勇者様ぁ」

「うん、なんだか大人な時間」


 夜の酒場で仲間と一緒にお酒を嗜む。勇者として喚ばれる前は考えられなかった時間だ。

 ふと、水遣いの顔を見つめてみる。頬が紅潮している。少し酔っぱらっているのだろうか。


「ねぇ、勇者様」

「なに?」

「勇者様って好きな人いるんですかぁ?」


 急なコイバナ。その言葉に対してどう返答するか悩んだけれど、正直なことを言うべきだろう。


「特に興味を持ってる男性とかはいないかな」

「よかったですぅ、勇者様だけ結婚とかされちゃったら寂しいのでぇ」


 そういって彼女はお酒を再び嗜む。……私よりも呑むペースが速い気がする。気がついた頃にはふらふらになっていた。


「ふ、ふふっ、勇者しゃま~」

「わ、水遣い?」


 頬をすりすりしながら水遣いが私に迫る。大人びている彼女が甘えている姿にどきどきする。彼女の表情はふにゃりとしていた。


「わたしは好きな人いるんですよぉ、わたしだけのかっこよくってすてきなおうじさまがいてぇ、いつも守ってくれるっ! みたいな」

「……そっか」


 王子様。私のキャラじゃない。

 水遣いが困っているときはいつも助けているけれど、王子様みたいな人を求めているのなら私は……


「えへへ、しゅきなんです。りんとしててぇ、かっこよくって、すてきでぇ」

「……うん」


 駄目だ、嫉妬しちゃっている。

 その、王子様に。

 嬉しそうに離している彼女にモヤモヤしてる。


「すてきで、すてきなんですがぁ、う、うええええんっ!」

「ど、どうしたの?」


 突然泣き出した彼女の肩を支える。かなりふらふらだ。感情が爆発しているように感じる。


「勇者しゃまは、どうしておんなのこなんですかぁ! だんせいのかただったら、お付き合いしたいって言えるのに! なんで、おんなのこなんですか……?」


 問いかけるように尋ねる彼女。

 それで、理解する。

 彼女が好きな人は私だったんだ、と。

 安心する。そして、焼きもちを妬いていた私自身に苦笑した。


「勇者しゃま、好きです、好きなんです、受け止めて、水遣いを受け止めて……ください」


 涙目になりながら、迫る彼女。

 酔っぱらっていても、生真面目で、不安を言葉にする彼女を誰が否定するだろうか。私は、そっと抱き寄せる。


「勇者しゃま、だいすきです……うぅ」


 そう言葉にすると、彼女は酔い潰れてしまった。すぅ、すぅと私の身体に身を預けて眠ってしまった。


「ちょっと、ずるいよ。水遣い」


 そっと彼女の肩を叩きながら呟く。

 言いたいことをたっぷり言って、私の気持ちを色々かき回して、だけど最後には嬉しい気持ちにさせてくれる。彼女の想いはしっかり私に届いている。


「私も水遣いのこと、大好きだよ。いつか、ちゃんと伝えあおうね」


 頭を優しく撫でながら彼女を運ぶ。

 お酒が本心を伝えあうきっかけになるのなら、こういう時間も悪くはないのかも。そんなことを考えていた。

Report Page