また逢う日まで

また逢う日まで


皆!!今までありがとうな!!!大好きだ!!

そう彼は叫ぶ。そして仲間のだれもが涙一つ見せず笑顔で送っている。

そう。これは以前のような喧嘩別れの悲しい別れではない。海賊王の狙撃手となり、勇敢な海の戦士になることができた彼自身の新たな一歩なのだ。

仲間全員が、そして彼の横にいる村にいる指を絡ませながら手を繋ぐ一人の綺麗な女お嬢様も、子供たち三人も皆が笑顔だ。

彼から村にいるお嬢様の話を何度も聞いている。その彼女に帰ってきたらウソのような冒険談を聞かせるのだと。何度も。私にも向けたことがないような笑顔で。そんな彼を見るたびに心がホンワカするのと同時にちょっとだけ、自分でも気が付かないくらいの嫌な気持ちも湧き上がるたびに、自分のことを嫌悪したくなった。

彼女は本当に素敵な女性だ。彼が帰ってきた時にどれだけ傷を負っていても治すことができるように医者の勉強に励み、彼女に来たお金持ちや、優しい男性のお見合いをすべて断りただ一心に彼の帰りを待っていたのだから。

そしてついに帰ってきて、ずっとこの村に定住するのだと、そしてずっと横にいてほしいと彼からは想像できない男らしい表情と台詞から女性なら誰もがあこがれる言葉を聞き涙なく勿論です!と力強く放った彼女と彼の間には誰も立ち入ることのできないナニカがあった。

誰の目から見ても素敵なハッピーエンド。みんなが笑顔になれる幸せな物語の締め。子供たちの中に小説家を目指すものがいたが彼の生涯をそのまま書くだけでも大ヒットするだろう。

でも、やっぱり私は悪魔の子なのだろう。こんな甘さ満載の彼の物語に一点だけ苦味を加えたくなった。

出発前日の夜、子供たちのうち一人が経営する酒場で彼の新たな門出を祝う宴の最中、酔い覚まし中の彼の横に座る。彼はいうまでもなく幸せそうな顔だ。どうやら彼は今後三人組の子供のうち一人が建てた家兼病院でお嬢様のサポート兼心のお医者様になるようだ。

そんな幸せ満載の彼にちょっといじわるしてみたくなった。いつものやっていた意地悪や悪戯に対して今までのように大きな声で返してほしかったからだ。

「ねぇ・・・。私もアナタのことが好きだったのよ。長鼻クン」

そういって驚いた顔をした彼に素早く頬に口づけする。その後はひたすら海岸のほうへ逃げ去る。追いつかれないように。そして一粒だけどうしてもこらえきれなかったソレを見られないように。


それからは船の中で寝てしまい、気が付けば出発の時刻になっていた。あれから彼と会って弁解することもなく。別れてしまう。このままでは、一生彼に消えない傷を背負わせてしまうことになるのでは?今後の彼の新婚生活に影響が出るのでは?そんば不安ばかりめぐってしまう。彼の綺麗な物語に泥をつけたのでは?そんな不安ばかりめぐる。

船が島から遠ざかりまだ手をみんなで振っているがそれでも不安な顔は消せない。笑顔で送りたいのにどうしてもうまくできない。その申し訳なさと情けなさで視界がぼやけだした竿の時…

パンパンパン!!!!

船の上空に花火が上がっている。そこには私たち一味の顔が施された花火が昼の明るい空の上で光っていた。

「昨日あいつが徹夜で作っていたのはこれか。」

「でも夜じゃないから正直あんまり見えないね。」

「締まらねぇな。あいつらしいけど。」

「でもよくできているし綺麗だよ!!」

仲間がそう言いながら感心し見上げていたその時私の身体に何かがあたった。よく見るとそれは紙だった。みんなが空を見上げているその隙に紙を拾い上げ読んでみる。そこには・・・

「応えられなくてごめん!!!でもお前が仲間の一味で俺は幸せだった!!勇気を出してくれてありがとう!!」

思わず視界が滲む。そうだ。だから私は彼を好きになったんだ。誰よりも臆病で、勇敢で、誰よりも弱くて、強くて、誰よりも優しかった彼だから好きになったんだ。

やっと心の中の霧が晴れた。ここまで優しくされっぱなしでは絶対にダメだ。私も彼のような勇気を一度でいいから出してみたい。目をこすり思わず手すりに捕まり力の限り叫んだ。

「ありがとう!!アナタのこと一生忘れないから!!」

目一杯の笑顔でそう叫ぶ。普段の私から想像できない大声と表情で。そのせいで周りのクルーからも驚いた表情をされたけどかまわない。

私も彼のような勇気を出せたことにちょっとだけ自分を誇らしく感じることができた。私は彼のことが好きな自分をやっと好きになれた。


彼にはまた会えるのかもしれないし二度と会えないのかもしれない。それでももしもう一度会えるのならば、彼とたくさんのお話をしたい。ウソのような冒険談を。そう思ったらなんだか心が踊ってしまう。だから私は船長にこう言うんだ。


「私、早く冒険がしたくてたまらない病になってしまったみたい。」



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