まとめスレSS
リリーvsワイ・巻藁
『注意』
続きを読んでもらうにあたって注意点がいくつかあります。
一、かなり長いです、あと20000文字くらいあります
二、リリーの内心にかなり偏った独自解釈があります。
三、かなりショッキングな能力をワイが使います。
四、あくまでワイとリリーが戦う世界線の結末と割り切った上で呼んでください。
それでもよろしければ駄文お読みください。
青色光。
青光。青光。青光。青光。青光。青光。青光。青光。青光。青光。青光。青光。青光青光青光青光青光青光青光青光青光────青き光の矢が幾百幾千という光の軌跡を描きながらたった一つの標的に向かって殺到する。
驚くべきはその一発一発が全て隊長格の死神を一撃で屠るほどの威力を持っていることだ。
はたからみれば天の川のような光景だが、その実態は極大にして超高密度な確殺攻撃である。それはもはや矢ではなく柱に近いだろう。
必中にして必殺にして殲滅。
一個人に向けられるものとしては常軌を逸した殺意の塊だ。
それを放つのが美しい水色の髪を靡かせた少女。見えざる帝国の次皇帝候補であり、最優の滅却師。
千年もの時を自己の研鑽に捧げた天才中の天才。
「────‘疒王’ッ!!」
ギリッ、と端正な顔を歪めながらリリーは己の力を解き放つ。既にその姿を光の奥に消し飛ばしたはずの仇敵に向けて。
轟音と共に巻き起こる暴風。まるで隕石でも落下してきたかのような衝撃と爆音が周囲に響き渡る。
凄まじいまでの霊圧。
滅却師にとって基礎にして奥義と言える霊子の収束。激情によって制御された膨大な霊子が周囲一帯の空気を押し潰し、圧縮していく。
そして────。
「
卍
解
」
リリーは聞き逃さなかった。爆音の中から微かに聞こえてきた声を。
青白い光の中に渦巻き出す黒く淀んだ紫の霊圧。同時に押しつぶされそうだった周囲の圧力が消え失せる。リリーは自分の放った光の奔流がかき消されたことを理解しながらも油断なく身構えていた。
黒い鬼道の光の中心には一人の男が立っている。死覇装を纏った少女にも見間違うほど線の細い男。その顔は病的なまでに白く、不健康そうな印象を与える。
しかし、その目だけは爛々と輝き、口元は三日月のように裂けている。そして何よりも特徴的なのは男の全身を包み込むように渦を巻く黒衣だ。
それはまさに闇そのもの。ユーハバッハをして最悪と評したほどの悪辣の具現。
「えらい美人さんやと思ったら、まさかアンタとはなァ────滅却師の姫さん」
不吉、不気味、露悪的、冒涜的、悪意的、敵意的、邪悪的。およそ人を表す言葉として相応しくないそれらの単語を煮詰めて凝縮させたような存在がそこにいた。
1000年前、当時の死神たちによって設立された護廷とは名ばかりの殺し屋集団、護廷十三隊。
その一つ、四の字を担っていた隊長の一人。
その名も、朽木倭玄。
数千年前の古き時代から生きる最古参の死神にして最低最悪。
「あなたこそ老いて死んでいればどれだけよかったことでしょうね、ご老体」
リリーは大聖弓を大気中に番えたまま、吐き捨てるように言う。その表情は氷のように冷たく鋭利なものへと変わっている。
「勘弁してくれ、人生半分。ワイはあと5000年は生きるつもりや」
一方、そんな彼女の視線を受けても尚、倭はヘラヘラとした態度のまま肩をすくめた。
滅却師と死神。厳格と軽薄。対極に位置する二つの種族の間に流れる空気は決して友好的なものとは言えない。
二人は互いに理解していた。今この瞬間において最も優先すべきことは眼前の敵を始末することだということを。
互いに1000年前に殺し損ねた仇敵を今度こそ仕留めるためにここにいるのだ。先に動いたのは倭の方だった。
彼は両手を広げるとそのまま頭上に掲げる。すると、彼の身体から溢れ出した霊子が集まっていき、一つの形を成していく。
「縛の八番、封遞黑縄」
それは漆黒の縄。
数百本にも及ぶそれがまるで意志を持つかのように動き出し、リリーに向かって伸びていった。
リリーは冷静にそれを迎撃するべく大聖弓を構えた。霊子の矢を放ち、迫り来る縄を撃ち落とす。しかし、その隙を突いて倭は更に一歩前に出ると一気に距離を詰めた。
大聖弓の弦が弾かれる。霊圧を帯びた矢が放たれるが、倭はそれを紙一重でかわすと、リリーの首筋に手刀を叩き込ん────
「’万物貫通’」
───ザ・イクサシス───
そんな彼女のつぶやきと共にリリーの大聖弓から放たれた光の矢が倭の胸元を貫く。
死覇装を、皮膚を、肉を、骨を、臓器を一緒くたに貫かれた倭はそのまま吹き飛ばされる。幾重にもかけていた鬼道の護りを破られ、致命の一撃を貰ったのだ。当然の結果である。
「(そないなもんはどうでもええッ!!)」
────即興・パンダインワックス────
あの一瞬の間に発動させた鬼道と白打を組み合わせた隠密機動至上の白兵奥義にてほんの一瞬、リリーの知覚から外れた倭の手刀は間違いなくリリーの首を刎ねたはずだった。
「(────すり抜けた?)」
防がれたなら分かる。しかし、リリーの首に当たったはずの手にはなんの感触もなかった。それどころか当たった瞬間、ずるりとリリーの首を貫通するかのように抜け落ちてしまった。
当然ながら幻などではない。確かに実体のある身体のはずだ。
だが、おかしい。
何故、斬撃がすり抜ける? おかしな霊圧は感じなかった。
滅却師の使う聖唱であれば霊圧感知に優れた倭が気付かぬはずがない。
これまでに経験のない事象に戸惑いつつも、戦闘経験豊富な倭はすぐに我を取り戻し次の行動に移った。
まずは体勢を立て直すため、霊力による足場を蹴り上げ空中へ退避した。その直後、先程まで倭がいた場所に巨大な光の柱が立ち昇った。
「(あれで死なないのだから大概反則ですね……)」
敵の能力に困惑しているのは何も倭だけではなかった。確かに心の臓を貫いた彼女の滅却聖矢は確実に敵の命を絶っていた。
しかし、現にこうしてピンピンとしている目の前の男を見て、リリーは内心舌打ちしたい気持ちを抑えていた。
滅却師にとって彼が死なずの死神であることは1000年前からの常識だ。
最強の死神の称号である剣八が幾度斬られても倒れない在り方を指す血に塗れたものとすれば。
朽木倭玄、最悪の死神である彼の在り方は何度斬り殺しても蘇る不死身の怪物のそれ。
それが朽木倭という男の正体だ。
「(陛下ですら殺しきれなかった不死の魔物を私が─────いえ、私だからこそ殺せる!!)」
斬魄刀の能力か、或いは鬼道か。からくりはどうでもいい求められるのは彼を殺せたという結果のみ。
滅却師の祖であり、最強の王であったユーハバッハですら倒せなかったこの化け物を今度こそ討ち果たす。
それは数多の手段を持つ自分だけが為し得ることなのだと、彼女は確信していた。
「銀の盃よ、南より来て、左方へ傾け(オッツ・セゲェ・ディア・エンケンス)─────聖柩・法笏王座!!」
リリーがそう叫ぶと、彼女の周囲に無数の銀柱が現れた。それらはまるで彼女を囲うように円を描くと、その内側に膨大な数の光の円環を浮かび上がらせる。
「さあ、始めましょう。1000年前の続きを」
────
──
─
滅却師の扱う唯一の呪法、聖唱。
リリーの唇から紡がれしそれは滅却師の王たるユーハバッハのそれをあるいは上回る程の絶大な威力を誇こる。
大気そのものが浄化されたような感覚に倭は思わず目を細める。この世に存在するありとあらゆる穢れ、邪悪を祓い清める神の光。
その名のとおり、まるで錫杖のように先端に十字架の付いた銀の坏が聖域を作り出す。
そして、その中心に立つのはリリー。
彼女の周囲には数十本の聖槍が浮遊しており、その全てが今にも飛び出そうとするかのように、その切っ先を倭へと向けている。
それは神罰の具現。
罪ある者に裁きを下す断罪の権化。
彼女が右手を上げると、一斉に聖槍が射出される。一本一本が必殺の威力を持つそれを前にして、倭は冷静に状況を分析しつつ最善の行動を取る。
──────── 破道の九十六、一刀火葬。
詠唱破棄によって発動した禁術。焼け焦げた己の身を失う事を対価にしてのみ発動する事を許される九十六番犠牲破道。
本来であれば敵の攻撃によって焼け焦げた己の腕などを代償に対象を焼き払う技であるが、卓越した倭の技量はそんな前提条件すら覆す。
先ほど矢によって待機中に散った血液に残ったわずかな霊力を遠隔的に励起、瞬時に周囲の霊子を操作し、残った僅かなリリーの霊圧さえも消費することでその炎熱を最大限に高めた。
聖槍を乱立する爆炎の刃が迎え撃────つうこともなく爆炎の刃を一切の抵抗なく『貫通』して迫る聖槍の群れを前に倭は笑う。
「(やっぱりな、その能力『軸』やろ?)」
槍が装填されたその時点でその対角線からわずかに体をそらしていた倭に聖槍が突き刺さる事はなかった。
道理は知らないが能力の本質は『軸』だと倭は推測している。仮にリリーの能力が俗に言う『無敵状態』であれば倭の体はすでに消し飛ばされているはず。
『射線上の軸』。少なくとも遠距離からの放出攻撃であれば必ず通る直線上の軸が存在する。
彼女の能力はその軸を『固定』するものなのではないかと。事実、彼女の能力の影響下にあるはずの大聖弓の射線上の破壊は『一切歪んでいない直線』として残っている。
故に、回避は容易かった。
聖槍の弾幕を回避しつつ、倭は鬼道を起動させる。
──────── 縛道の六十一、六杖光牢。
リリーを中心に展開された光帯が彼女を縛り上げる。
しかし、するりとリリーの身体をすり抜けるようにして通り抜けた。当然、拘束が意味を成すことはない。
だが、それでいい。
これはただの『検証』だ。
既に準備は整った。
倭は左手で懐から取り出した小瓶の栓を抜き、中身を地面にぶちまけた。
「(まずは呼吸)」
鬼道の光でわずかにかすんだリリーの視界に捕らえられぬように撒いた薬剤。
無味無臭無刺激の無色透明の水薬は瞬く間に空気中に拡散していく。そして、その効果は直ぐに現れた。