また、猫が繋いでくれましたね
「……よし、周りに人はいないな」
ここはカナイ区のとある裏路地。僕が仕事の合間に見つけた……癒やしの場だ。
「よしよし、慌てるな。今日はミルクと魚の赤身を持ってきた…こら、取り合いをしては駄目だ。…ふふ、気に入ってくれたようだな」
…他人には基本的に秘密だが、僕は猫が好きだ。写真で見るのもいいが、こうして実際に触れ合うのは格別だ。……最も、僕は猫アレルギーなので直接触れ合う事はできないのだが。実にもどかしい。
「今日も元気そうだな。…君たちの仕草だけでも、僕は癒やされている…ありがとう」
「猫、お好きなんですね」
「ああ、いつも彼らから元気を貰って……………!?」
しまった!気配に気づかなかった!
「あっ、ハララさん。大きな声を出しちゃ駄目です、…猫が驚いてしまいますから」
「君は……!」
ユーマ=ココヘッド。カナイ区に集められた探偵の一人が僕の横にいた。…よりにもよってこいつに見られてしまうとは…完全に不覚だ。
「…君は何故ここにいる?他の探偵達に、保安部の……僕の弱みでも探ってこいとでも言われたのか?」
「そんな理由じゃありませんよ。買い出しの帰りに裏路地に入って行くハララさんを見かけて…たまたまです」
「…随分と、それらしい理由だな」
…こいつと初めて顔を合わせたのは、アマテラス急行の時だ。誰と勘違いしたのか、初対面にも拘わらず、馴れ馴れしく僕の名前を呼んだのだ。…そして人違いだと分かると同時に、まるで誰かに裏切られたかの様な表情をしていたのは、良く印象に残っている。…訳の分からない奴だ。
「…何れにしても、君にとってはいい収穫だろう。あの時、君を捕らえようとした僕の弱みを握れたのだからな」
「弱みなんかじゃないでしょう?ハララさんは、ただ猫が好きだという事、…それは弱みなんかじゃない。
寧ろ、とても素敵な事じゃないですか」
「…何だと?」
「猫に話しかけている時…ハララさんはとても優しい顔をしていました。自分以外の誰かにあんな顔が出来るハララさんは……やっぱり、優しい人なんですね」
…やはり、訳の分からない奴だ。たったそれだけで僕を知ったように言っている。
……だが何故か、そこまで不快な気分にはならなかった。
「…僕と君は敵同士だ。それだけは…何があっても変わらない。それを忘れるな」
「今は…そうですよね。でも僕は、それで終わりにはしたくない。ハララさん達とも親しくなりたいんです。…何度対立しても、諦めませんから」
「…とんだ物好きだな、……勝手にしろ」
「はい、勝手にさせて貰います」
「僕は仕事に戻る。……分かっているだろうが今回の事は他言無用だ。…いいな?」
「分かっていますよ。お仕事、頑張って下さい」
ユーマ=ココヘッド。見た目に違わずのお人好しのようだ、…昔の自分を見ているようでイライラする。だが彼には不思議と心を開きたいと考えている自分もいる。…要注意人物だな。
咥えた飴の味は少し甘かった。
けれど何故かその甘さは…心地よく感じた。